オリジナル小説

めぐる、メリーゴーランド―螺―

2023年6月5日

スポンサーリンク

めぐる、メリーゴーランド―螺―

 

『ここは運命の螺旋階段。登りついたその先に、あなたの人生みちがあります』

 

 通された扉の向こうには、仄暗い一本の道が続いている。
 その道を挟んで左右に並ぶのは、いくつもの螺旋階段――……。

 道を数歩ほど進んだところには、自分と同じように幾万も並ぶ螺旋階段を見上げる、たくさんの人がいた。

 みんな、自分の螺旋階段を決めて、駆け巡っていく。

 ある人はすぐに決めて。
 ある人はそのまま道を進んで。
 ある人は少し登って途中で引き返し、別の螺旋階段を選んではまた、登っていく。

 私も右も左も見るけれど、気になる螺旋階段は見つからなくて。
 一人だけ、どこも登ってみることなく、ひたすらに道を進んでいく。

 そしてふと周りをみれば、同じように道を歩いていた人たちの多くはいつの間にか自分の螺旋階段を決めていて。
 道を歩くのではなく、既に階段を登り始めていた。

 ある人は誰かと一緒に二人で登っていて。
 ある人は階段の途中で誰かが待っていて。
 ある人は階段の下から誰かが追いかけてくるみたい。

 巡る 廻る めぐっていく。

 不安になりながらも、道を進むその先に、ようやく自分の心を擽る綺麗な螺旋階段が増えてくる。
 そろそろ、私も登ってみようかな。

 彩る 色採る 視界がいろどる

  けれどようやく登る気になれたのに、今度は逆に、綺麗な螺旋階段がたくさんありすぎて、選べない。

 映る 移る 色がうつる

 あれにする? これにする?
 どうしようかと周りを見てみたら、もうかなり深くまで道を進んでしまったから、いつの間にか自分以外の誰も、道には残っていなかった。

 焦る 褪せる 色があせる

 この辺りはたくさんの綺麗な螺旋階段があるのに、もうみんな誰かと一緒に登りだしているか、誰もその階段は使っていないかの、どちらか。

 だから、怖くて選べない。

 回る 周る 右往左往

 この辺りの螺旋階段に惹かれるのに、怖くて進めないの。

 誰にも聞くこともできないし、どうすることもできなくて、道の真ん中にしゃがみこむ。
 俯いて、もう泣きそう。

 私に登れる螺旋階段はないのかも。
 ずっとこの道で一人なのかな。

 沈む 静む 心がしずむ

 そうしたら、何処かから声が聴こえてくる。

「あきらめないで」

 ぱっと顔をあげると、綺麗な螺旋階段のかなり上の方。
 その辺りにはチラホラと、まだひとりで登っている人たちがいて。

「気がつかなかった」

 しゃがみこんで下から見上げる景色は少し違って見えて。
 目線の高さを変えたら、意外にも下からの方が上の方がよく見える。

 何処から声がしたのかを知りたくて。

 探す 捜す 声をさがす

 けれど上の方にいる人を、螺旋階段の真下から見つけるのは難しい。

 間違えてあの声の主がいない方を選んだらダメだから。
 心当たりのある螺旋階段へと近づいてみては、登らずに一度道に戻って確認するのを繰り返す。

 周る 廻る また右往左往

 けれどもう声はしなくって、きっと気まぐれであったのだと、知る。

 やっぱり私は一人かも。
 ぽたりと涙が零れ落ちたとき、その涙に色がうつる。

 それは淡く輝くきいろいろで、私はこの色が好きだったと思い出す。

 そしたら途端に、この辺りの綺麗だった全ての螺旋階段から色が消え失せて、ひとつだけ、色が残る。

「私の好きな、きいろいろの螺旋階段」

 選ぶ 択ぶ 登り先

 そっと手すりに触れると、その螺旋階段は淡く光って、ここで間違いないのだと自分に知らせてくれる。
 私もちゃんと登れるんだ。

 登る 昇る 螺旋階段

 ようやく選べた螺旋階段はその場にいるだけで嬉しくて。
 階段を登るだけで楽しくて仕方がない。

 それなのに。

 くるくると回るから。
 くるくると廻るから。

 最初は軽快に進めていたのに、どれだけ進んだのかが分からなくなって、徐々に嫌になってくる。
 この螺旋階段はちゃんと上に繋がっているのだろうか。

 止まる 留まる 足がとまる

 泣きそうになり、しゃがみこもうとしたその時、また上から声がする。

「あきらめないで」

 声に惹かれて螺旋階段の内側から顔を覗かせ、上をみる。

 そしたら、かなり上の方だけれど、先ほどよりも近い位置で、誰かが螺旋階段の内側からこちらを覗くように、見下ろしていた。

 同じ 同じ 同じ声

 すごく嬉しくなって、小さく頷く。
 一人じゃないと分かって私は嬉しくて笑顔がこぼれでたけれど、声の主はあまりにも上の方にいるものだから、その表情はみえなかった。

 昇る 上る 淡い期待

 本当は少し疲れてきていたのだけれど、声の主もここを登ったのかと思うと、心が疼き、足が動く。

 けれどそのまま登り続けていたら、つい、比べてしまう。
 周りの螺旋階段を見てみると、やっぱりある人は誰かと一緒に登っていて、ある人は誰かが階段の途中で待っていて、もうすぐ合流できそう。

 そしてここまでくると、もう階段を途中で引き返す人なんていなくって。
 みんな、誰かと一緒か、誰かが待っている。

 萎む 凋む 淡い期待

 声の主はずっと上に進んでいる。
 私を待ってはくれてないみたい。

 だってもう、最初に見かけたところくらいまではきっと、追いついている。

 登る 上る 一人でのぼる

 そしたらかなり上の方へとやってきたからか、なんだかとっても肌寒くなってくる。
 それも一人だから余計に寂しさまでもが割り込んできて。

 寒いから止まりたくないのに、寂しくてこれ以上を進めない。

 冷える 非得ひえる 心がひえる

 そうしたら階段の片隅に、白い箱をみつける。

『ご自由にどうぞ』

 蓋を開けてみると、そこに入れられているのは、毛布。

 毛布を借りることにする。
 一人だけれど、何だかとっても温かい。

 戻る 毛取もどる 心の灯

 さらにしばらく登ったら、ちょうどライトが当たる位置に差し掛かり、眩しくて。
 なんだか上手く、進めない。

 眩しい 間不まぶしい 前がみえない

 そしたらコツンと足に何かがぶつかって。
 そこにあるのはとても大きな白い箱。

『ご自由にどうぞ』

 蓋を開けてみると、そこに入れられているのは、箱のサイズには似合わない小ぶりのサングラス。

 視える 見得みえる ゆっくり進めるくらいには

 誰が箱を置いてくれていたのかな。
 やっぱり上が気になって、また内側から覗いて見上げてみるけれど、もう声がすることもなければ、確認に下を覗いてくれることもない。

 気になる 奇になる 箱の主

 そうしたらぱったり箱は無くなって。
 ひたすらに螺旋階段を登る時間が続く。

 もう寒くはないし、眩しくもないけれど、寂しさだけはずっと残ってる。

 襲う そう 不安がおそう

 ちゃんと一人で登れるけれど、一人で登った先に何がある?

 ふと下をみると、もう降りるよりはきっと登りきる方が近くって。
 突然に誰かがいる階段や、元いた道が恋しくなる。

 停まる 止まる 足がとまる

 登る方がいいと分かりきっているのに、どうしても足が動かない。
 すると、コロンコロンと階段の上から転がってくるのはとっても小さな白い箱。

『ご自由にどうぞ』

 蓋を開けてみると、そこに入れられているのは、絆創膏。

 別に足は痛くないの。
 心が動かないの。

 拗ねる 素寝る すねる心

 だってこれは、私にではなく、誰でも使っていい贈り物だから。

 本当は気づいてる。
 嬉しいのは、私だけ。

 足は痛くないから絆創膏は使わないけれど、足が痛くて止まってると思われたらいやだから、再び登る。

 のろり 乗ろり 形だけ

 どれだけ足を動かしても、どれだけ登り進めても。
 いつまで経っても、声の主には追いつかない。

 ずっと、私は一人きり。
 けれど、自分の先を行くのもひとりだけ。

 だから、つい、箱を見つける度に分かっていても、気を引かれてしまう。

 揺れる 遊れる 期待と不安

 それでも、悩んでいても、足が自然と進むくらいにはこの螺旋階段に慣れてきていて。

 登る 昇る 螺旋階段

 やっぱり定期的に目に入るのは白い箱。
 中身は毎回違うけれど、書かれている文字はいつも同じ。

『ご自由にどうぞ』

 そうして気づく。
 もしかしたら、私ではない誰かに追いかけてほしくて、この箱は置かれているのかも。

 声の主が待ってはくれないのも、箱の中身がみんなに向けての贈り物なのも、声の主が一緒に登りたいのはきっと、私ではない、誰かだから。

 期待が消えて、芽生えるのは恥ずかしさ。

 見得みえない 診得みえない もうみない

 でももう引き返すことも難しい位置だから、とりあえず、流れ作業で進み続ける。
 螺旋階段の幅が狭くなってきて怖いけど、ずっと登ってきたから息が切れる気がするけれど、やっぱり進む。

 恥かしくって何もみたくないから、休まない。
 自分だけが一人だと気づきたくないから、何もみない。

 触れない 振れない 箱の中身

 けれどもう見ないと決めていたのに、箱の蓋を開けなくなってから、箱の蓋が取り外されて置かれるようになっていく。

 飴にジュースに、かわいい人形。

『ご自由にどうぞ』

 でもいつだって、同じ文字。

 不利魔ふりまれる 振り回される この贈り物は誰のもの?

 確かに足は動いているのに、ちゃんと登れているのか、分からない。
 確かにきいろいろは見慣れてきたから、ちゃんと光っているのか、もう自分では気づけない。

 とまる? すすむ? この螺旋

 そうしたら、向こうから声がする。

「こっちへおいでよ」

 声がする方を向くと、反対側に位置する螺旋階段から、ひとりの人が手を振ってくれる。
 とっても綺麗なピンクの螺旋階段。

 ずっと他の螺旋階段の色はもう見えていなかったのに、向こう側のピンクがすごくすごく綺麗に見えて、驚く。
 ふとピンクの螺旋階段の下の方をみたら、色はついていなくって、ピンクの螺旋階段はかなり上の方から色がつく仕組みだったみたい。

「ずっと君をみてたんだ。ここからは一緒に登らないか?」
「どうやって?」

 今からこのきいろいろの螺旋階段を降りて、ピンクの螺旋階段を登り直すのはとっても大変。
 躊躇っていたら、ピンクの螺旋階段にいるその人が、言う。

「君が来たらと、ずっと橋を用意して待ってたんだ」

 それを聞いて、思わず足をとめる。

 その人は、言う。私を待っていたと。
 その人は、言う。私の為に橋を用意していたと。

 きいろいろの階段を登っても、最期にひとりなら、イヤだったの。
 それで、ピンク色もきいろいろの次に好きな色。

 もっとピンクの螺旋階段を近くでよく見てみようと前に乗り出して、もうきいろいろの螺旋階段は幅が狭いから、思わず転びそうになる。
 けれど、階段に取り付けられていた滑り止めが守ってくれて、何とか踏みとどまる。

 そうして気づく。
 きっと幅が狭くなってきた辺り。
 階段の途中から、ずっと滑り止めが取り付けられていたことに。
 よく見たら、この滑り止めはとってもとっても、真新しいの。

 狡い ズルい こんなのずるい

 しっかりと、もう転ばないように手すりを握りながらピンクの螺旋階段を確認する。
 そうしたらやっぱり、滑り止めなんてついていないの。
 横の螺旋階段も、そう。
 他の螺旋階段は滑り止めはないみたい。

 巡る 廻る 想いがめぐる

 だって初めて通るから、知らなかったの。
 だって他を知らないから、気づかなかったの。

 ぽたりと涙が零れ落ちたとき、その涙に色が映る。
 ピンク色ときいろいろの両方が。

「私、きいろいろが好きなの」

 決める める 自分の螺旋階段

 ピンクの螺旋階段を断って、またきいろいろの螺旋階段を登りだす。
 登りきったその先は一人かもしれないけれど、まずは登りきることに決める。

 一段、また一段。
 前よりも強く、自分でも分かるくらいに、きいろいろが、光る。

 一段、また一段。
 ちゃんと決めるとこの螺旋階段を登れることの喜びが、湧いてくる。

 くるくると光って回るから。
 くるくると楽しく廻るから。

 それはまるで、遊園地のメリーゴーランドのよう。

 決めてる 決めてる 私は決めている

 この螺旋階段を登りきった先、一緒に進めるかは分からない。
 でも螺旋階段を登りきった先、誰かと一緒に進むなら、あの声の主がいい。

 だってあの声は、本当にあきらめそうになったとき、聴こえてきたから。

 一段、また一段。
 一人でもちゃんと登る。ここは自分の螺旋階段だから。

 一段、また一段。
 一人でもちゃんと登れる。自分の足で登ってきたから。

 踏みしめる ふみしめる 螺旋階段

 そうしたら、数段先、また箱が置かれている。
 今回は箱の色がほんのりピンク色。
 だけど、蓋はまた閉められているみたい。

 でも大丈夫、もう決めているから。

 開ける 明ける 箱をあける

 蓋を開けてみると、そこに入れられているのは、赤い毛糸。
 もう文字はかかれていなくって、だけどよくみると、この毛糸の先はどこかに繋がっているみたい。

 掬ぶ 結ぶ 小指にむすぶ

 繋がる先はあの声の主がいいと、祈りながら。
 だって、自分の先を行くのはきっと、ひとりだけだから。

 多獲たどる 辿る 赤い糸

 大切な意図いとが絡まらないように、進んだ分だけ自分の腕に赤い糸を巻き取りながら、階段をのぼる。

 急ぎ過ぎて、繋がる先のその人を、引っ張って落っことさないように。
 遅すぎて、繋がるこの糸が、引っ張られて切れてしまわないように。

 ちゃんと自分にぴったりのスピードを保って。

 廻る 巡る 駆けめぐる

 私のきいろいろの螺旋階段。

 頂上がみえたその先、たくさんまわった運命がめぐる。

 出会う 出逢う 運命の人

 頂く 戴く 私の人生みち

 

Fin

 めぐる、メリーゴーランド―螺―

まわる、コーヒーカップ―旋―

 

世界の子どもシリーズ

フィフィの物語

はるぽの物語図鑑

 

 

-オリジナル小説
-, , , ,

© 2024 はるぽの和み書房