ループ・ラバーズ・ルール_レポート20「猶予」
放課後、リファはユーキと共に、多くの生徒と同じように足早に教室を出た。主に痛むのは頬と頭で、絆創膏の数が多いが故に目立つだけで、足はそこまで痛くはない。けれど痛みよりも酷いのは身体全体の重みと、それに伴う息苦しさだった。
決して、体調はよくはない。むしろ、リファの中で歴代の何位に入るだろうかというくらいに、悪い方である。歩けるのが幸いというか、リファなりに学校へと登校できるよう、怪我を負わないことではなく、歩けない怪我を負わないことに全神経を集中させたのがよかったのかもしれない。
今日は自宅に戻る日であるため部屋から出ることはできなくとも、身体は休ませることができるとリファは思っていた。けれど思いがけず、リファは部活とやらを始めることが、ユーキの休み時間返上の手続きのおかげで、可能となったのだ。
横になるという意味では自宅で眠る方がその意味に近いのだろうが、安全という意味では、研究所が下手に介入できない周りの目がある学校や周囲に人目がある環境下の方が、神経を張り巡らせなくてよいがために、部活の時間というのもまた、違った意味でリファに休息を与えることになる。
(任務が動く前に……上手く、身体を回復させていかないと……)
リファはユーキと黙々と校内敷地の駐車場へと歩きながら、ポータブルデバイスのとあるファイルを念のためにもう一度確認した。
(何度見ても……本当にファイルが届いてる……こっちも、こっちも)
身体を休めるという意味でこの部活動というのがリファに何よりの効力を発揮するのが、研究所へと戻る日数自体が減ることにあった。
リファは本日より部活をすることになったがために、平日三日間だけでなく、平日五日間全てを自宅へと帰宅できることになったのだ。
今、まさにリファが学校に通っている通り、教育に関する法律はかなり手厚く保護されている。政府からの予算のアレコレもあるのだろう、研究所の外で適応される目に見える法律というのは、研究所も逆らうことができないらしい。学校で部活の申請が正式に通ったがために、研究所も認めざるを得えなかったらしく、研究所もこの部活動の参加に合意したのだ。もちろん、部活に誘われて断らないというのは、ある種、成人までに必要な表向きの肩書を守るに繋がるという判断もあったのだろうが。
そして、研究所が認めざるを得なかった一番の理由でもある学校での部活の申請が正式に通ったというのは、リファの両親が部活動参加に同意したということでもあった。
ジョウセイ高校は部活動をする者がほとんどである。そのために入学時に部活をする、しないに関わらず本人と両親の部活動に関する同意書が必要であった。リファは既に入部しないの方で提出していたのだが、その変更届を顧問となる谷村先生が用意してくれたらしいのだ。先生が直々に、両親に部活許可を得る電話を入れ、電子で署名をもらって。
リファは両親のサインの入ったそれに、名前を記したその瞬間から、表向きでの部活動に参加する権利を有し、それに続く形で裏から政府と研究所からの許可を得たのである。
高校転入時に交わした契約書には、リファが部活をする場合は五日間、自宅にリファを置くことが明記されている。両親が部活を認めるというのは即ち、リファの自宅滞在を認めるということであった。
あの両親がリファの滞在が長くなる部活を認めたなど最初は信じがたかったが、確かにリファのポータブルデバイスには両親のサインの入った表向きのものと、政府と研究所のサインのはいった裏の自宅滞在日数の延長許可証と部活承認の電子ファイルが届いたのだ。
リファの周りにはルールも法律も守らない怪獣で溢れている。そこに表向きの先生やユーキからの計らいがこれほどまでに大きな影響があるなどとは露にも思わなかったのだ。
そこからリファはいよいよ、心が晴れやかになり、ソワソワとした心地が止まらなくなってしまった。
裏と密接に繋がった表向きの手続きさえ済めば、本当に表向きだけの高校での手続きというのは、非常に迅速かつ穏やかであった。
ジョウセイ高校の部活動は三人からであれば認められるらしく、特に文化部はそれが緩い。運動部が特段に厳しいという訳ではないが、部活に必要な道具や部室の確保、グラウンドの使用時間など取り決めが多く、新規であると申請が通るのに時間を要する場合がほとんどらしいのだ。
一方で、文化部は道具をそこまで利用しない場合、部室というのが、演劇部のように更衣を伴わないのであれば、許可を得やすいらしい。
基本的に顧問の先生さえ決まれば、あとはその先生の担当科目に縁の深い教室や準備室が大抵の場合使わせてもらえる。
顧問の谷村先生は国語の担当であるため、先生が学校にいる時間、鍵さえ借りにこれば、いつでも国語準備室を使ってもいいとのことだった。
けれどユーキ曰く、リファたちは特に部室が必要ないのだとか。
もし一点、厄介なことがあるとすれば、それは部活動の予算らしい。どの部活にも予算というのがおりるらしく、ジョウセイ高校の場合、この予算というの自体に不足や心配はない。ただ予算がおりるからこそ、活動報告というのをしなければならないらしいのだ。
だがそれらをユーキは昨日から一日で済ませたというのである。
備品というのを購買で入手し、領収書と共に用途を記入して提出。それはすぐに認められ、早速、今日から活動できるようにしてしまった。
ユーキは部活動ができると決まってすぐ、昼休みに珍しく捲し立てるようにして、これらを一気に説明してくれたのだ。
最近のリファの感覚では、休み時間というのは短い。その中でも比較的長い休み時間が昼休みであるが、それでもユーキと一緒に過ごすというだけでなく、物理的に説明の時間が足りなかったのだろう、昼休みはあっという間に終わってしまった。蜜なその時間内、リファは必死に、ユーキの説明を理解しようと集中してそれらを聞いたのである。
そして、このユーキの懸命なる説明は、昨日から続く胸の痛みというのを和らげ、リファの想像力を掻き立てた。
部活動はユーキと過ごす時間だという、一番の前提事実を。
「リファちゃん、乗って!」
「うん」
「もうちょっとだけ、行き先は秘密なんだけど。……でも、本当に運動部じゃないし、戸田沖君は基本的にはいないし、生徒は私とリファちゃんだけだから! 校外でもゆっくりと過ごせるよ!」
「うん」
駐車場に着いた途端、ユーキは運転手よりも先に車のドアをあけ、リファに乗車を促した。ファルネのホームから度々眺めていたユーキの車を間近で見るのはもちろんのこと、乗車するのは初めてのことであった。
車内は転入当初に乗った東条家のものと然程変わらないように感じたが、車内の匂いがいつものユーキの匂いと同じで、どこかリファをほわほわとした心地にさせたのだ。
この突然に決まった部活の活動場所は車で赴くような学校外になるようで、けれどもリファにはまだ行き先は内緒だと、ユーキは言う。
休み時間にユーキが部活申請書を持ってきた時点では、あえて部活名はまだ記入していなかった。
ただ、ユーキが文化部で運動はしないし、基本的に学校外での活動で、戸田沖は基本的にいないというのならば、きっとそうなのだろう。
それも活動中、ジョウセイ高校の生徒はユーキとリファだけというのだから、尚のこと、その話は信じやすかった。
「目的地までこれから毎日、私の家の車を使うね。これは部活的にも許可はいらないやつだから心配しないで。ルール内だよ! それで、リファちゃん、ちょっと疲れたでしょう? 着いたら起こすから、移動中は眠ってて大丈夫」
「色々、ありがとう……」
「うん!」
座ると身体に合わせてフィットする座席は、学校のものより柔らかいために、リファの身体にはひどく優し過ぎるようにも感じられた。
けれども、部活の時間というのが、活動内容が何であれ、不思議とユーキと一緒であれば寛げるような予感があり、リファの心は既にこの優し過ぎる座席を受け入れ始めていた。
(見張りをファルネで撒かなくても……放課後に……自由な時間が……できる)
完全に見張りが消えることはないだろうが、法的にも、人の目を考慮しても、彼らは手出しできなければ、授業でもないために少し緩んだ心地でリファは今からの数時間を過ごすことができる。さらに言えば、特に今日は初日であるがために、リファでさえ、部活の活動場所を知らないのだから、研究所の者が知る由もない。今日の部活の数時間はおおよそ、本当にリファだけの自由時間といっても過言ではないだろう。
そして、そんな本当の意味での自由時間を、ユーキと過ごせることがリファには嬉しくて堪らなかった。
(ダメ……。喜んだら……ダメ。部活……部活に集中……)
だがその一方で、昨日の絶望的な研究所での出来事による罪悪感が、重く圧し掛かってくるのだ。
ユーキの話し方的に、目的地が病院ではないことをリファは予測していた。ユーキとのこれまでや、ユーキの性格を考えると例えばリファがいきなり病院でボランティアができるなど、サポーターとしても日頃のユーキの人柄的にも、そのような判断はしないはずなのだ。
(でも……病院じゃ……なくても……部活を本当に……したら……ルール内で……いけ……る)
眠る気はなかったものの、車というのは、とても便利でファルネよりもずっとずっと、快適らしい。ファルネとは違う揺れ方が、動き出して数分も経たずにリファの眠気を誘った。
心からの安心感は、肩の力を抜けさせ、壊れゆくボロボロの身体が一番求めるものを素直に求めさせたのだ。
(そし……たら……資料……にん、む……)
研究所でも自宅でも、リファはとあるルールを忠実に守るがために、眠っている間も能力を使い続けている。それにはもう慣れているため、能力を使いながら眠ること自体に、疲労をそこまで感じはしない。けれど、回復という観点で言うと、それは傷の治癒を遅らせる要因となっているのは事実であった。
今のリファにとって、数分でも完全に休める時間というのは、かなり大きかった。
気が付けば思考が巡る中、リファは記憶の夢の中へと落ちていたのだ。
∞∞∞
―リファ負傷前、研究所―
「この資料……すぐには記憶できない。一度に記憶できる量じゃない」
リファがあえて淡々といつも通りに言い放った時には、これまたいつも通り、胸倉を掴まれ、大いに怒鳴られた。
「こんなのすぐだろうが! 適当なことを言うな、ゼロ・ファースト」
(モクトたちを守るには虚偽を意図的に見過ごすことはできない。……でも……)
「さっきも言ったでしょ? ……本当だから言ってる……この量はすぐには無理。だって、テスト勉強もある。滞りなくジョウセイ高校で生活を続けるにはテストの結果は必須ってこの間言ってたでしょ? あそこは記憶していても、問題の問われ方が難しい。気を緩めたら間違えるから、学校の授業はいいけど、テストは勉強しないと無理。これを一気に覚えたら、次のテストの分の記憶に影響が出る。それに……ジョウセイ高校の子は記憶している事業以外も運営している子が多い。肩書が大袈裟に書いてあるときや、逆に書かれていない時がある。……確認に数か月はかかる」
胸倉を掴む手にさらに力がこもり、リファのすぐ傍で今にも怒りで正気を失いそうな研究員の顔が視界にぼんやりと映っていた。が、決して焦点をそれに合わせはしなかった。
リファは視線を一切合わさないまま、堂々と、そして淡々と説明を加え続けた。本当は緊張と嫌悪感で吐きそうであったが、この話している内容がルール内、嘘のない事実であることが大きかったのだろう、不思議と言葉はすらすらと飛び出してきたのである。
聞き流していたつもりであったが、テストの度に声をかけられ続けたからかもしれない、戸田沖の写真をみていたら、ふとリファはテストに関する彼のコメントを思い出し、即座にそれを借りたのだ。そして嘘とならないよう戸田沖の意見だとはあえて言わず、あたかも自分の導き出した推論であるかのような口調にすることも忘れなかった。
(いいか、任務が最優先……いや、いい。小鉢君。……のれ、……のれ)
「それくらい、テストくらい自分で何とかしろっ! いいか、任務が最優先事……」
「いや、いい。小鉢君」
研究員が喚く中、静かにあいつの声が響き、リファの掴まれた胸倉は投げ出されるようにして、手放された。
リファがテストでうっかりと名前を書き忘れて成績を落としてしまって以来、古舘も執拗にテストで首位を取ることを命令している。
研究所にはリファが名前を書き忘れたとはあえて言ってはいないが、彼らもリファの成績が落ちるというのは予想外であったのだろう。その日以来、本当にテスト前はリファに無理な任務を押し付けはしなかった。
(……やっぱり……テストの成績は落としてほしくないんだ……)
一種の賭けでもあったが、目論見通りに食いついたことにリファは内心、安堵していた。その感情が漏れ出ないよう、必死に古館たちへの嫌悪感で感情をいっぱいにして、嘘がないよう、ルールを保ちながら。
「例の日まで時間はある。あちらの準備が進んでいれば、記憶すること自体はゆっくりでもいい。記憶した内容は、その後に重要なのだ。……それに……さらにその先、この子のジョウセイ高校での評価というのは最重要事項だからね」
「……古舘教授が……そうおっしゃるのなら」
(法改定……最初は嫌がっていたが、私をジョウセイ高校に通わせる価値を……後から自分たちで付け加えたのか……。次の任務は……きっと一時的にジョウセイ高校を利用するものじゃ……ない)
けれど、そんな次の任務の推測もまだ始めたばかりだというのに、それも一瞬で遮られるのだ。
なんとかなったと心の奥底で秘めて安心していたリファに、ゾクリと鳥肌と吐き気を催す声が、脅しというよりは、呪い。恐怖の文言をその悍ましい口から放ちだすのである。
「だが、小鉢君。君の言う通り、立場を分からせた方がいい」
(ああ……やっぱりこいつに、法律なんて関係ない)
次に続くであろう数々の言葉を考えただけで、まだ傷を負ってはいないというのに、過去に怪我をして癒えた箇所だろうか、全身がまるで怪我そのものの痛みを記憶しているかのように、ひどく痛みだすのである。
「……研究所内のこの防犯カメラ。これはね、一度私たちの元で、政府に繋がる前に違うものへと切り替えられているんだ。だが……抜き打ちチェックもある。編集が追い付いていない時期に来られて、見られたらまずいからね。万が一の時に備え、そんな大けがをするようなテストは、まだしていない。まだ、ね。……だが、いつだって準備はしてあるんだ」
(こいつに……学校への言い訳など……表向きの理由など……必要ないんだった。……全てを捻じ曲げるから)
あえて、悍ましい顔はみないよう、視線を資料の方へと向け続けるのが、精一杯の抵抗であった。
リファは震えそうになる手を必死に堪えていたが、それは無意味で、小刻みに震える手が、リファが握りしめた資料の、紙が脈打つ独特の微かな音を響かせたのだ。
それをみて、研究員がにんまりと嬉しそうに笑っているのを、見はせずともすぐそばから感じる視線で、理解してしまった。
「つい先日、08ルームのテストレベル11の起動確認を終えました」
(…………)
声は、もらさなかった。
けれども、唾を飲む音を、うっかりと。否、不本意ながらも反射的に漏らしてしまったのだ。
そして、汚らわしい手がリファの肩に触れ、わざわざ耳元で囁くように言うのである。
「すばらしい。では、そちらの研究データを今日は持ち帰ろう。ゼロ・ファースト……今回は記憶に集中できるよう、私も手伝ってやろう。必ず首位はとってもらうもりだが、時間が必要ならば、しばらく学校を休むのもいいと思ってね……学校をいつでも休めて……万が一にもテストの成績が多少悪くなっても誰も文句を言わないように理由を作っておくのも、いいだろう。東条家ともなれば、事件に巻き込まれたり……そうでなくとも、交通事故などこの世界には溢れているからね」
「……っ」
「畏まりました。理由は怪我の具合に合わせてそのように致します」
ひどく嬉しそうな研究員の声は、呑まれた恐怖によって、リファの中で怒りにさえ変えることができなかった。もう、リファにできることは、恐怖に飲まれたまま、記憶する意図があるのを示すため、せめて手にもつ資料を鞄へとしまいこむこと。
(……落ち着け、落ち着け。……資料から手を離すな。……移動の時が、資料をしまい込む、チャンス……)
「全く、最近はレベル8でも怪我をしなくなってしまったから、困ったものだ。治癒の方の記録が足りない。まあ、ゼロ・ファーストが怪我をすると砂原が煩いので、その点はいいんだがね。砂原の対応は時間を消耗させるから面倒なんだ」
「本当にあの女はしつこいですからね。古舘教授の手を煩わせるなどあるまじきことです」
「……砂原が動くより前にテストを終えるように。ああ、表向きの理由というのを彼らは好むからね……政府に申請書を送ると同時に、テスト運転だといって、承諾の返信は待たずにレベル11を開始しろ。無論、政府に送られる方のデータ表示はレベルは8でいい。これまでずっとレベル7で負傷するデータを使っていたからね。先ほどの怪我をしなかったというレベル8のデータをレベル7と表示して一緒に添付しておくように」
(……落ち着け、落ち着け。……週末……サルアさんに会える……耐える意味は……ある)
モクトたち子どもらとユーキの顔が頭を過り、リファは震える手の指先にまで力を入れて、それらを無理矢理押さえつけようと試みた。
(……ある。……意味は、ある)
すぐに記憶できない。この理由は機嫌こそ当たり前に損ねたが、ルール内、嘘をつかずに時間を稼ぐことに繋げたのだ。上出来といっていいだろう。
やはり、戸田沖のテストに関するコメントを引用したのがよかったに違いないのだ。古舘の反応と判断からして、戸田沖のそれは、社会的なそれと同じだということなのだから。
リファは無理矢理立たされるようにして、痣ができるくらいに腕を引っ張られ、08ルームへと歩かされた。それでも、決して資料を握るその手を離さず、鞄を掴むのも忘れなかった。
「……離して。歩ける」
「ふんっ。逃げられると思うな」
(逃げない)
逃げれば子どもたちに、特にモクトに何をされるかわからないのだ。
逃げられないのを分かっていて、研究員はわざわざ、馬鹿の一つ覚えかのように同じセリフを吐くのである。
リファは腕を振り切ると、歩きながらあたかも自然の流れであるかのように、資料を鞄の中へと突っ込んだ。
(これで……資料を……持ち出せる。この研究員の性格や言動を考えれば……リファの記憶待ちの間に……元データの確認はしないだろう)
資料さえ自宅の方へと持ち出してしまえば、研究所内の誰かの目に触れるのを避けられるとリファは予測している。
足が震えたそうにしているのを、力づくで捻じ伏せて、いつも通りに歩き続けた。
レベル10どころかレベル11のテストというのは、受ける前であっても、その言葉だけで、リファが地獄を生きていることを、強く知らしめる。ただ、リファは地獄の生き方を、少しずつでも記憶しているのだ。
(任務は中止にはできない。……でも、今ではなく、あいつの言う例の日までは先延ばしにできた)
リファが任務を続ける限り、モクトたちにしばらく手出しはされないだろう。あとはユーキの方だ。
病院を調べるか。ユーキを調べるか。
元データをどうにかして奪って改ざんするか、資料作成者を突き止めるか。
(……怪我の具合と……回復具合で……動ける範囲が、決まる)
聞き慣れてしまったこの施設の自動ドアの音は、まるで地獄への通過音だ。08ルームに入った瞬間に、リファは恐怖で震えるよりも前に、よりよく動けるよう、力のかなりを、開放した。
『開始』
08ルームは危険であるからこそ、あいつらは運転中、隣接した操作監視ルームで待機している。そのため、スピーカー越しにあいつらは指示を行う。あいつらの声を直接耳にしないでいいということだけが、この08ルームの唯一の良い所だった。
最初の一撃が、先ほどの二倍近いスピードで鋭利さを増して飛んできたのを捉え、リファは確信めいて、自分に言い聞かす。
(怪我をしないんじゃない。……学校に行けるだけの……動ける怪我に……留めろ)
∞先読み・紙版はこちらから∞
このレポートの該当巻は『Ⅳ』になります!
※HPは毎週土曜日、朝10時更新中💊∞💊
ループ・ラバーズ・ルール更新日
第2・第4土曜日