小説・児童文学

ループ・ラバーズ・ルール_レポート3「わける」

2025年1月3日

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ループ・ラバーズ・ルール_レポート3「わける」

 

 ユーキがリファに距離をつめるけれど、その足音はやはり震えがち。きっと、早くファルネに乗った方がユーキ的にはよいのだろう。リファは申し訳ないと思いつつも、やはりルールは守らなくてはならないので、柔い声の人が教えてくれた大事なことを、ちゃんと実行する。

「このガチャ設定金額……高めだから、お金、払います。……モゴロン……ありがとう」

 リファはモゴロン型のガマ財布をあけると、躊躇うことなく取り出した三千ベージを差し出す。けれど、男性は目を見開き、慌てたように手を振って言う。

「いやいやいや、いいよ。だって、モゴロンだし。それに俺、こう見えて大学生だよ? ちゃんとバイトもしてるし、女の子の、それも年下の子からお金もらえないよ」
「でも、それじゃあ、対等じゃない。買い物のルールに反する……」

 困ったように男性はニット帽越しに頭をかき、「ん~、弱ったなぁ」と唸る。一向にベージを受け取ってくれる気配もなく、けれど引く訳にも行かず、リファは男性にベージを差し出し、その眉、ないし瞳を見続けた。
 すると、男性は突然に顔をあげたかと思うと、ニット帽越しに頭を掻いたまま、再びニカっと笑ったのだ。この男性を憶えるのには、眉の次にこの笑い方を記憶するといい、とリファは判断するも、きっと、もう会うことはないだろうと、憶えようとするのをやめた。

「ならさ、やっぱり、交換はどう? どれがダブってるの?」

 リファは一度ほど大きく瞬きし、考える。ルール的に、買い物にはお金が必要。けれど、お金という概念が始まる前の、古代の買い物の歴史についての本を読んだことがある。そこには物々交換というもので成り立っていたと記載されていた。リファは男性のダブっている、という言葉と買い物のルールの知識的に間違いがないことを照らし合わせ、頷いた。

「やっべ~、こんな可愛い子と交換したキャラなら何でも超レアじゃん!」
「チャ、チャラっ……!」

 リファに物々交換を申し出たその人は、今度は足元を蹴られ、小さく「って~、冗談だよ。まあ、嘘でもないけど」と呟いた。ユーキからはいつの間にか震えや怯えが無くなっていたけれど、何か別の、いつもとは違う、怒りの感情にも近い、けれど一切の熱量のない表情が見受けられた。
 こうしたみんなの反応からも、確かに物々交換での買い物というのは、現代ではあまり使用されないルールなのだろう。けれど、違反でもないので、リファは素直に三千ベージをモゴロンのガマ財布に戻すと、そのまま手探りでガチャキューブを探し当てる。一番手前にあったそれの角が掌にぶつかり、リファはその感触だけで掴みとる。取り出すガチャキューブの色はもちろんにゴールドで、特に中身を確認せず、リファは手渡した。

「え、あ、いや。これゴールドキューブだよね? いやいやいや、本当に恐喝とかしないから。全然、ノーマルでいいよ」

(う、受け取ってもらえない……!)

 確かにリファは自分が一番に欲しい、モゴロンを貰った。となれば、リファも相手が一番に欲しいキャラを渡すというのが筋だろう。リファは途端に、身体の強張りを感じる。頭の中で物々交換が成立しない、というのを理解しているのにも関わらず、いざモゴロンを鞄の中から取り出そうとすると、ピタリと身体が動かなくなるのだ。

(か、返したく、ない)

 理解しているのに、すぐに動けない自分に戸惑いながら、リファはただただゴールドキューブを手にしたまま、瞬きするしかなかった。そんなリファの様子に、男性たちは首を傾げている。モゴロンを返すと口を開くか、モゴロンを鞄から取り出すか。どちらも簡単なことだ。それなのに、どうしても、それができないのである。視線さえあげることができず、ようやくに身体が動いたかと思うと、リファの足は不思議と、一歩後退っていた。

「リファちゃん、今日はゴールドキューブしか……引いてないから……ノーマルキューブって言われて困ってるのかも」
「「え?」」

 男性たちの声が重なったかと思うと、頭上から視線を感じ、リファはしぶしぶ、顔をあげる。じっと一人の口元をみて、もう一人の眉をみて、観念するように、息を吐く。

「マジで?」

 小さく頷き、リファはそれを証明するように、ごそごそと鞄を漁り、追加で三つのゴールドキューブを取り出した。身体を動かすならば今しかないとも判断し、勢いで柔らかくピンクに輝くあの子も一緒に、両腕に抱える。

「すっげ……」
「え、本当にマジで? え、最後にゴールドキューブが固まってたとか?」

 リファにとって、キューブの色などどうでもよく、固まっていようがいまいが、モゴロンさえ手元にあれば、それでよかったのだ。自然と視線は下がっていき、コンクリートの上にある、まるでお揃いのような、けれども若干にデザインと、明らかにサイズの違う男性のスニーカーを二組、みつめた。ひとりは紐をまるで折りたたむかのように、括り目を何重にも巻いてお洒落に、もうひとりは靴は履ければいいとでもいうように、豪快な縦結び。どうでもよい情報なのだろうけれど、そういうものに意識を向けていなければ、あの子を手放せない気がした。

「……コレ……」

 リファはスニーカーの結び目をみつめながら、ピンクのあの子を、元の持ち主への方へと差し出す。もはやモゴロンが手元から離れるならば、正直、男性のどっちがどっちかなんて、どうでもよくて、適当にどちらも手が伸ばせるであろう位置へとモゴロンをのせた左手を前へと出しただけなのだが。リファの手はそれほどに大きくはないため、右腕に器用に並べたゴールドキューブがいつ崩れ落ちてもおかしくはなかった。掌に人の熱が近づいてきて、モゴロンが離れていく感触を知る衝撃に備え、リファはぎゅっと目を瞑った。けれど、リファよりも一回り大きな手は、リファの手の甲に自身のそれを重ねるようにして、リファにモゴロンを握らせたのだ。

「いやいやいや、大丈夫。それは君のだよ。言い方が悪くってごめん。何て言うんだろ、ノーマルキューブがいいんじゃなくって、ゴールドキューブだと申し訳ないって言うのが、正しいんだけど。なんかこう、レア度がなぁ……。うーん、全然あげるんだけどなぁ」

 ぱっと顔をあげた瞬間に、ニット帽の男性と目があった。リファは記憶するためでも、周りの行動パターンに合わせた動作をするためでもなく、ただ、本当に呆然とその男性の瞳を見つめた。黒というよりは茶で、淡く、どちらかというと透き通るような瞳はニカっと笑うのにぴったりな、可愛い印象を与えるものだった。けれど、憶えるのに一番特徴的な眉は凛々しくあがっていて、可愛さ以上に、男性らしい印象をしっかりと上書きする。ニット帽から一束ほど飛び出る髪は金色で、けれど眉は茶色。全てがちぐはぐなのに、ひとりの人の顔として纏まっている目の前の男性は、リファに優しい、という言葉を連想させた。けれど、すぐに視界がぼやけ始めて、リファは違和感を憶える。ここ最近は能力テストでも気を失うことはなかったから、油断していたのかもしれない。心当たりは全くないけれど、知らず知らずのうちに体力を使いすぎていたのだろうか。自分でも分からない体調不良に答えを与えてくれたのは、リファの頭一つ分上から響く、柔い声。

「泣くほどに欲しいなら、普通にもらったら? 別にさ、買い過ぎたら人に分けることだってあるだろ?」
「……買わずに……物々交換せずに……分ける……?」

 確かに睫毛に水滴がついて、目の周りがほんのりと湿気ている気がした。モゴロンが自分の手から離れないとなれば、身体の動きは思い通り。リファはぎゅっとモゴロン再びを抱きしめる。

「そんなに好きなんだ。そっかー、ならこいつの言う通り、普通に貰ってやって? ほら、よくあるじゃん? 拾ってきた子猫育てられなくて、代わりに育ててもらう感じ?」
「おー、お前が拾ってきた子猫、俺んちで元気にしてるわ。毎回、毎回、ほんっとに」
「そんなこと言って、可愛がってるくせにさ~。いや~流石に、六匹目は家族が許してくれなかったんだよぉ」

 リファは自分の腕にいるピンクのあの子を見つめながら、驚きと、けれどもどこかで納得もある心持で、呆然と呟く。

「……すき、……私、モゴロンが……すき……」

 やっぱりモゴロンは熱なんて持っていないはずなのに、モゴロンを抱くその胸元あたりからじわじわと温かさを感じるような気がしたのだ。声にならない、息が漏れるような音がして、音に合わせて視線をあげると、柔い声の人が笑っていた。今日見たなかで、一番に優しい笑い方で、この人を記憶するのは柔い声と、この音にならない息が漏れるような笑い方だと、リファは記憶に追加する。モゴロンを分けてくれた人たち、という、今日の記録と共に。

「リファちゃん、帰ろう?」

 肩を叩くユーキの手からは焦りも強張りも感じられず、いつも通りなのに、どこかいつもと違う笑みは、リファの中でユーキの笑顔の記憶を上書きさせるものだった。もし、リファがユーキの笑顔をみるのならば、いつもこの笑みがいい、というくらいに。

「ありがとうございました」

 何故かユーキが男性たちに礼を言い、リファはそれみて、自分が一番に礼を言わなければならないことに気づく。頭を下げようと、勢いよく上半身の重力を下に向けたところで、ゴールドのガチャキューブがコロコロと落ちていく。

「ああ、大丈夫?」
「こっちも」

 モゴロンの人が三つほどそれを拾ってくれ、最後のひとつを柔い声の人が拾ってくれた。たくさんを持つには大変すぎるので、受け取るままに、それらを全て鞄にを突っ込んだ。

「ありがとうございます」

 すると、また声にならない、息を漏らすような笑い方でその人は笑った。視線を横にずらすと、ニカっとした笑顔もリファに向けられていて、付け足すのだ。

「ここをさ、真っすぐ一駅分進んでくと、ファルネ川の芝生エリアがあるじゃん? そこにさ、ここと同じように高架下みたいになってるとこあるんだわ。そこで俺らバンドの練習してるから、よかったらいつでも遊びに来て。余ってるモゴロン、分けられるからさ」

 リファは目を見開き、胸に自分が吸い込みたい以上の空気が入ってきたのを、体感する。もうモゴロンは鞄にしまったというのに、胸のあたりに何か温もりを感じながら、リファはこの感憶を理解しようと、思い浮かぶままに数回程頷いてみた。それを同意ととったのか、男性は考えるように視線を空に向けながら、言う。

「えっと、授業があるから……今日はちょっとサボって早いけどだいたいいつも十六時くらいに集まってるかな。仲間にも言っとくけど、あ、俺、祥ね。ショーって呼んで。こっちは大慈。ダイでいいから。とりあえず、俺かダイに声かけてくれたらいいよ! じゃっ」

 既にダイは数メートル先を歩き進めていて、ショーがゆるく駆けるようにして追いかけていく。二人並んだかと思うと、ポケットに手を突っ込んで同じような癖でのそのそと歩き進めるのが、リファの目に止まった。

「こんなに記憶するところがある人たち、久しぶり……」
「え?」

 ユーキの表情は普段の穏やかなもので、それはリファの言葉の意味を聞き直すものではなく、本当に聞き逃して、問うているのだと判断する。リファはそのまま首を振り、ユーキに質問する。

「猫ってどこで拾われてやってくるの? あそこにいる子は、どこから拾われてきたの?」

 リファの視線の先にいるのは、ベージュ色の毛並みのぽってりとした猫で、この辺りを縄張りにしている野良だ。ユーキがほんの少し顔をこわばらせて、言う。

「ああ、リファちゃん……ちょっと意味が違うわ……」

 リファはファルネに乗っている間中、猫はどうやって生まれるのかを調べ回った。

 

💊💊💊

 

「おい、さっきの子、……何かあると思わねぇか?」
「え? あー、どうだろう。ちょっと変わった子だったけど、別に……」

 祥はニンマリと笑いながら、ポケットからあるものを出して、大慈に見せつける。

「ほれ、みろよ。ゴーカリマンのスーパーレア。すごくね?」

 大慈は目の前でぶら下げられるオーロラ色に輝くそれを掴み、凄んだ声で問う。

「まさかお前、盗ったんじゃねーだろうな。それでモゴロンと交換だからとか言うなよ?」
「おまっ、ほんっとーに失礼だな。んなことするわけねーだろう? 最近はよーやく、お前も心を開いてきたかと思ってたのに。人を盗人呼ばわりとはね~。泣けてくるよ」

 祥が大袈裟に腕を動かし、わざとらしく肩を竦める。けれど大慈の鋭い目つきは緩むことなく、終始冗談口調であったのに、流石の祥もむっとしたのだろう。掴まれていたオーロラ色のゴーカリマンを強引に引ったくり返し、珍しく低めの声で、半ばやけくそに言う。

「盗ってねーっつーの! バ・イ・ト! 俺を誰だと思ってんの? 割のいいちょっと危険そうな仕事を健全にこなすプロなの! ……ゴーカリマンのガチャをこの高架下で毎日引くっていう、激レアバイト!」
「ああ、一日四回しか引けないから、他のやつに引かすってやつか。ああいう転売に近いのって、最近取り締まり厳しいんだから気をつけろよな?」

 納得をしたのか、大慈は再び歩き出し、そんな相棒を祥は眉間に皺を寄せて、顔を窄めながら、ねめつける。けれどこれ以上興味がないのか、大慈は祥の方を見向きもせず、無言での抗議さえ届かない。その後ろ姿は憎たらしく、それでも、謎の美少女のゴーカリマンのマスコットを心配したり、頼み込んだら子猫を引き取ってくれるのだから、なんだかんだ、憎めないのだ。
 ただ話の続きを大慈からはそれ以上聞いてきてはくれないのを知っているので、話したくて仕方がない祥は、自ら勝手に話し出す。

「それがな、ちと違うんだよ。そういうのは禁じられてるから、自分たちの勝率をあげるために、データを集めるっていうやつなんだ。だから俺は結果を提出するだけ。毎日、夕方の十五時~十六時の間に一回ずつ、引くこと。で、中身はそのまま、貰えるんだ」
「……変だな。それ……」
「だろ? データを集めるには中途半端だし、何より報酬の額がやばい」
「……いくらだ?」

 祥はゆっくりと息を吐き、大慈の目を見ながら、言う。

「二十一万ベージ。それと別で三十日分のガチャ代の九万ベージ。で、二週間前にオーロラを引いたんだ。それをレポートした瞬間に、もうガチャは引かなくていいし残りのガチャ代も報酬として渡すってね」
「……オーロラ引いたら終わり?」
「不思議だよな。だからその次の日からも、毎日見に行ったんだ。けど、特に十五時~十六時は誰も来なかった。でも今日だけ、あの子がきた」
「偶然か? いや、確かにあのゴールドキューブの数は不自然だな」

 大慈も同じ考えであることに、祥は内心、喜びを隠せないでいた。

「だろ、もしかしたら噂のネオパルコに関係のある子なのかも……」
「まあ、確かにすごいゴールドキューブの数と話だったけど。別に確率なんて数学的には成立してても、商売的にはいくらだって誤魔化せるからね。ジョウセイ高校の子だし、どっかの財閥の子で、センサーかなんか登録されてるんじゃねぇの?」
「まあ……そうか。普通に考えたらそっちだよなぁ。あああ、あの子がネオパルコの情報とか持ってたら、めっちゃすげぇ運命の出会いとか思ったんだけどよぉお。ほら? 機密情報知ってて、口止め料に学生だから金払えないし、レアなガチャキューブを当たりやすくするとかさぁ」

 一理あると思ったのか、大慈は歩きながらも、友だから分かる範疇で僅かに表情を引き締め、腕を組むようにして左手の甲を肘置きに、右手を顎に添え、考えだす。
 上手く誘導できたと思い、祥はつい漏れてしまう笑みを誤魔化すため、わざとらしく鼻をこすった。

「いや、考えすぎだな。学生に対して口止め料に金銭じゃないものを渡したり、便宜を図らうことはあり得ても、あの子はやっぱり、偶然、運がいいか、どこかの企業があの子の知らないところで気を利かせてるとかそういうのじゃねーの? 普通は何か特別な権利を与えられるなら、本当に手に入りにくいものや、その価値を認識した上で、社会的に希少価値の高いものを要求する。けど、あの子は明らかにモゴロンが欲しそうだったし、社会的に価値が高いとされるゴーカリマンのゴールドやオーロラ自体には無頓着だった。あの迷うことなく引いてるガチャの回数を思っても、お小遣いには困ってなさそうだし、ああいうレアなもの見ても驚かないってことは、普段からそういうのがたくさんある環境にいるってことなんじゃね? ……何より、律儀に最後まで金払おうとしてたし、物々交換とか、ルールとかを気にしてて……お嬢様の中でも責任感とか正当性とか、そういうのを強く求められるような家庭なんかなって。だから危険な取引きみたいなの、自分から持ち掛けたり求めたりするタイプじゃないと思う。……となるとやっぱり、あの子が知らないところで財閥の知りてくねぇようなアレコレで気を利かされてるか、シンプルに……財閥の子どもって運強いとか……」

 軽いノリで大慈も仲間に引きずり込もうと興味を引くために先ほどの子を話題にしたつもりが、大慈が思いの外ここまで真剣に答えるので祥は逆に返答につまることとなった。さらに言うと、大慈の言っている内容は祥にも理解できたのだが、あの数分の出来事からそこまでを考えることが祥にはできないため、自分から話を振ったというのに、大慈の回答に納得したのに、どう納得したかが上手く言葉として導き出せないのである。
 けれど、ここで引き下がるわけにもいかず、祥は苦し紛れに言うのだ。

「いや、運が強いっつっても、強すぎじゃね? ……もしかして俺らと同じで無意識で……とか。半ネグ……はねぇな」

 大慈は一度ほど視線をこちらに向け、祥は話を引き延ばそうとしている魂胆がバレたのではないかと、内心焦る。けれど、そっちか、とでも言うように大慈は再び考え込むように、顎に添える手を数回程動かし、ポータルデバイスの振動音のような小さな唸り声をもらす。

「んー……いや、俺らみたいに無意識でそうだったとして、ガチャキューブでレアだけ引き当てる的なの、あると思うか? ……それだとあの子はモゴロンが欲しかったのに、発動条件とか、色々成り立たなくね? それにあんなに律儀だったのに、半ネグだけはありえねぇだろ」
「だぁああ、わーってるよ。それはちょっとした願望を口にしてみただけじゃんか。あと、俺だってあんなに可愛い子が半ネグだとは思ってねぇよ。けどよぉ、なーんか、ひっかからねぇか? 俺が見つけたバイトに、レアしか引かない美少女! なんか今回のガチャキューブ、突然発売が決まったのに、やたらとセンサーとか厳しかったじゃん? 何か事件の匂いがするくね? もしかしたらネオパルコが指紋のデータ集めとかしてるのかも。ってことでさ……」

 祥はニカっと笑いながら大慈の前に出る。これで大慈から合意がとれれば、またガレージで堂々とネオパルコや半ネグについて、それこそデコポンコンビを中心にホワイトハッキングで調べることができるのだ。
 けれど、大慈は前を塞ぐ祥を器用に避けて、先ほどまでの考えこむ様子が一転、顎に添えられた手もいつの間にかポケットの中へと戻され、黙々と歩き続けていた。

「だぁああ、ダイさん、どうっすかねぇ」
「ダーメーだ。俺は絶対に一切関わらない。また危ねぇこと調べ出すならガレージには出入りさせない。あっ! っつーか、そのバイトも……またデコポンコンビにハッキングさせただろ? 場所がガレージじゃなかったとしても、危ないからいい加減やめろっつってんだろ?」
「ハッキングじゃない。ホワイトハッキングと言ってほしいね。でも、今回はそれも違う。本当にヲタク用の掲示板にあったのを偶然、みつけたんだ」
「偶然、ね。はいはい。ま、俺は関わらないからな」

 祥は息を喉に詰まらせ、眉を寄せて唸るも、最終的には降参する。

「だぁあ、分かってるよ。もうしねえって。しねぇよ」

 そこから特に大慈の返事はなく、二人でのそのそと、やはり一駅向こうの河川敷へと歩き出す。祥は新しく見つけた玩具をねだって失敗した子どものように、どこか拗ねた心地で、大慈の数歩斜め後ろを歩いた。
 けれど、どうにも、何かが引っかかるのだ。この引っかかりを上手く表現できず、ただ純粋に、やはり願望が口から零れ出るのである。

「だぁああ……せめてあの子、高架下こねぇかな」
「なんだよ、調べられねぇからって、まさかあの子から直接話を聞き出そうとしてるのか? だから、あの子は絶対に関係ないって……」

 祥はすかさず、拗ねて数歩後ろを歩いていた距離分をつめ、大慈の真横までいくと、面倒くさそうな顔をする大慈にむけ、明確に違うと示すために真顔で首を振る。

「いや、普通に超タイプ。めっちゃ可愛い。……もし俺らと一緒とかだったら嬉しいけど。ちょっとそういうの夢みちゃったけど。……ジョウセイ高校の子だろ? やっぱ、親が関連会社とか、財閥センサー的なのがあるんだろうなぁって俺でも分かるよ、うん。けどさ……モゴロンあげたときの笑顔、みた? 普通にもう一度美女と喋りてぇよ。うおおお、今年こそ彼女作りてぇ」
「……まあな」

 祥と大慈がいつもの河川敷に着く頃には、訳ありなバンドメンバー全員が、二人を除き、既に集まっていた。

「遅刻っすよ!」

 デコポンの片割れの声に合わせ、祥と大慈は顔を見合わせて、それぞれの独特の笑い方で笑みを零す。互いにそれ以上は言わず、けれど、同時に一歩を踏み出したかと思うと、それを合図に河川敷に向かって駆けだした。

 

to be continued……

 

※毎週土曜日、朝10時更新予定💊∞💊

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