オリジナル童話

太陽の子ども~前編~

2020年11月15日

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 私は太陽。

 日々、月と交互にこの世界を照らしている。
 私が見守るこの世界には様々な種族が共存している。例えば、威勢よく天を飛び交う竜族。空と陸を自由に舞う鳥族。壮大な大地を駆け巡るケンタウロス。海で鮮やかに踊る人魚。水や火を操る精霊たち。なかには魔法を使うことに長けた魔法族などもいる。

 皆、私と月にとっては可愛い子どものようなものだ。
 なんて愛しいのだろう。

 

 そんな私には、最近、特に目にかけている子どもがいる。

 名をミアと言い、歳は確か14ぐらい。短めのボブに淡い黄色の羽が似合う、目のクリっとした鳥族の可愛らしい娘だ。

 ミアは私が身体を濃い橙色に染め、夕暮れを世界に知らせ始めた頃、街と森を繋ぐ一本の長い坂道のてっぺんに現れる。本来、この時間になると、皆、足早に学校や職場から森へと帰っていく。そして、私が月と入れ替わり、街にぽつりぽつりと灯りがつき始めた頃、今度は魔法族の者が街へとやってくるのだ。

 そして今日もまた、いつもの時間にミアはこの場所へとやってきた。街を一望できる坂の上から、森に背を向け、じっと下の方を見つめている。そんな彼女の背後から、同じ年ごろの鳥族の少年たちが声をかける。

「ミア、帰らないのか? 半人なんだから、飛べなくったって当たり前だろ? 無理に練習なんてしなくたっていいじゃん。一緒に帰ろうぜ」
「そーだ、そーだ。そんなに飛びたいなら、今度、籠にでも乗せて、皆で運んでやるぞ?」

 それを聞いた精霊たちがクスクスと笑い、哀れみを浮かべた顔で、鳥族の少女たちが続く。

「ちょっと、やめなさいよ。可哀想じゃない」
「そうよ、可哀想よ」

 今度はそこに、ケンタウロスの少年たちが割って入る。

「別に飛べなくとも、我らと共に走ればよいではないか」
「でも、半人だ。我らのスピードにはついてこれまい」
「うむ、では、ミア殿。我らの背に乗るか?」

 次々にかけられる言葉。それらに、ミアは決して振り向くことなく、一言、答える。

「私!! ……練習していく。先に帰ってて!」

 普段通りに振舞っていたが、空から見守る私には全てお見通し。ミアは必至で震えを抑え、キュっと唇を強く噛みしめていた。

「なんだよ、せっかく声かけてやったのに。いいさ。皆、森まで競争して帰ろうぜ!」 
「いいぜ。あそこの木の頂上に一番に止まった奴が勝ちな」
「私たちも負けないわ!」
「ふむ。我らも陸から参戦しよう」
「いくぞ、よーい、ドン!!」

 そうして、彼らはミアをひとり残して、楽しそうに森へと帰っていった。

 少しずつ遠くなる精霊たちの笑い声。鳥族の羽ばたく音。ケンタウロスの地を駆ける、地響き。
 それらを感じながらミアがボソッと呟く。

「私だって、飛べる。別に、可哀想じゃない」

 ミアの言葉が私の胸を締め付ける。なんだか熱いものが込み上げてきてしまった。私の身体の熱はさらに上昇してしまったかもしれない。

 私は必死で火照りを抑えながら、ミアの寂し気な姿をじっとみつめていた。すると、彼女は急に顔をあげ、深呼吸を始めた。

 いよいよか。私はゴクリと唾を飲む。そして、ミアが走りだす。かなり勢いはついている。そう、そのまま。……1、2、3! 

 そして、彼女はテンポよく地面を踏み切った。羽を目一杯広げる。まるで私に向かってくるかのように。彼女の身体が一瞬、ふわりと宙に浮いた。

 よし、いいぞ。頑張れ、ミア。私まであと少しだ。

 しかし、一転。浮き続けるために羽を動かそうとしたその時、ミアの身体が大きく傾いた。私から遠ざかっていく。

 ああ、頑張れ。風に乗るんだ。

 そう思うも、願いは届かず、彼女の身体が地面へと近づいていく。私は思わず目を瞑った。そして、ドシンと音が響き渡る。
 恐る恐る目を開けると、ミアが坂の上でしゃがみこんでいた。今日も滑り出しはあまり良くなさそうだ。

「もう一回!」

 そう叫ぶと、ミアは再び坂を上り、同じように助走をつけて坂を勢いよく踏み切る。そして、一瞬宙に浮いては、身体を支えきれずにまた転げ落ちていく。あの鈍い音を響かせながら。それを何度も何度も繰り返し、彼女はひとつ、ふたつと傷を増やしていった。

 ああ、私にも何か彼女にしてあげられたらば。手伝うことは愚か、声をかけることさえできない自分がもどかしく感じた。

 ミアがこんなにも熱心に練習をするのは、先ほど子どもたちが言っていた半人という言葉にも原因があると、私は推測している。

 半人とは血統を表す言葉だ。時折、地上世界から迷い人として、人間という種族が紛れ込んでくる。人間というのは、非常に頭はいいものの、ケンタウロスのように速く駆けることはもちろん、魔法族や精霊のように魔法を使うこともできない。それ故にこの世界では弱き者として扱われている。それでも、時にその人間と恋に落ち、子を成す者がいる。そして、そうして生まれた子のことを能力的に半人前、流れている血が半分人間、という意味をかけて、半人と呼んでいるのだ。

 ただ、正直な所、私はこの呼び方が気に入らない。そもそも、このように血統で分けること自体、理解できないのだ。何故なら、私にとっては、誰一人欠けることなく、この世界に生きる全ての者が可愛い子どもで、愛しいのだから。

    まぁ、例の言い方が嫌いなので、あえて遠回しに言わせてもらうと、ミアには半分、人間の血が流れている。
 特別、表立って苛める者はいない。それでも、今日の様子からしてもミアやミアの家族は疎外感や複雑な感情を抱くことも少なくはないだろう。

 ただ、ずっと世界を見守ってきた私から言わせれば、別に人間の血が流れているからといって、能力が劣っているということなど決してない。もし、何か違いがあるとすれば、それは生まれもって本能的に知っていることが違うということだ。

 例えば、鳥族にスポットを当てると、彼らは生まれながら本能的に飛ぶことを知っている。厳密にいうと、風の読み方を当たり前のように知っているのだ。だから、練習せずとも自然に飛べる。一方のミアは本能的に風の読み方を知らない。それ故に、今はまだ飛べないのだ。けれども、能力的に飛べない訳ではない。なんなら、彼女は風の読み方を知らない代わりに、人間のように学ぶこと、追究することを生まれながらに知っている。けれども、鳥族の子らは生まれながらに学ぶこと、追究することは知らないのだ。だから、もし、風の読み方さえ覚えれば、ミアは皆と同じように必ず飛べるようになるだろう。そして、鳥族の子らもまた、経験を重ねることで、少しずつ学び、人間のように何かを追求することができるようになるのだ。

 そう、血統によって、何かしらの優劣があるのではない。何度も言うが、ただただ、生まれ持って本能的に知っていることが違うだけなのだ。しかし、肝心の愛する私の子どもたち自身がその事実を知らない。それがまた、もどかしい。

 そして、何度目の鈍い音が響いた時だっただろうか。私は建物の陰に一人の少年が立っていることに気がついた。漆黒の髪に黒いローブ。少し長めの髪と深くフードを被っているので表情こそ見えないが、整った顔立ちをしていそうだ。格好からして、恐らく、魔法族の子であろう。歳はミアと同じくらいに見えるので、14~15歳くらいだろうか。彼は声をかけるわけでもなく、姿を見せるわけでもなく、ただじっと陰からミアの練習の様子を眺めていた。

 この時間にミア以外の人影をみたのは久しぶりだった。

 私が少年に気をとられていると、「いたっ……!」という声が響いてきた。慌てて視線をミアに戻すと、彼女の膝が血で滲んでいた。どうやら、転げ落ちたところに鋭利な枝が落ちていたようだ。遠くから見ている私まで、なんだか痛い。それでも、ミアは決して泣くこともなければ、弱音を吐くこともなく、数分しゃがみ込んだ後、ヨロヨロと坂を上り始めた。さらには、森に背をむけ、再び飛ぼうと、坂の下を見下ろしている。

 まだ、練習しようと言うのか! 熱心なのもいいが、もっと自分を大事にしなさい。

 私は声をかける代わりに、いつもよりも少し早めに月にバトンタッチをすると、いそいそと身を隠した。

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