オリジナル童話

その手に触れられなくても~episodeχ~世界の子どもシリーズ―過去編―

2022年2月18日

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カイネの唄 ―Kaine no uta―

 

どこで生きるのか?
ここで生きるのか?

ここで生きるのが
いいのか分からないの

この胸の奥に
ある感情だけが

私の心を保たせているの

恋をしているの
誰にしているの?

それは恋なのか
誰も分からない

自分の心
なのに
うまく言えない

心の奥の
感情だけが叫ぶ

この想い誰にぶつけたらいいの?

これは恋なのか
まだ分からないのに

誰にも言えない
心の奥底

胸の奥の中
秘めた恋心

ここで生きるのか
ここでいいのかと

心に問うけど
まだ分からないの

あなたのその瞳
もう一度みたい
瞼の裏に思い描くけれど

朧気な記憶

だけど焼き付いてるの
脳裏の片隅
心の奥底

ただ分からない

どうすればもう一度
あなたのその瞳
思い出せるのか

どこで生きている?

あなたとわたしの
世界は違うの?
どこで交わるの?

あなたとわたしの
その世界の先

まだ誰も知らない

どこに向かえば
あなたと生きられる?
あなたに出会える?

私のこの想い

どうすればいいの?
どこで伝えるの?
この心のうち

きっと溢れ出る

あなたのその瞳が分からないの
もう分からなくて
悲しくなるのに

心の奥底

残るは炎よ
ここは水の中
だからわからない

あなたはどこで生きる人なのかな?
それさえ今の私には分からないの

それなのに疼く

この胸の中の
感情だけがあなたを覚えてる

恋をしているの
誰にしているの?

分からないけれど
心が叫ぶのよ

この恋心

誰に伝えれば
私の熱量
海におさまるの?

うまく泳げない

うまく馴染めない

これが生きる道?

 

それも分からない

 

だから応えてよ
私の想いに

 

あなたは誰なの?
あなたに会いたい

 

χχχχχ

 

 いつもの場所で、リアは歌う。

 浮かび上がるのは、懐かしいメロディ。
 零れ落ちるのは、心が叫ぶ言葉。

 思い出したいのに、思い出せない。

 私は、誰だろう――……?

 

χχχχχ

 

 

「あ、みて。この色。少し、似てる気がする」

 今日も秘密のアトリエで、集めてきた宝石や真珠でアクセサリーを作る。
 お気に入りは、炎のような、真っ赤な石。

 2頭のイルカがくるくるとリアの周りを泳ぎ、言う。

 この間も言っていた、と。

「そう? そうかなぁ。今日の方が近い気がするのよ」

 今度は呆れるように、キューイと小さく鳴いて、イルカがまたくるくるとリアの周りを泳ぐ。

 いつも一緒にいてくれるのは、2頭のイルカ。

 人魚の中で、唯一、緑の髪のリアはいつもひとりぼっち。

「……今日も、リリーに会えなかった」

 前は一緒に仕事をしていて、同じ部屋で、遊ぶ時も、眠る時も、いつだって一緒だったのに。

 心配気に近づいてきたイルカに、リアは抱き着く。

「ううん。大丈夫。そういえば、遠目に、テトの姿を見たわ。大活躍したんだって。元気そうだった」

 昔は仲良しだった。だけど、もう、女王様の側近になるみたいだから、私は近づいたらダメ。それに、目も合わせてくれなかった。やっぱり、私と仲良しだったと思われるのは、恥ずかしいのかも。気を付けなくちゃ。

 眉を少し下げて、寂し気に笑うと、心配そうに一頭のイルカがツンとリアの頬をつく。
 そのことにふっと息を漏らしながら、今度はリアからイルカの額に自分の額をつけて、言う。

「……それでね。チシリィちゃんも、王宮の仕事に就くんだって。だからもう、子どもたちを見るお仕事も違う人が担当になって、私はできなくなっちゃった。……最近、ミキチェちゃんとも会えてないし……」

 さらに、リアはギュッとイルカに縋るように抱き着く。

「でもね……リリーが言ってくれてるの。また前の仕事に戻れるように、もう一度、レム姉さん……じゃなかった、女王陛下にお願いしてみてくれるって。……私じゃないと、花が咲かないって」

 そうして、ようやく一筋の涙が零れ落ちる。けれど、ここは海の中。涙はそのまま、泡となり、海の中へと溶け込んでいく。だから、これが涙かどうかなんて、リア以外、誰にもわからない。

「……泣いてなんて、ないよ」

 もう、どこにも居場所がないの。

 新しい海域の人が来て、王宮は締め出されてしまった。
 それで、ミキチェちゃんとチシリィちゃんとしていた、子どもたちの面倒をみるお仕事も、続けられなくなってしまった。

 部屋は、もうめちゃくちゃ。戻るたびに、荒らされて、何かが壊されている。

 大切なお花のブローチと、少しずつ、何かを思い出しそうになった時に書き連ねていた日記。
 それらを誰も寄り付かない、秘密のアトリエに隠して、時間を潰す。

 今日は、どこに行こうかな――……?

『きゅるるるる~~~』

 お腹が、鳴る。
 イルカたちが驚いたように、リアの周りをくるくると回る。

「だ、だって仕方がないのよ。王宮を締め出されたから……食堂に行けないし、部屋も荒らされるから、自炊もできないし……」

 リアはぐるりと一回転しながら泳ぎ、海底にある小さな岩に腰掛ける。拗ねるように鰭をパタパタと動かしながら溜息をついて、言う。

「……だって、お仕事辞めさせられちゃったんだもん。街に行ったって白い目で見られるし、収入もないし……ここ最近、まともに食べてないのよ」

 イルカたちが慌てるようにグルグルとリアの周りを泳ぎ、言う。
 行くぞ、と。

「……そうね。泣いてばっかりいないで、食料を調達しに行きますか……」

 びゅんっと力強く鰭を海底に押しつけるようにして岩から離れると、今度は細かく鰭を動かしながら、ぐんぐんと上へと泳いでいく。2頭のイルカと並行するように速度を合わせながら。

「……目立つから、あんまり岸の方には出たくないんだけど、仕方がないわ」

 森の手前の方くらいまでなら、行けるかしら。そうしたら、木の実くらい、入手できるかも。
 イルカたちと共に、秘密のアトリエを後にする。そこを出るとき、リアはそっと、振り返る。

「……今日も、思い出せなかったな」

 リアの心の支えは、胸の中に残る、炎。

 かつて、レム姉さんは言った。頭を打って、記憶が混同してしまったのだろうと。
 その時、身寄りのない私をレム姉さんと王様が引き取ってくれたんだと教えてもらった。

 ただ、ずっと不思議だった。

 大好きなお父さんは、海の中にいたかなって。
 厳しかったお母さんは、植物の匂いがした気がする。
 大好きなあの人は、水じゃなくて、炎。

 でも、分からない。分からないの。

 私は家族がいなくって、私は恋をしたことがないはずだから。

 朧気だった記憶も、一度、確かに何かを思い出しそうになったことがあるのに、レム姉さんに怒られて、そうしたら急に眠たくなって、目が覚めたら2年後だった。

 そうしたらもう、あの人の瞳の色さえ曖昧になってしまって、もっと、自分が分からなくなってしまった。入園前に仲良くしていた人魚のお友達のことも、身寄りのない私のお世話をしてくれていたお姉さん人魚たちのことも、眠っている間に分からなくなって、目覚めたら、私はただ、緑色のひとりぼっちの人魚だった。

 大切な家族のはずなのに、もう思い出せない。
 リリーたち以外にも、仲良しの友達がいたはずなのに、もう分からない。

 それでも、ずっと胸の中に炎だけが残ってる。

 ああ、あなたは、一体誰――……?

 教えてよ。

 リアが動く度に、悲しみの泡がいくつも連なっては、程なくして海に溶け込んでいく。
 この日を最後に、リアがこの秘密のアトリエに戻ってこれることはもうなかった。

 

episode1

 

世界の子どもシリーズ

フィフィの物語

はるぽの物語図鑑

 

 

はるぽ
タイミング的にベストかと思い、再掲致しました!主観ではありますが、さすがに、書き始めた頃よりも技術面的にもストーリー的にも書けるものが増えたと感じています。ですので最初の方のepisodeなど、ものすごく書き直したい衝動にかられますが、それをしてしまうと永遠に続きが書けなくなるループに突入するので、恥ずかしながらそのまま進んでいます。再掲の時、毎回、改めてこのまま進んでいいのかという疑問にぶち当たります。詞がメインなのでクローズしていましたが、今後意外に大事な個所かなと思うので、期間限定でなく、このまま全体公開のepisodeにしたいと思っています。詞を書くのもすごく好きです。

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