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はじまりの物語

2021年8月10日

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 太陽は月と交互にこの世を守っている。

 

 月が地上を照らしている時は太陽が地下を照らし、
 太陽が地上を照らしている時は月が地下を照らしながら。

 二人にとって、自分たちの光を浴びる全ての者が可愛い子ども。愛しい存在。

 地上の者も、地下の者も、大切に大切に二人で守っていたのです。

 

 けれども、あることをきっかけに、それは大きく変わります。

 ある者はそれは人魚が涙を流したからだと、
 ある者はそれは魔法使いが禁忌をおかしたからだと、
 ある者は竜が天を飛ばなくなったからだと、
 ある者は鳥族が森からでなくなったからだと、
 ある者はケンタウロスが心を閉ざしたからだと、
 ある者は太陽と月が喧嘩したからだと言うのです。

 きっと、その全てが真実で、そのどれもが正解で、そのどれもが間違いなのでしょう。

 

 とある人魚の姫が恋をしました。
 けれども、それは叶わぬ恋でした。
 なぜなら、その相手は陸に生きるケンタウロスの青年だったからです。

 人魚は草原を駆けまわるケンタウロスに恋い焦がれます。
 食事が喉を通らぬほどに。

 それを見かねたイルカや仲間の人魚たちが、人間になる秘薬を作ったのです。
 人になり、陸で生きたらいいと。

 その秘薬は、あと人魚の涙さえ入れれば完成でした。

 けれども、人魚の姫は決して涙は見せず、とうとうそれを飲むことはありませんでした。

 海で生きると決めていたのです。
 そして、知っていたのです。

 人になったとしても、ケンタウロスの彼と同じように陸を駆けることはできないと。
 人になってしまえば、もう今までのように海で泳ぐことはできないと。

 
 一方の、ケンタウロスの青年もまた、人魚のことを想っていました。

 いつも彼女の姿を探して、海際を走ってしまうくらいに。
 つい、時間があれば海を眺めてしまうくらいに。

 けれども、それは愛に変わる前に、終わってしまいました。

 彼もまた知ってしまったのです。
 彼女は海で生きるから美しいと。
 自分は陸で生きるから自分らしいと。

 交わらぬ愛はそれぞれの叶わぬ初恋となり、胸に刻まれました。

 そうして、トキと共に
 人魚の姫とケンタウロスの青年のその初恋は、大きな友情へと変化しました。

 後に人魚の姫は海の王となり
 ケンタウロスの青年は一族の長となりました。

 

 

 

 さらに月日がたち、ある人魚の娘が恋に落ちました。
 それは天を雄大に飛び交う竜族の青年でした。

 人魚の娘は心からその竜族の青年を愛し
 そして、その青年もまた人魚の娘をそれは深く愛しました。

 けれども、運命とは皮肉なもので

 人魚が海で水と共に生きる定めなら
 竜族の青年は竜の中でも火を司る火竜だったのです。

 二人はどんなに想いあっていても、互いに触れ合うことは叶いませんでした。

 ほんの数秒、手を触れるか触れないか。
 この距離のまま、それでも互いを想いあい、共に生きていたのです。

 ある晴れの日は、竜の姿になった青年が海と並行するように波際を飛び、人魚の娘と泳ぎました。
 ある満月の夜は、人魚の娘が巨大な岩の上へと腰を掛け、天を見上げながら、竜の青年と語り明かしました。

 二人は確かに幸せだったのです。

 けれども、悲劇は起こってしまいます。

 ある日、人魚たちは危機的状況に陥ってしまったのです。
 その場にいた竜の愛する人魚の娘は最も危ない状況だったと言って間違いないでしょう。

 誰も娘を助けることはできなかったでしょう。
 一匹の竜を除いては。

 人魚の娘が死を覚悟したその時、真紅の竜が海へと飛び込んだのです。
 その竜には一遍の迷いもありませんでした。

 竜の力は絶大です。
 人魚たちは、そして彼の愛しい人魚の娘は助かりました。

 その竜の熱い炎と引き換えに。

 竜は海底の奥深くへと沈みながら、息絶えていきます。
 人魚の娘は悲しみの涙を零し続けました。

 そこにある魔法使いの少年が現れたのです。
 海を割き、沈みゆく竜を見事な魔法裁きで海岸へと運んでくれます。

 そうして、言うのです。
 間に合わなかったと。

 人魚の娘はそっと熱いはずの竜へと触れてみます。
 けれども、彼の熱は娘のことをもう拒むことはありませんでした。

 触れているはずなのに、あれほどまでに触れたかった彼の温もりを感じることができないのです。

 ですが、それでも竜は嬉しかったのでしょう。
 弱々しく、けれどもとても満足そうに、優しく、やさしくほほ笑んだのです。

 その笑みをみて、娘はとうとう声をあげて、泣き始めました。

 そんな人魚の娘と、命が尽きそうになっても、娘を想い微笑む竜をみて、魔法使いの少年は決めました。

 そして、手に持っていたものを人魚の娘に差し出して言います。

 自分は人になりたい。
 最後の魔法で君たちを宙へと送るから、代わりに君のその涙がほしいと。

 そう。彼が差し出したそれは、かつて人魚のみんなで隠したはずの秘薬だったのです。

 人魚の娘は知っていました。
 自分の涙を渡せば、その秘薬が完成してしまうことを。

 けれども、もう愛しい彼女の竜はきっと目を開けることはないでしょう。
 二人で星にでもならない限り。

 人魚の娘はどんどん冷たくなっていく竜の首にすがりながらいいました。

 どうか、彼と一緒にいさせてほしいと。

 魔法使いの少年は、その愛する人を想う人魚の涙と引き換えに、その願いを叶えました。

 

 

 そして、その魔法使いの少年は、その秘薬を持って、たった一人の愛する鳥族の少女の元へと走りました。

 少年は困っていたのです。
 夜を生きる魔法族と昼を生きる鳥族の二人では結ばれることがないことを。

 しかし、少年にはそれを覆すくらいの絶大な力がありました。
 何せ、歴代の魔法使いの中で一、二を争うくらいに優秀だったのですから。

 魔法使いが夜に生きるのは、星を詠むからです。
 そこからたくさんの理を得て、
 そして魔法を使うのです。

 だから、誰よりも星が詠めてしまう彼は
 たくさんのことを知りすぎてしまっていたのです。

 たった一人の愛する人が一緒でなければ、もう耐えられないくらいに。

 

 そして、悲しみもあれば救いもあるのでしょう。
 幸いにも鳥族の少女には半分、人間の血が流れていたのです。

 そのため、このたったひとつしかない秘薬で、二人ともが人となることができたのです。

 

 しかし、少年は自分たちに秘薬を使うだけでは終わりませんでした。

 この秘薬を元に、星を詠み、仲間たちに教えてしまったのです。
 昼を生きる方法を。

 仲間たちは大喜びで、夜を生きることを捨て、皆と同じように昼を生きることに決めました。
 本当は寂しかったのです。
 魔法族だけが夜を生きることが。

 

 けれども、太陽はそれを是としませんでした。
 自分が夜眠っている間に、魔法使いたちが月のいる夜を捨て、太陽のいる昼を生きること選んだのですから。

 

 怒った太陽は二つに分かれていた世のうちの片方、地下世界をさらに二つに分けました。

 そして、昼を生きることを選んだ新星の魔法使いたちには自分の光を浴びさせないと決めてしまったのです。

 せっかく昼を生きられるようになったのに、新星の魔法使いは再び、夜を生きなければならなくなりました。

 

 新星の魔法使いたちは、こぞって少年を責め、泣き暮れました。

 その時、見かねた月が教えてしまったのです。

 地上では太陽は眠っている。
 眠っている間は気づかない。
 だから、地上から光を持ってこれば良いと。

 

 そうして、責任を感じた少年の一族は、地上のロンドンへと繋がる秘密の地下鉄をこっそりと敷きました。
 太陽にバレないように、世の均衡が保たれるよう、天秤のルールを作って。

 

 

 こうして、世は三つに分かれてしまったのです。
 地上世界と地下世界と、そして新星の魔法使いの世界に。

 

 けれども、それは三つに分かれるだけでは留まりませんでした。

 何故なら、たくさんの悲しみを知った地下に生きるものはそれぞれの心を閉ざしてしまったからです。

 熱き炎を失った竜族は天から降りなくなりました。
 明るい羽を失った鳥族は森からでなくなりました。
 心優しい雫を失った人魚は海を閉ざしました。
 友情で結ばれていたケンタウロスは、人魚に倣って、どこにも訪れなくなりました。
 そして、夜を捨てなかった一部の魔法族はまだ誰も踏み入れたことのない未開の地へと旅立ったのです。

 さらに悪いことに、この心の閉ざされた世界が嫌になり、多くの精霊と妖精までもが新星の魔法使いの世界へと下ってしまったのです。

 こうして、地下世界のサンムーンは太陽と月の両方の光を得ながら、寂しい世界と化してしまいました。

 一方の新星の魔法使いたちは、自分たちの新しい世界をブライトアースと名付けて、明るい光と地上世界との秘密の交流を楽しみ始めました。

 けれども、新星の魔法使いたちの喜びもそう長くは続きませんでした。秘密の地下鉄は徐々に運行されなくなっていき、多くの光と愛が失われていったのですから。

 

 その後、また月日が経ち、この三つの世界がそれぞれどうなったかを完全に知る者はとうとう誰もいなくなってしまったのです。
 どこもかしこも閉ざされてしまい、三つの世界を行き来したものがいないからです。

 

 

 

はるぽ
生きる刻があるうちは①に挿入されているキースのおとぎ話『はじまりの物語』を写真と一緒にまとめたものになります♪今後、ストーリーの進み具合に合わせてそれぞれのエピソードを過去編としてしっかりと書き起こす予定です★お読みいただきありがとうございました!

生きる刻があるうちは①はこちら

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°˖✧上記物語は、現在、世界の子どもシリーズとして過去編、現代編、未来編の三視点で連載中です。『はじまりの物語』に登場する魔法使いの少年と鳥族の少女の物語や夜を捨てなかった魔法族の物語など、現在公開中です。気に入って下さった方はそちらもお楽しみ頂けますと幸いです✧˖°

 

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