オリジナル小説

ホラー・ミラー・スケルトン☆

2022年4月25日

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 妖怪界。
 そしてここは、そのゲート。
 妖怪界へとやってきたものが最初に通る場所だ。

 ドームのような広い楕円の建物の向こうに、妖怪界が続いていて、ここにはそこへと行くための、何十個もの入口ゲートが用意されている。
 中央部分に、ゲートを通るためのいくつかの検査受付があり、みんなここで、妖怪界で何所どこの種族に属すのかを決めてからゲートをくぐる。

 そして、私はガイコツ。
 この検査受付で働いている。

「は、初めまして。私はコウイと申します。ろくろ首です」

 体質診断投影機で、すばやく撮影する。

『ろくろ首、ろくろ首』

 私は小さく頷き、投影機から出てきた一枚のフォトを渡しながら言う。

「初めましてコウイさん。所属はろくろ首ですね。5番ゲートからお入りください。ゲートをくぐりましたら、今度はろくろ首の受付で仕事の紹介がありますので」
「あ、はい。ありがとうございます」

 コウイさんがろくろ首のゲートへと向かいだす。それと入れ替わるように、今度はヒラリと薄く白い布のようなものが受付へとやってくる。

「ターイ、ぬらりひょんです。何番ゲートですか?」

 うーん。

 それでも私は動じず、手際よく、体質診断投影機で撮影する。

『一反もめん。一反もめん』

 ターイさんがぐっと息を詰まらせる。

「一応、一反もめんの所属が適性とは出ていますが、どうします? ぬらりひょんなら6番ゲート、一反もめんなら8番ゲートです」
「……ぬらりひょんで」
「……わかりました。6番ゲートにお願いします」

 小さくお辞儀をして、ターイさんは6番ゲートをくぐっていった。

 数時間後――……。

「すみません。やっぱり、一反もめんの所属にすることはできますか?」

 6番ゲートから戻り、また列に並んで再び受付へと来たのは、ターイさんだった。

「……わかりました。手続き自体はすぐにできるので、問題ありません。では、今度は8番ゲートにお願いします」
「……はい」

 ターイさんがとても寂しそうに、8番ゲートへと歩いていく。

「あー……、待ってください」
「はい?」

 私は少しためらいがちに、用意していたメモをそっと渡す。

「これ、よかったら参考にどうぞ」
「これは……何ですか?」
「ぬらりひょんと一反もめんが一緒にする作業が多い、職種のリストです。仕事自体はゲートの向こうで、また改めて受付があるので」
「……どうも」
「……いえ、もし、参考になれば」

 メモを片手に、それでも肩を落としたまま、ターイさんは8番ゲートをくぐっていった。
 その際、何度も何度も6番ゲートの方をみていたのが、印象的だった。

「……そうなりますよね」

 例えば、なりたいものに自由になれるのならば、それはどれだけ幸せなことなのだろう。けれど、どこの世界だって、この妖怪界だって、現実は残酷だ。

「誰だって、自分自身は……種族は変えられない」

 どんなに望んでも。

 誰にも聞こえないくらいの声で、今日も私はスカスカのこの骨だけの身体でそう呟いた。
 完全にターイさんの姿が見えなくなり、小さく息をつく。

「私にしたら、所属するところがあるだけで、羨ましいですけどね」

 だけど、私にとっては羨ましい所属するところがあったとしても、それはターイさんにとっては違うのだろう。

 だってターイさんは、ぬらりひょんがよかったのだから。

「だけど、職業は選べるから。どうか、やりたい仕事がみつかりますように」

 また次のものがやってきて、同じように受付を進めていく。

「初めまして。タタルです。傘お化けです」
「タタルさんですね」

『傘お化け。傘お化け』

「タタルさん。傘お化けは12番ゲートになります。ゲートの向こうで、仕事の紹介が傘お化けの受付で改めてありますので」
「ありがとうございます」

 まっすぐに迷うことなく、タタルさんは12番ゲートへと飛び跳ねていく。

「うん。タタルさんは大丈夫そうだ」

 先程のターイさんのことがあったから、すごくホッとした。
 私は骨だけだから、誰にも分からないのに、それでもやっぱり笑って見せる。心の奥底にある、寂しいという気持ちを隠して。

「いいな……」

 みんな少し希望とは違っても、ちゃんと何所かに所属ができる。
 だけど私はどこにも属せない。

 何でも、ガイコツには本当はガイコツの世界があるらしい。
 だけど、何故か私が来てしまったのは、妖怪界。
 ここにはがしゃどくろのゲートはあっても、ガイコツのゲートはないらしい。

 だから私には所属がない。
 いつまで経ってもひとりぼっち。
 無所属のガイコツ。

 今日もここで、ひとりぼっちの私はみんなを仲間の元へと案内する。
 私はスカスカの骨だけだから、表情なんて伝わらないのに、それでも笑顔を作って、心の奥底で寂しさを隠して、仕事を続ける。

 

ホラー・ミラー・スケルトン☆

 

「は、初めまして」

 そしてある日、私は驚くべき受付の仕事をすることとなる。

「……初めまして。お名前は?」
「……冬子です」
「失礼しますね」

 震えながら、体質投影機のシャッターを押す。

『人間。人間』

「えーっと……」

 どのゲートに、案内しようかな。

 そこに現れたのは、妖怪界始まって以来の、人間だった。

 

ホラー・ミラー・スケルトン☆2

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