妖怪界。
そしてここは、そのゲート。
妖怪界へとやってきた怪が最初に通る場所だ。
ドームのような広い楕円の建物の向こうに、妖怪界が続いていて、ここにはそこへと行くための、何十個もの入口が用意されている。
中央部分に、ゲートを通るためのいくつかの検査受付があり、みんなここで、妖怪界で何所の種族に属すのかを決めてからゲートをくぐる。
そして、私はガイコツ。
この検査受付で働いている。
「は、初めまして。私はコウイと申します。ろくろ首です」
体質診断投影機で、すばやく撮影する。
『ろくろ首、ろくろ首』
私は小さく頷き、投影機から出てきた一枚のフォトを渡しながら言う。
「初めましてコウイさん。所属はろくろ首ですね。5番ゲートからお入りください。ゲートをくぐりましたら、今度はろくろ首の受付で仕事の紹介がありますので」
「あ、はい。ありがとうございます」
コウイさんがろくろ首のゲートへと向かいだす。それと入れ替わるように、今度はヒラリと薄く白い布のような怪が受付へとやってくる。
「ターイ、ぬらりひょんです。何番ゲートですか?」
うーん。
それでも私は動じず、手際よく、体質診断投影機で撮影する。
『一反もめん。一反もめん』
ターイさんがぐっと息を詰まらせる。
「一応、一反もめんの所属が適性とは出ていますが、どうします? ぬらりひょんなら6番ゲート、一反もめんなら8番ゲートです」
「……ぬらりひょんで」
「……わかりました。6番ゲートにお願いします」
小さくお辞儀をして、ターイさんは6番ゲートをくぐっていった。
数時間後――……。
「すみません。やっぱり、一反もめんの所属にすることはできますか?」
6番ゲートから戻り、また列に並んで再び受付へと来たのは、ターイさんだった。
「……わかりました。手続き自体はすぐにできるので、問題ありません。では、今度は8番ゲートにお願いします」
「……はい」
ターイさんがとても寂しそうに、8番ゲートへと歩いていく。
「あー……、待ってください」
「はい?」
私は少しためらいがちに、用意していたメモをそっと渡す。
「これ、よかったら参考にどうぞ」
「これは……何ですか?」
「ぬらりひょんと一反もめんが一緒にする作業が多い、職種のリストです。仕事自体はゲートの向こうで、また改めて受付があるので」
「……どうも」
「……いえ、もし、参考になれば」
メモを片手に、それでも肩を落としたまま、ターイさんは8番ゲートをくぐっていった。
その際、何度も何度も6番ゲートの方をみていたのが、印象的だった。
「……そうなりますよね」
例えば、なりたいものに自由になれるのならば、それはどれだけ幸せなことなのだろう。けれど、どこの世界だって、この妖怪界だって、現実は残酷だ。
「誰だって、自分自身は……種族は変えられない」
どんなに望んでも。
誰にも聞こえないくらいの声で、今日も私はスカスカのこの骨だけの身体でそう呟いた。
完全にターイさんの姿が見えなくなり、小さく息をつく。
「私にしたら、所属するところがあるだけで、羨ましいですけどね」
だけど、私にとっては羨ましい所属するところがあったとしても、それはターイさんにとっては違うのだろう。
だってターイさんは、ぬらりひょんがよかったのだから。
「だけど、職業は選べるから。どうか、やりたい仕事がみつかりますように」
また次の怪がやってきて、同じように受付を進めていく。
「初めまして。タタルです。傘お化けです」
「タタルさんですね」
『傘お化け。傘お化け』
「タタルさん。傘お化けは12番ゲートになります。ゲートの向こうで、仕事の紹介が傘お化けの受付で改めてありますので」
「ありがとうございます」
まっすぐに迷うことなく、タタルさんは12番ゲートへと飛び跳ねていく。
「うん。タタルさんは大丈夫そうだ」
先程のターイさんのことがあったから、すごくホッとした。
私は骨だけだから、誰にも分からないのに、それでもやっぱり笑って見せる。心の奥底にある、寂しいという気持ちを隠して。
「いいな……」
みんな少し希望とは違っても、ちゃんと何所かに所属ができる。
だけど私はどこにも属せない。
何でも、ガイコツには本当はガイコツの世界があるらしい。
だけど、何故か私が来てしまったのは、妖怪界。
ここにはがしゃどくろのゲートはあっても、ガイコツのゲートはないらしい。
だから私には所属がない。
いつまで経ってもひとりぼっち。
無所属のガイコツ。
今日もここで、ひとりぼっちの私はみんなを仲間の元へと案内する。
私はスカスカの骨だけだから、表情なんて伝わらないのに、それでも笑顔を作って、心の奥底で寂しさを隠して、仕事を続ける。
ホラー・ミラー・スケルトン☆
「は、初めまして」
そしてある日、私は驚くべき受付の仕事をすることとなる。
「……初めまして。お名前は?」
「……冬子です」
「失礼しますね」
震えながら、体質投影機のシャッターを押す。
『人間。人間』
「えーっと……」
どのゲートに、案内しようかな。
そこに現れたのは、妖怪界始まって以来の、人間だった。
※全8話、完結済みです。2話以降の掲載期間は終了しましたので、アーカイブのご案内となります°˖✧またかなり先にはなるかと思いますが、時間ができましたら、番外編と共に本にもまとめる予定です!よろしくお願いいたします♡
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