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その手に触れられなくても~Secret episode7.5➁~世界の子どもシリーズ―過去編―

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その手に触れられなくても~Secret episode7.5➁~

 

 

χχχ

 

「やっぱり、だいぶ我慢してたんじゃない」
「……そっちもな」

 口周りについた血は、ハンカチを使わずとも拭い終えたため、鼻から再び血を流すチシリィに、貸してやる。けれど、チシリィは「リアちゃーん」と泣きながら、鼻ではなく涙を拭い出すのだから、呆れて笑ってしまい、ダルシィもまた、再び口の中で鉄の味を噛み締めることとなる。

「な、なんなんじゃ。お前らは。み、緑に何をした?」

 けれど、引き受けてしまったからには仕方がない。本当はこの場にいる全員が身体を起こすのさえ限界の中、厄介な騒がしいエセ薬師を相手にするため、ダルシィはため息をつく。

「大丈夫だ、お前には馬鹿とは言わない。お前は馬鹿ではなく、救いようのない愚か者だからな」
「なっ!? ピンクの我になんという……!」

 側近ももはや、自分の主の世話をする気も失せたようで、ただ茫然と床に座り込んでいる。

「……いいか、本当はみんな知っている。お前、ピンクじゃなくて、ものすごく淡い水色だ。ほぼ白と言っても過言ではないくらいのな。だから側近の力でピンクに見えるように細工している。三人いつも一緒にいるのも、ピンクに拘って騒ぎ続けるのも、そのためだろう?」
「な、ななな、何を言うのじゃ!」

 側近はそれらを言い当てられても何も言わず、爪の手入れを始めたり、手櫛で髪を整えたり、思い思いのことをしている。
 ダルシィは小さく眼鏡をかけ直し、レンナではなく、あえて側近に、ボロボロの身体でも最大限に威圧的な魔力を放ちながら、言う。

「……いいか。もうこの国は終わる。女王は……あの方は……もはやかつてのあの方ではない。……あの方の証言で、アトラントの者が多く命を失った。海の外のことは正直詳しくは分からないが、俺が知る限り、今後は宙でも戦をする気だ」
「な、なんじゃ、それが今さら何だと言うんじゃ! 今までだって戦で我らや他の者の海域を滅ぼしただろうが」

 珍しく、女王に向かって媚びへつらうのではなく、憎しみの滲んだ声色でそういうレンナの言葉は、彼女が日頃放つ言葉の中で、嫌いなりに一番に理解できそうだとダルシィは思った。

「そうだ。あの時はまだ俺も子どもで……弱かったけど。それでも誰かの生きる場所を奪う戦が嫌だったんだ。……あのな、お前がずっと目の敵にしていた緑のリアは……記憶がない。海に来たとき、リギの時から記憶がなかった。だけど、俺は偶然二人の会話を聞いてしまって、……知ってるんだ。最初に海で戦をあの方が始めようとしたとき、リアは止めようとしていた。前王が亡くなり、誰も女王に意見が言えない中、ひとり彼女は反対していたんだ。……そのとき、確かにお互いのことを、カーナ、カイネと呼び合っていた。テトを戦になんて行かせない。アヴァロンに帰る、天空城へ私たち三人を連れて行って、ってね」

 レンナはそれを聞いても反応はなく、恐らく理解ができていないのだとダルシィは悟る。けれど、リアが戦を止めようとしていたということは何か思うことがあるのか、珍しく騒いだりせず、静かに愚か者なりに考えているような表情が伺えた。

「待て。ではあの緑……いや、あの子は……ムーの姫……なのか?」

 ダルシィは小さく頷き、流石に側近は海の外で起こったことも知っていることに心の中で密かに安堵の息をつく。

「俺は本当にもともと、この海の人魚だったから、波のときの件に関してはよく知らない。けど、変だった。初めてこの海にやってきたとき、リギと名乗っていた頃から彼女は記憶がなかった。……そして記憶がないはずなのに、女王陛下のことは親戚だと、覚えていたんだ。それも偶然かと思ったけど、会話を聞いてしまったときに、色々確信に変わった。……途中で、リアが叫び出したんだ『やめて、奪わないで、せっかく思い出したのに』ってね。流石にまずいと思って止めに入ろうとしたら、リアはもう眠っていた。……そこから2年目覚めず、起きたら綺麗に全部を忘れていたんだ。リギ時代のことも、それより前のことも全て……女王以外のことを除いてね」

 それに息を飲むのは側近だけで、依然、ぽかんと間抜けそうに口をあけているレンナをみて、ダルシィは失笑してしまう。

「……訂正しよう。お前は本当に馬鹿ではない。愚か者で馬鹿だと言いたいが、馬鹿という言葉さえ惜しい。馬と鹿に失礼だからな。……無知で学ぶ意欲のない、本当に救いようのない愚か者だ」
「な、なんじゃと、偉そうに! 侮辱罪で処刑してやるっ! それに記憶がないからといって、緑が緑なことには変わりないじゃろう。卑しい緑が二度記憶を失くしたことが、我に何の関係があるというのじゃっ!」

 レンナの声にあわせて、みるみる黒い爛れが広がっていき、側近の一人がとうとう、呆れたように口を開く。

「レンナ様。まずはお言葉遣いを正すことから始めてください。また爛れが痛みますよ?」

 まだ騒ぐ程度が軽いからか、リアの痛み止めが効いているのか。黒い爛れが広がる範囲の割に、レンナは痛がらなかった。けれど、余程に痛みが怖いのか、側近の脅しに身を震わせると、レンナはぐっと息を飲み、黙り込んだ。レンナが静かになるのを確認したところで、もう一人の側近がダルシィに問う。

「……女王がずっと……ムーの姫を……記憶を奪ってまで海に留めた理由は何なの? ムーの姫は……戦を止めようとしていたというの? では、あの噂は一体……」

 ダルシィが首を振るのと入れ替わるように、チシリィが気だるげに声を出す。それは説明が嫌というよりも、心底、レンナやレンナの側近にわざわざ教えてやるのが尺だとでもいうようなものだった。

「私はサンムーンの出身。……あのとき、陸で一度助かったけれど、足場が崩れて海に投げ出された。でも、みたの。逃げ遅れた子を鳥族が空へと救い出して、それに間に合わなかった者は女王陛下が海へ。私もあのとき女王に助けてもらった。……そのことは感謝してるけど、女王は私たちを全員、無理矢理魔法で人魚の姿に変えた。色別式にでた多くの人魚は、本来人魚じゃない。元々、魔法が使える素質もない子の方が多かった。女王は確かに命を救ってくれたけれど、否応がなく全員を人魚の姿に変えて、色別式で色を与えた」

 鳥族の話までを聞き、側近は複数の噂の中で一番信憑性が低いとされていた方のものに心当たりがあるらしく、静かに息を飲む。

「……わかった。女王は確かに嘘をついているようだ。たくさん……」
「たくさん過ぎて、真実の方が少ないかもね。でね、私たち街の人魚は移住してきたのよ、この地球の地下世界にね。……元々の星がひどい環境汚染で住めなくなったから」

 次に口を開くのはエミィで、かつての故郷を想ってか、その瞳は寂し気に揺れるのに、言葉にはどこか怒りのようなものが滲んでいた。

「もともと、女王は街の様子を見に来るようなお人ではなかったよ? 王は移住前も移住後もよく視察に来てくださっていたけれどさ。それでも、女王の冷酷さが増したのは、この数年さ。……街では密かに武器商人がたくさんの武器を仕入れ始めている。それも、元々の星でだってお目にかかったことのない、最先端の魔具ばかりのね」

 互いに互いの怒りや身体の疲れを労わるかのように、シルドウとエミィは手を握りあいながら、騒ぐだけで本当の街の様子を何も知らないレンナたちに事実を言ってやる。弱り切った身体とは裏腹に、怒りだけが暴れるように全身に沸き、瞳が揺らぐ。
 ここでレンナたちがまた知らぬ存ぜぬ、関係ないというような反応を示そうものならば、この場にいる全員が、騒ぎばかり起こす彼女たちにこの全ての怒りをぶつけていたことだろう。
 けれど、その事実たる言葉を聞くや否や、側近の両方が黄色と青の濃い色の目を見開いたのがわかり、ダルシィだけでなく、チシリィも、せめて側近に関しては、そこそこに力があるだけでなく、それなりの脳と知識を持っていたことに、ほっと息をつく。

「よかった。その反応……お前たちは予想通りにかろうじて白だ。お前らは本当に愚かな目立ち方をするから、逆にどこにも阿保過ぎて属せていないと思ったんだ。……いいか、もう一度言う。過去の愚かな振舞いはもう変わらない。救いようがない。だけど、今から少しでも救われたいなら、その無知を自覚して学べ。分かりやすく言う。お前の国を戦で奪ったのは、お前が媚びへつらう女王陛下で、それを止めようとしていたのがお前が理不尽な理由で虐げていた緑のリアだ。いいか、もうこの国は終わりだ。あのお方……女王陛下はもう信頼できない。今度は海から出て、戦をしようとしている」

 レンナが唇を震わせながら、それでも知恵を絞ったのだろう。馬鹿ではないとでも言うように、自信ありげに反論するのだ。

「人魚が海から出られるはずがないのに、どうやって海の外に戦を仕掛けるというのじゃ。人魚は陸では生きられまい。我は無知でも愚か者でもないわ!」
「……ああ。お前にひとつ良いところがあるとすれば、その脳みそだ。無知で救いようのない愚か者だから、どこからも声がかかっていないんだろうな。さっきチシリィが言ってただろう? ここにいる人魚の中の半数近くは、あのときに無理矢理人魚にされ、力を与えられた者なんだよ。もし、その者たちが陸にあがる術をもう一度手にしたらどうなる? ……武具がたくさん買い揃えられている。あえてムーの姫を捉え、悪い噂をたくさん流して、どんな戦を繰り広げようとしているか、分かるか? あまりにも悲惨すぎて企てている者以外は想像がつかないだろうし、俺は想像もしたくない。だけど一つ確実に言えるのは……その規模の戦が起これば、この国が終わるどころか、いくつの星が滅ぶか分からないってことだ」
「……な、なな、別にそれくらい、我にだってわかっておるわっ!」

 側近たちは開いた口が塞がらないとでも言うように、すっかりと固まってしまった。無論、どこか青ざめた表情で。
 そのことが幾ばくか、救いようのない愚か者にとっての救いであると、ダルシィは思う。
 そして、つり上がった細い目をさらに細めて抗議するレンナのことを、心のままに鼻で笑ってやる。

「いいや、わかってないな。お前たちは一体、どれほどの期間、知らなかったとはいえ、戦を止めようとしていた姫を、虐げてきた? それどころじゃない。そもそも、お前たちが自分こそ本当の薬師だの何だの騒ぐから、本来彼女の薬で救われるはずだった多くの人が苦しみ、一体何人もの人が病で命を落としたか分かっているのか? 戦だろうが、病だろうが、失う命の重み自体は変わらない。理由は違えど、お前たちだって、女王陛下と一緒だ」
「……っ」
「私たちは……」

 真っ先に言葉を詰まらせるのはやはり側近たちで、けれど、レンナも流石に自分がしてしまったことの重さを、少しは理解しだしたのだろう。静かに黙ったまま、ちゃんと、ダルシィの目を見かえしたのだ。

「何度も言うが、してしまったことはもうどうにもならない。俺たちもお前を許す気はない。だが……今からの行動は変えられる。お前は女王陛下のように、誰かの命を奪う方に加担するのか、それとも、阻止するほうに加担するのか。いますぐにその判断ができるよう、今日のことを学べ。さっき、怒りながら言ってたよな、戦で自分たちの海域を滅ぼしたくせにって。それなんだ、誰だって奪われたら嫌なんだよ。物も、国も、星も、命も。子どもが友達や兄弟とおもちゃの取り合いで喧嘩になって、それこそはじめの方に覚える大切な感情だ。大人になるにつれて立場や、仕事や、領土や、利益。忙しさにのまれて、奪い合うことの方が多くなって、それらが当たり前になり過ぎて、逆に忘れてしまうんだ……奪われる苦しみの方を。誰だって大切なものを奪われたら嫌なんだ。誰かの大切なものを不当に奪ってはいけないんだ」

 いつのまにか熱の籠ってしまった言葉を、ダルシィはレンナに分かりやすく言い直そうとも、追加で説明しようとも思わなかった。これで伝わらなければ、もうどうにもならないのだから。
 けれど、どこか遠くをみるように、レンナが自ら呟いたのだ。

「奪ってはいけない……」

 その手は意識的か、それとも無意識か。ぎゅっと、投げ出したはずの扇子を握りしめていた。その様は、ダルシィやチシリィたちにほんの少しではあるものの、彼女に成長する気があることを感じさせた。
 けれど、奪ってはいけないということを覚えたとして、残念ながらいきなり賢くはなれまい。レンナの代わりに知恵を動かすのも、実質動かすことができるのもまた、彼女の側近たちなのだ。

「私たちやレンナ様は……一体何をしたらいいと言うの?」

 ダルシィのかわりに、今度こそ真っ白なハンカチを赤く染め、チシリィがふんっと、鼻血の止まった鼻を鳴らしながら言う。

「無知のままに騒いで、無知のまま知らず知らずのうちに戦争に加担するような駒として動かされないで」
「な、なんじゃ、それは」

 とうとうダルシィは声を苛立たせ、今日一番に威圧的なエネルギーを放ちながら、レンナを睨む。

「そのまんまだよ。お前は馬鹿過ぎて、阿保過ぎて、今までこの戦の企てに加えられてなかったんだよ。……女王陛下だけじゃない。どこかの海域の、どこかの国が一枚絡んでるんだ。だから無知のまま、愚かにもどこにも属さないままに、いいように駒として戦の企てに使われることがないようにしろ。これ以降、例えばその黒い爛れの薬をやるとか、お前の階級を準ピンクからピンクにあげてやるとか、美味しい話にのって、何も考えずに変な騒ぎや頼まれごとを、誰彼構わず引き受けたりするなよ? 要は何かをするんじゃなくて、余計なことをするなってことだ。……あの記憶のない姫を海の外へと逃がすことが、大きな戦をとめる唯一の光だ。邪魔をするな」

 

to be continued……

過去、現代、未来を行き来しながら連載中!🐚🌼🤖

※不定期更新、期間限定公開になります📚製本作業完了後、こちらでの掲載は終了となります✨また、シリーズ全体としては書き下ろしを含む番外編込みで全て繋がっていきます♪宇宙間の星、国の関係やカイネの過去、各種族の秘密は番外編よりお楽しみいただけます🐉💓よろしくね( ..)φ✨

 

はるぽ
次回からの更新について

今回の過去編のepisodeで大きくシリーズ全体として、過去編、earth編、現代編、未来編の4つともバランスがとれた状態になりましたので、テンポをあわせて時代行き来しながら更新を進めていきたいと思います✨
どの時代も新しい展開になっていきますので、ぜひ、よろしくお願いいたします<(_ _)>💓

そして、その手に触れられなくてもの次のepisode8は、私が創作をし始めて、ずっとずっと、子どもの頃から夢にみた、一番に書きたかったシーンです。
ちょうど、物語を書くということをはじめて10年が経ちます。
このホームページ自体は、書くのを続ける、というのを一番の目標に進んできました。なので、なんとか、そのときそのときの自分にできる全力で挑み、特に世界の子どもシリーズに関しては、最後まで書き続けることを一番に想って、進んできました。10年続けて、ようやくに自分が一番に書きたいシーンまでたどり着けて、すごく嬉しく思います。

恐らくepisode8は長くなることが予想されるので、区切ることになるかなと思っております。そのため、書きたいシーンが次回の更新にくるかは分からいですし、どの時代を書くかまだ決めていないので(笑)
何となく、一番期間が空いてしまっている未来編をとは思っているのですが、ぜひ、次回の更新も覗きに来てくださったら嬉しいです!

ご閲覧ありがとうございました!

今後ともよろしくお願いいたします。

p.sこちらSecret episodeなので番外編という形になりますが、重要なところなので期間限定にはせず、製本時に本編と共に閉じることにしています🐚📚ちなみに、製本時のサブタイトルは図書室の侵入者です✨余裕があれば、水晶記録機を託されたメンバーとのリギ時代の物語も書きたく思っています♪

 

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