小説・児童文学

ループ・ラバーズ・ルール_レポート11「エリート」

2025年4月26日

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ループ・ラバーズ・ルール_レポート11「エリート」

 

 祥は鼻を強く擦りながら、抱き合う二人の姿を見守っていた。
 どうにも、子猫や困っている人を見つけると放っておけない性質の祥は、世渡りだけでなく、友だち付き合いも得意ではなさそうなリファについお節介を焼いてしまいたくなっていたのだ。
 盗み聞きをするつもりがあった訳ではないものの、あまりにも不器用なリファが心配になり、大慈と近すぎず離れすぎない位置で、モゴロンの後に繋げる言葉の続きを、いつでもサポートできるようにしていたのである。

「…………」
「…………」

 けれどリファから続く言葉は途切れ途切れで、その全てが突拍子なく、話す本人が不器用だからとかではなく、どうにも想像しがたいものばかりなのだ。その多くが祥にはよく分からなかったものの、ユーキにはちゃんと、その意味が伝わったのだろう。会話が不自然に止まるということはなかった。それでも流石に、リファが泣き出したときは思わず口を出しそうになってしまったが、それさえも杞憂に終わり、祥たちが助け舟など出さずとも、ユーキがすぐに動いたのだ。むしろ、リファに抱き着いた瞬間のユーキの表情は、何か悔しさも滲むようなものであった。
 例えば普段いるメンツでいうと、摩季はああいう恰好をしてはいるが、大学内でも上から数えた方が早いくらい、成績は優秀。基本的に真面目な性格だ。大慈も大慈で摩季ほどでなくとも成績もよければ、祥には分からない次元で、地頭というのがよいのだろう、出来事に対する対応力や推測力が高いのだ。日々、祥やデコポンコンビでは見逃してしまうような僅かな情報から多くを拾い、次へと繋げていくことが度々あった。
 黙ったままの大慈を盗み見ると、バンドの演奏中にみせるような、集中しているときと同じ瞳をしていた。その瞳の先に映っているのはリファとユーキであるのだが、なんとなく、見越している事柄がそれだけではないのが伺えて、祥も大慈に倣い、相方の考え事が終わるのをじっと待つことにした。

「あのとき駅の方向に進んだ時点で気づくべきだったな」

 ようやく口を開いたその言葉は、大慈の独り言か、それとも祥に話しかけているのか。
 どちらともとれるその答えは恐らく祥次第なのだろう。

「…………」

 ただ残念ながら、それは必然的に大慈の独り言にせざるを得なかった。

 祥にはその意味が理解しきれなかったのだ。黙り続ける祥に対し、それを馬鹿にするでもなければ、無視したと気を悪くするでもなく、大慈もまた独り言の補足を呟いてくれるのである。

「ジョウセイ高校の子がファルネに乗るわけない。乗ったとしてもわざわざ目立つ制服のまま乗ったりはしないだろうな」

  ここまで来てようやく、祥も賢い部類ではないなりに、ただリファが浮世離れしている訳でなければ、何かしら事情を抱えているのが漠然とでも、点と点が線として繋がって理解が追い付いてくるのだ。

「そうか、そうだよな。今だってユーキちゃん、SPみたいな人が車んとこ控えてるもんな。……ならやっぱり、ファルネに乗って撒くとか何とか……意味が違わなかったら、見張りとか護衛とか、そういうのから逃げるっていう感じで……あってる、よな?」
「だろうな」
「……泣いてる姿が、なんかこっちまで……痛くなる」
「…………」

 祥の目にはユーキに抱きしめられるリファの姿が映りこんでいた。彼女は泣いているときでさえ、どこかぎこちなさが残るようだった。リファの背へと腕を回すユーキへと、何か反応を示そうとしては、できないのだろう、微かに手が動いては、そのまま立ち尽くしているのだ。彼女は涙を零すくらいに心からのSOSを放っているのに、抱きしめられて尚、相手に抱き着くということができないようなのである。
 モゴロンをあげたときに零した涙の意味を、あのときはそこまで深くは考えていなかった。別にそこまで恩着せがましく思っていた訳ではないが、泣くほどに喜ぶ相手に有り余るくらいに重複しているグッズを譲れて、祥にとってはいいことをしたような、自己満足にも近い軽い気持ちだったのだ。
 けれどもリファは、軽い気持ちであげたモゴロンのお礼に、わざわざ祥にゴーカリマンのマスコットを届けにやってきたのである。彼女にとって涙を零すくらいに嫌なものを撒いてでも。

「そっか……この間んときも、そうだったのかな……」
「たぶん」

 祥は自身の気持ちに呼応するように、泣いているのに上手く泣けていないリファの姿から、目を逸らす。
  祥も高校を卒業し、自分でもどうやって受験を乗り越えたのか記憶にないくらいだが、それでもなんとか受験を乗り越え大学に無事に通えている。けれども、仮に高校時代に戻ったとして、ジョウセイ高校に通えるようなエリートな出自でなければ、それに匹敵するようなスポーツ推薦を狙えるような運動能力も出自をはねのけるくらいの頭脳も持ち合わせてはいなかった。それは大学に通う今でも変わらず、それなりに祥としてのものは築けてはいるものの、大学を出たあとにジョウセイ高校を卒業した子たちに敵うくらいの特別な何かを築き上げている訳でもない。ましてや、生まれながらの才能としかいいようのない容姿は、お世辞にもイケメンとは言い難かった。身だしなみをそれなりにして整えても、悪くはない、という表現がいいところだろう。
 ジョウセイ高校に通う、それもあれほどに誰がどうみても美少女であるリファは、本来であれば祥とは出会いすらしないような女の子なのだ。  
 ただただ、神様の気まぐれだろうか、ゴーカリマンというアニメが、厳密に言うとリファにはモゴロンだろうが、同じものが好きだというのがきっかけで、偶然にガチャキューブの前で出会ったのである。
 あのとき軽い気持ちでモゴロンをあげ、そしてこの高架下へと誘う……まではいかないでも声をかけてみたのは、リファがあまりにも美少女であるからや、不審な点の残るガチャキューブのバイトをしたあとであるからなど、正直なところ、多少なりとは下心があったことは否定ができない。
 けれどもその下心を取り除いた大半を占める理由は、純粋に、今まさに飛び交うエリートの彼女でさえも、容姿や出自に関係なく自分たちと同じように、ゴーカリマン、同じものを好きだという事実が嬉しかったからである。

「やべぇ……エリートって。本物の映画じゃん。ジョウセイ高校の子だったらやっぱり、俺らでは分かんねぇような、エリート社会で生き抜く大変さってのが……あるんかな」

 祥の中で、何かがリファは自分たちと同じだと思うのに、どうしても彼女を取り巻く環境や状況が、自分たちとまるで違うとも思ってしまうところがあった。ただただその変えようもない事実は、珍しくも祥にらしくない弱気な言葉を呟かせたのだ。

「どうかな……本当にエリートだからってのがそもそもの原因であるならむしろまだ解決策があるだろうけどな」
「え?」

 けれど、いつもならばこういうことに首を突っ込みたがらない相方が、予想外の反応を示したのだ。

 

to be continued……

 

∞先読みはこちらから(レポート11~15収録中)∞

ループ・ラバーズ・ルールⅢ

 

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Ⅲのトランプ付録はA「Rifa」

 

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