オリジナル小説

星のカケラ~epilogue~

2021年11月23日

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伸びゆくカケラ~10 years later~

 

 入学式ぶりのスーツに身を包み、奏汰は時間を何度も確認して、急ぎ病院へと訪れる。

「あっ! 奏汰兄ちゃんおっせーよ!」
「ごめんごめん、すぐ飾り付けるから」

 そう言って、背広を憩いのスペースの脚の低い椅子へとかける。すると、先に来ていた未菜が背伸びしてプルプルと震えながら、すでに飾り付けを開始していた。

「代わる」

 そう言って、彼女の背後から、その手に握る切り絵をそっと取り上げる。

「えっ、奏汰?!」

 振り返った未菜のポニーテールが揺れて、奏汰の顔にゆるりと当たる。

「あー、いいから。お前はアシスタント。俺が飾り付けていくから、次の切り絵持ってきて?」
「わ、わかった」

 ほんのりと頬を染めつつ、スルリと俺の腕の中から未菜が抜けて、テーブルに置いてある切り絵の方へと向かう。

 それを少し残念に思いつつも、奏汰はテキパキと切り絵を飾っては、未菜から受け取るというのを繰り返していく。

「うっわー。すっげー!!!」

 飾り終わった切り絵を見上げ、子どもたちが嬉しそうに笑う。続々と、動ける子どもたちが憩いのスペースへとやってくる。

「あら、奏汰君。今日は来られないんじゃなかったの?」

 車椅子の子を連れてきた看護師の人にそう問われ、奏汰は言う。

「未菜じゃ、絶対に飾り付けできないからさっ。みんな楽しみにしてたし、これだけ今日やっちゃおうと思って!」

 そう言いながら、チラリと未菜の方をみると、少し剥れながらそっぽ向いてしまった。
 ははっ、からかいがいのあるやつ。

「あらあら。ふふふ。それにしても奏汰君、スーツだと大人っぽく見えるわねぇ~」
「そうですか? もっと言ってやってください。未菜は一学年上なだけで、年上ぶるので」

 そう言うと、未菜がまた、その長いポニーテールを揺らして振り返る。

「なっ、別に年上ぶってなんかないわ。何よ、ちょっと自分の方が背が高いからって」

 すると、子どもたちがわさわさと集まってくる。

「あー、また二人が喧嘩してる」
「べっ、別に喧嘩じゃないわ!」
「俺、こういうの何て言うか知ってるー!」
「お、何だ?」
「痴話喧嘩っていうんだ。前、テレビでみた」
「ちょ、ちょっとー!」

 憩いのスペースに子どもたちと、看護師さんと、みんなの笑い声が重なっていく。

 違うわ、なんて言う未菜にいつか絶対肯定させてやる、と心の中で思いながら、奏汰はニカっと笑って皆に言う。

「よーし、見てろ? この金魚は空を飛ぶんだ!」

 皆の視線を引きつけて、窓を開ける。すると、入り込んできた風が緩やかに切り絵を揺らし、金魚が舞う。窓の向こうで青々と広がる空を飛んでいるかのように。

「わぁ……」

 先ほどまできゃっきゃっと喜んでいた子どもたちの声が、明らかに感動したものへと変わる。

「私たちの代わりに、自由に外へと飛んでくれてるみたい」

 一人の子がボソリとそう呟いた。

「今は、な。次はみんなの番だぞ? みんな、この金魚みたいに元気になって、それでどこへだって自由に行くんだ!」
「「うん!!」」

 子どもたちが、笑う。空を舞う、金魚に夢を託して。

 

「ねぇ、奏汰。時間はいいの?」
「あ、いっけねー! じゃあ、また明日な!」
「もう! 忙しい時は、休んだらいいって言ってるじゃない!」
「別に忙しくない! 俺が楽しくて来てるからいいんだ! じゃあな!」
「兄ちゃん、また明日ねー」

 背広を拾い、速足でエレベーターを捕まえて、病院を後にする。

「えっと、ここからホテルってどれくらいだったかな」

 そう呟きながら、奏汰は駅まで走る。

 

 子どもの頃、奏汰は身体が弱かった。病院での生活も長く、諦め癖がついて、それですぐに拗ねてしまって、結構わがままな少年だったと、今では思う。だけどあの時、自分をわがままでいさせてくれたから、奏汰は感情をため込むことなく、病気と闘えたのだと、そう思っている。

「兄ちゃんには本当に、頭が上がらないなぁ」

 信号につかまり、立ち止まる。そこで振り返って、小さく見える病院を見ながら奏汰はそう呟いた。

 

 兄はいつも、どんな時でも奏汰を優先してくれていた。

 あれは小学校に入学してすぐの夏のことだったと思う。どうしても行きたいとダダをこねて、夏のちびっこ海空キャンプへと連れて行ってもらった。

 あれは入院してすぐのことだったと思う。ネットで見せてもらったアメフト選手に憧れてたら、兄がタイミングよくアメフトを始めてくれて、毎日その話を聞かせてくれた。

 あれは手術前だったと思う。どうしても会いたいと、毎日泣いて頼んだあの人を、兄が連れてきてくれた。

 今ならば分かる。身体の弱い自分がキャンプへと行くのに、医師や親からどれだけの許可が必要で、どれだけの心配をかけたのかが。

 今ならば分かる。元々運動神経はよかったけれど、あんなに穏やかで大人しい兄が、アメフト部なんて、自分のために始めてくれたに違いないことを。

 今ならば分かる。名前しか分からなかったその人を連れて来てくれたこと、そしてその人が来てくれたことが、どれほどの奇跡の連続であったかを。

 

 信号が変わり、奏汰はまた走り出す。

 運動神経は、普通に走れるけど、特に良いとかではない。子どもの頃、ベッドで寝ていることが多かったから、仕方がないのかもしれない。
 今でもアメフトは好きだけれど、別に見るだけ。兄に憧れて、兄と同じ大学へと入ったけれど、アメフト部には入らなかった。

 奏汰は今、教育学部で先生になるための勉強をしている。部活の代わりに、自分がお世話になった病院でボランティアをしながら。

 そこで出会ったのが、未菜。彼女は宝海女子大学の生徒で、不本意ながら一学年上だけれども、一緒にあそこでボランティアをしている。
 ちょっとだけ、自分にとっては大切な女の子。まだ、ボランティア仲間のままだけど。でも、今日を過ぎたら、自分も兄のように頑張ると決めている。

 

 季節ごとに、萌咲さんが病院に切り絵を寄付してくれる。その付け替えが、あそこで多くの季節を過ごす子どもたちの楽しみ。特に夏の空飛ぶ金魚は大好評だ。

 だから、今日は大切な日だけれど、どうしても子どもたちに金魚を見せてやりたくて、無理してしまった。奏汰が行かなければ絶対に、未菜が無理をするから。

「仕方がない」

 時計を見て、奏汰は腹をくくる。ここで使わずに、どこで使うのか。

「ユニバーサルプリンスホテルまで」

 タクシーを捕まえて、奏汰は大切な場所へと赴く。無理をした分、タクシーで巻き返そう。まあ、今月はちょっと買い食いを減らそうかな。そんなことを思いながら。

 

 

✵✵✵✵✵

 

「ちょっと、奏汰! 新郎の弟がギリギリで来るなんてありますかっ」
「まぁまぁ、母さん。別にまだ来賓の方は来てないし、大丈夫だよ」
「……ごめん、まぁでも、間に合ったし!」

 そう言って、母に促されるまま、ネクタイを整えて、新婦の親族へと挨拶をすます。

 

 今日、兄は結婚する。

 

 多くを病院で過ごした自分にとって、印象的な思い出というのが、あの夏のちびっこ海空キャンプでの一週間と、手術前に特別にしてもらったあの切り絵の工作教室。

 キャンプの時、大好きな兄と、一番仲良しだったお姉さんが自分よりも親しくて少し剥れていた。けれど、子ども心に気づいた。兄とそのお姉さんが結婚したら、ずっと二人とも自分のものだと。あの時、兄とあのお姉さん、しほさんはきっと運命の相手なんだと信じて疑わなかった。

 だけどあの時、ちょっとかっこいい所をみせようと、タローを助けようとして、大変なことになってしまった。自分の病気は悪化するし、兄は何も悪くないのに両親からも医師からも責め立てられた。流されたしほさんは、助かったことを知らせるためだろう、わざわざ兄と自分の前に来て、ニコリと笑って、そのまま倒れた。しほさんはもう一人の女性が運んで、自分はそのまま救急搬送されて、それっきり会えなくなってしまったのだ。

 大切だった思い出が、自分のせいで、粉々に壊れて、大切だったものが、自分のせいで、バラバラになってしまった。

 兄はその時のことに責任を感じていたのだと思う。入退院を繰り返す奏汰のわがままを何でも聞いてくれたし、自分のことはいつも後回しだった。

 そのことに気づいたのは当時の兄と同じ年ごろになった最近のこと。

 子どものころはずっと思っていた。大学生は本当に大人で、何でもできて当たり前だって。
 けれど実際に大学生になってみて思う。全く持って、そんなことはない。

 例えば勉強。普通に難しい。何が難しいって、高校の時までと違って、誰も注意してくれない。だから、成績が悪かったらそのまま。ただ、成績が悪いだけで終わる。自己責任ってやつ。それで、良い成績をとりたかったら、ただ勉強してるだけじゃだめ。対策ってやつが必要で、先輩から教授の出すテストの傾向を聞いたり、過去問を借りたり。友達と協力してする課題だってある。頭良くではなく、賢く動くっていうのが重要。

 それで、アルバイト。初めてお金を自分で稼ぐ喜びと、お金を自由に使う楽しさと、そして、お金を稼ぐことの大変さを実感する。始めは失敗ばっかりで、悔しかったり、恥ずかしかったり、辞めたくなったり。だけど、生きるためにはお金も必要で、お金が発生するものは責任も伴う。子どもの頃のように嫌だから辞める、今日はしんどいから休む、なんて簡単にはできない。

 それで、恋愛。大人になったら、自然と恋をして、それで恋人ができて、結婚するんだと信じてきた。だけど、未菜と出会って思う。特別な子ほど、緊張して、声がかけられない。カッコいい所を見せたいと思っても、そんなの計画通りにはいかない。他の男の子が近寄ったら焦って、それで少し意地悪してしまったりする。……もう大人なはずなのに。

 それで、思う。恋人になるということがどれだけ大変で、そこからさらに結婚するという所まで行くのが、どれだけすごいことなのか。

 

 当時の兄まではいかなくとも、それなりにたくさん学んだ自分の目の前で、兄が笑う。
 白いタキシードを着て、それでとても愛しそうにその横で笑う花嫁をみて、笑う。

 兄ちゃん、ごめん。俺の為に、たくさんの時間を使わせて。
 兄ちゃん、ありがとう。俺の為に、たくさんの時間を使ってくれて。
 兄ちゃん、おめでとう。これからはその横で笑う大切な人と一緒に、大切な時間をたくさん使ってほしい。

 挙式から披露宴まで、何度も何度も泣きそうになったけれど、奏汰は絶対に泣かなかった。
 最後の最後に、大切な役割が残っているから。

 食事の最後、デザートが運ばれてくる前に、奏汰はスタッフの人に目配せして、そっと席を立つ。

 司会の人が嬉しそうに、言う。

「ここで新郎の弟様、奏汰様より、サプライズプレゼントがございます!」

 そうして運ばれてきたのは、特別なウェディングケーキ。

「予約が取れないと話題の、星宙パティスリーの星のカケラケーキです。ケーキに飾られている宝石は全て、食べることが出来て、新郎と新婦の好きな色と、その色を混ぜたもので作られています!」

 兄が目を揺らしながら、そのケーキを見つめている。

「こちらの星宙パティスリーはご夫婦で経営されていて、夫婦仲が良くて有名です。ケーキの部分をご主人が、この宝石の部分を奥様が手掛けられて作られているそうで、この星のカケラケーキを食べた新郎新婦は末永く幸せになれる、というジンクスがあるそうです!」

 司会の人の説明を聞いて、花嫁が、嬉しそうに笑ってくれる。

 

 大切な、大切な、俺たちの友達が作ったケーキ。

 

 あの時、粉々に壊れた思い出を、バラバラになった大切なものを、もう一度繋いでくれたのはしほさんだ。

 特別に行ってくれた工作教室。辛かった出来事を乗り越えることで、大切な思い出はそのままに、兄も自分も前へと進むことができた。

 皆、それぞれの道で生きている。

 自分も自分の道で生きている。

「それでは、弟、奏汰様より一言頂戴しましょう」

 司会の人からマイクを渡され、それを手に取って言う。ありったけの感謝を込めて、兄の方をみながら。

「兄ちゃん、結婚おめでとう」

 

星のカケラ~完~

 

episode~love sweets~

 

あとがき&お知らせ

 

これにて星のカケラは完結となります!rieさんと出会うことが出来て、そしてこの作品を書き上げることが出来て、本当に嬉しくて胸がいっぱいです。後日、あとがきと作中に登場するお菓子の再現をまとめたepisode~love sweets~を更新予定です。こちらでの公開予定には入れておりませんが、星のカケラの番外編や後日談などを構想中です。もしご縁がありましたら、そちらもお楽しみ頂けたら嬉しいです。ご閲覧、ありがとうございました°˖✧

 

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はるぽ
こちらはコラボ企画の小説になります!お縁描き堂・rieさんのイラストからイメージを受け、作詞・ストーリー作成をはるのぽこがさせて頂きました!共作でしか生まれない世界観を楽しんで頂けたなら幸いです♪

 

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