その手に触れられなくてもep24①
「どうか証人を」
『心得た』
ネロは時間と次元を繋いだ特別なトキでしか生まれない、特定の選択肢のみに発生する運命の分岐点を、羅針盤に選ばれし者としてアカシックレコードに刻んだ。
アヴァロン側から特別に刻むトキ、必ずムーの証人が必要となる。
ネロはムーの証人を鏡越しにいる父とし、そして、アヴァロンの王子とムーの王がアカシックレコードを刻んだ瞬間をこの場にいる者、これから記録をみる者へとわざと目撃させたのである。
「アカシックレコードは全宇宙の発展の中で、特別な運命の出来事というものが生まれしトキ、どの時間にも影響されないアヴァロンの宇宙図書館へと刻まれていく。そして、時間と次元を繋いだ特別なトキのなかでしか生まれない、特定の選択肢に辿り着きしトキにのみ発生する運命の分岐点を、時計盤と羅針盤に選ばれし者は特別に刻むことができる。時間と次元、過去、現在、未来。どれだけの時間と空間が戻り、過ぎ去ろうとも……決して色褪せない記憶として。……今の時間が過去と繋がった。……いいか、一度目の星詠みでは何も詠めない。これが正解なんだ。そして、カイネがタルバニアと血の契約を結び主従関係になることで、時間を巡って……血が主の命の危機に反応し、タルバニアが時刻封が破られたことに気づける。……この特別な運命の分岐点を、特別なトキの調整のなされた中でアカシックレコードに刻むことで……今に続いている可能性と、今から築き上げる可能性。ひとつの運命を守る」
ネロは巧みに隠された空間記録の魔具がどこにあるのかを分かっているのだろう。誰もいないはずの一点をみつめ、その瞳を怒る竜の炎のごとく、真っ赤に揺らして、その瞳だけで、威嚇するように好戦的に笑んだ。
「いいか? 時間と命の大切さが分からない奴は黙るといい。何者かが過去に介入しても尚、このひとつの可能性が残るのはカイネが皆を守るために命がけで先ほど星を詠んでくれたからだ。カイネに手を出してみろ、そのまま未来は続くが、捻じ曲げられた過去が修正されない限り、カイネを損なった瞬間に時刻封が破られたことに気づき、自国へと無事に帰れた過去さえもなくし、どの時点を生きていても、過去を書き換えた者が操ろうとしている未来に勝手に変わっているということだ。……最悪の場合、もし過去が書き換えられた未来を迎えればその瞬間に、自分でも気づかぬうちに自分の存在が消えていることもあれば、跡形もなく大切な者が最初から存在しない世界になっていることもある。存在そのものが世界から消えるということは、共に過ごした思い出や記憶さえなかったことになるということだ」
何度も何度も幼き頃から教えられ、星を詠む度に自然と理解するこの事実を、言葉通りに迫られる日がくるとは、思いもしなかった。
それはカイネ以外の者も同じなのだろう。いつでも応戦できるよう、氣と魔力を張り巡らせているというのに、かつての懐かしい過去でもみるかのごとく、どこか遠くをみるような、脱力をも感じられる表情を浮かべているのだ。ハミル家もブラウン家も、どの魔法族も。
「……この意味が分かるものだけ、一分一秒の時間を大切に、生きるといい。誰だって、受け入れがたい過去もあるだろう。その全てを受け入れろとは言わない。だが、どんな時でも時間は流れていく。時間が経てば忘れることもあれば、時間が許してくれることもある。それでも……どんな時でも誰かが生きた過去そのものを忘れるのではなく、無かったことしてはいけない。誰かの生きた軌跡というのは、必ず、どこか気づかぬところで、宇宙に流れた時間の大切な一部として刻まれているんだ。そして、誰が、何処で、どんな形で、時間を共有しているかなんて本当は誰も知らないんだ。街ですれ違っただけでも、顔さえみたことのない誰かが作ってくれた食物を口にしただけでも、時間を共有していることになる。……過去をひとつでも変えれば、思いがけず他のものも変わってしまうんだ。だから……星を詠む俺たちアヴァロンの魔法族は星が導く運命の人がいる。星を詠む度にその者のことを強く思い出すんだ。決して失いたくない大切な人のことを。そして、失いたくないからこそ……絶対に俺たちは過去に介入しない。……時間は誰だってコントロールできない、流れゆくものだ。俺たちも時間を操りなどしない。宇宙が許すその時に、繋ぎ、巡らせるものなんだ」
ネロの言葉に想いを馳せるように、星に引っ張られるように、多くの魔法族が床のアイオライトに視線を向けた。
一人の魔法族が顔を伏せるのに合わせて、その耳に付けられたイヤリングが大きく揺れていく。そのイヤリングはもちろん、魔法を使うのを手助けする星が選んだであろう石が使われたもの。ただ、その石の種類が左右で違い、カイネは一目みて、その者には既に星が導く運命の人がいるのだと分かった。視線をずらしていくと、ハミル家にブラウン家、他の魔法族の何人かのイヤリングもまた、薄暗い中でも左右で違った輝きを放っているのが確認できた。
大切な者とイヤリングを交換する際、魔法族は永続魔法をかけて愛を誓う。そのように大切な存在がいる者はきっと、今、まさに過去が変えられたという現実の恐ろしさを、我が身のことのように感じているはずだ。そしてそれは、星が導く運命の人に出会っていなくとも、それに近い形でその恐ろしさというのを鮮明に想像できるのである。
星を詠む者は、まだその運命の人に出会っていなくとも、この宇宙のどこかに存在するという事実が本能的に分かるのである。息を吸うのと同等に、当たり前のこととして。
するとどうしたことか、やはりまだ出会わぬ運命の人といつの日か出会うため、もしくはそれが恋愛でなくともその者が幸せに過ごすのを願うからこそ、過去に介入するという選択肢は誰も思い浮かばなければ決してそのようなことはしないのである。
過去への介入が大きければ大きいほど、その事象が当たり前に馴染んでしまう事象であればあるほど、物も、自分も、大切な誰かも。人知れず失ってしまう可能性が高い。出会うべきものが出会わなければ、新しい知恵や発明が生まれなくなり、育つはずの作物が育たなければ、栄養の偏りや飢餓、流行り病の薬が作れないといったことが発生するからだ。さらにはその者が存在したという過去の事実さえ消えてしまえば、どれほどにその者を愛する者がいようとも、もう思い出として思い出すことも叶わなくなる。
そういった事象が直結するのが、サンムーン。
今の時点で新たに生まれている命をなかったことにはできない。だからこそ、変えられた過去を本来のものへと繋げるまで、過去が変えられた今を受け入れ、一分一秒の時間の積み重ねで切り開いていくしかない。
婚約者も同じことを考えているのだろう。彼の唇がカイネが思い浮かんだ言葉通りに動いていくのである。
「“サンムーン”だ。アカシックレコードに特別に刻むトキ、パスコードが必要になる。本来なら証人にしか明かさないが、ここにいる者、この記録をみる者全てに伝えておこう。いいか……これよりそれぞれの星で違う時間が流れようとも、宇宙全てで起こる運命は同じとなる。どの星に住んでいようが、その星や国にとっての太陽と月が存在し、それぞれの時間での昼と夜があるだろう。月を見る度に、太陽の光を浴びる度に、生きていることを思い出すといい。その大切さを噛み締めるといい」
to be continued……
!attention!
先読み・製本版Vol.7(No.31~No.33.3,34~35,song)のHPでの更新時は全15回に区切っての更新となります🐚(※こちらの巻で「その手に触れられなくても–サンムーン編–」は完結になります🐉)
先読み・製本版Vol.8(No.36~40)のHPでの更新は全7~8回に区切っての更新予定です🎆(※単行本としてもお楽しみいただける構成にしてあります)現代編に突入です🌟
🐈お知らせ🐈
諸事情でPDF特典を中止し💦
代わりに表紙のイラストに色々使用していけたらなと思っております🎨
秘密の地下鉄時刻表は10冊に一度、表紙を切り替えていけたらなと準備してます🚇✨
年内にはVol.9もまとめたいと考え中です⚖✨
HPも作品制作も試行錯誤しながらなので
変更を入れたり、予定も調整しながら進めさせて頂いているのですが(*- -)(*_ _)ペコリ
大きな方針として
一度腕を痛めてしまったので、微調整がしやすい隔週で2タイトルの連載に切り替えさせて頂いており📚
今後もこのスタイルでHPを続けられたらなと思っています📚📚
Vol.8まで仕上がって思ったのですが、カタツムリ更新も嫌なので……🐌
現在隔週連載中のループが完結したら、次のタイトルとしてフィフィを連載に持ってくるか、世界の子どもシリーズの現代編に該当するearth to earth~古の魔法使い~を魔法茶屋通信として持ってくるかで悩んでいます😲
年末年始やGWは何かできたらなと常々思ってHPを頑張ってきたのですが、今年盛大にサーバーのエラーをだしてしまって、反省をしまして😢
連休枠に連載タイトルを入れると大変なので、フィフィや星のカケラをちょっとずつ、可能な範囲で更新するのも良いかなと思い、一番お楽しみ頂ける形で連載タイトルも調整を加えていきたいと思っています✨
earthを並行して書くかどうかでVol.9の編成が変わってくるので、ループの完結まで時間はあるんですが、ちょっと早めに悩んでみました💡(笑)
今後、HP更新より製本版の発行の方が早くなっていく予定なので、もしearthを並行して連載するときは、どこかのタイミングで魔法茶屋通信と連動させて発行するかと思います📚
そして、8月中にVol.7・8を発行したいと言っていたのですが、軽い熱中症になりまして、ちょっと遅れました🌞💦
軽くてもめちゃくちゃしんどいので、みなさんもお気をつけください🥤
区切り的に今週短めだったのですが、次の次くらいからちょっと長くお楽しみ頂けるかと思います🐚💓🐉
ご閲覧ありがとうございました!✨
✶✵✷
星を詠む
誰の為に?
星詠み(先読み)・保存版はこちらから☆彡
このepisodeの該当巻は『Vol.7』になります!
※HPは毎週土曜日、朝10時更新中🐚🌼🤖
秘密の地下鉄時刻表―世界の子どもシリーズ―更新日
第1・第3土曜日
先読みの詳細は「秘密の地下鉄時刻表―世界の子どもシリーズ―星を詠む」より
