世界の子どもシリーズ

世界の子どもシリーズNo.19_過去編~その手に触れられなくてもepisode11~

2025年1月18日

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世界の子どもシリーズNo.19_過去編~その手に触れられなくてもepisode11~

こちら直接的な表現はありませんが、災害を連想させる言葉や描写があります。苦手な方は該当シーンを飛ばし読みするなど、何卒、無理してお読みなさらないでください。

 アヴァロン城の大広間前に一斉に八つの渦が発生したかと思うと、ショースターやタルバニアと同じような黒いローブにフードを深く被った男たちが揃って現れた。遠目からみて彼らの違いが分かるものと言えば、背丈くらいだろう。緊急招集であったがために、八人ものハミル家とブラウン家の者が瞬時に応じてくれたものの、逆に言うと、宇宙中の要人が集まる重要な催しの勤務中であるが為、それぞれの一族の人数を思えば、八人しか集まることができなかったともとれるかもしれない。

「何事だ、ショースター。今がどれほどに大事な任の途中であるのか分かった上での招集だろうな」
「……落ち着かれよ。まずは話を聞こう。ブラウン家だけでなく、我がハミル家も招集されている。それも特に優秀なショースター殿とタルバニアからの緊急招集など余程のことだろう。何があったのだ?」

 ショースターはざっと集まった顔ぶれを見て、タルバニアに目配せをする。ショースターの父や母、親等の近しい親族たちは恐らく、手が離せない仕事の配属であったのだろう。どちらかというと、ブラウン家の中でも気難しい遠縁の者が顔を揃えていたのだ。一方のタルバニアは尚も左目に手を当てフードがズレ落ちたままの状態。うっすらと額には汗を滲ませている。けれども、タルバニアから返ってくる視線は緊迫している中でも、希望を見出すような光の残るものであったのだ。きっと、タルバニアの方は一族の中でも信頼が厚い者が召喚に応じてくれているのだろう。ショースターはそれらの意図を伝え、また受け取った上で、タルバニアに向かい小さく頷く。ブラウン家の者は気が短い者が多い。本来ならばタルバニアから説明した方が早いだろうが、結果としてこのメンツであれば、まずはショースターの口から説明し、タルバニアに繋ぐ方が早く全員に全てが伝わるのだ。

「星門の時刻封が破られました。先ほど暦封を確認しに行きましたが、トキの調整のなされた会場は無事です。時間にズレは生じておりません。ただ、この時刻封が破られたのは、サンムーンの座標が破られたことが原因のようです。……トキが今に繋がれたまま、過去と未来の時間が動き出したようです」

 説明しているショースターでさえ、全ての理解が追いついてはいない。ショースターもただ、先ほどにタルバニアから聞いたことをそのままに伝えただけなのだから。けれども、ショースターにとってタルバニアの様子や力、性格を知っているからこそ、タルバニアに嘘はないと判断していれば、永遠のライバルだからこそ、信じてもいるのだ。ブラウン家を動かすにはショースター自らがタルバニアの意はショースターの意だと真っ先に示すことが重要であった。

「なんだと、それは一体……」

 ブラウン家の者が騒ぎ出す前に、ショースターはじっと、まさに口を開こうとした、恐らく自身の父よりも年上であろう遠縁のおじに視線を送った。
 たくさんの魔法が行き交うこの場で、それぞれの魔力の圧などもはや分かりはしない。けれども、その眼圧は事態の深刻さを伝えるのには十分であったのだろう。遠縁のおじを黙らせると、ショースターはゆっくりと、今度はあえて八人全員に見えるよう、タルバニアに向かって頷いた。
 タルバニアは尚も左目を掌で覆ったまま、けれども右目からは凄まじい圧と、その瞳の奥に、日頃の穏やかなタルバニアからは想像もつかないほどの、憎しみにも近いような怒りを滲み出させていた。
 けれど、タルバニアの言葉を聞いた途端に、この場にいる全員が、その怒りの意を一族の垣根を越えて、理解することとなる。

「サンムーンの座標が破られたと同時に、ここの星門の時刻封が破られました。今に繋がったまま、過去と未来の時間が動き出したのです。……破られる瞬間に、星がいくつかの未来を視せました。恐らく、式典の参加者のうちの誰かが過去に介入し、式典の参加者の未来がそれゆえに変わってしまったのです」
「なっ……!」

 ショースターでさえも、座標が破られたと聞いた時点で、ここまで詳細な想像をすることはできていなかった。けれど、タルバニアの言葉を聞き、事態がどれほど深刻なものであるのかが、漠然としたものから現実味を持って、焦りと共に迫ってくるのである。いつの間にか、ショースターの額にも汗が滲み、その手は震えていた。
 まず、アヴァロンの者が過去に介入するはずがない。これまでもそうであったし、そもそも今回の式典でトキの調整ができたという時点で、過去への介入がないということになるのだ。時刻封が破られても尚、過去と未来の時間が動きだしたにも関わらず今の時間が繋がったままであるのは、トキの調整をしたアヴァロンが過去に介入していない証拠であった。要は、時間の調整をしているアヴァロン国のアヴァロン時刻を生きる者が過去に介入すれば、必然的に、今という時間に現在進行形でアヴァロンの国の在り方や歴史が変わり、先刻のトキの調整自体が起こり得ない事象になってくるのだ。
 トキの調整ができているということ、繋がれている今の時間が守られ続けているということは、アヴァロンは誓って時間操作を行っていないという表れなのである。そしてそれは国としての誇りでもあれば、それこそ、ショースターやタルバニアがわざわざこうして時間守をしている意味というのに繋がってくるのだ。
 けれど今を守りぬくと同時に、今回は別の問題が生じてくるのである。では、誰が過去に介入したのか、と。
 そして恐らく、それは今が守られているからこそ、ムー国の介入でもないことが、アヴァロンの国の者には生きている者は呼吸をするという当たり前の摂理のように、それが分かるのである。
 時間から次元という途方もない空間を羅針盤で方向を定めて繋ぐのであれば、次元というのは空間の位置が分かっている状態から、時計盤で時刻を定めて繋ぐのだ。そのため、繋ぎ直さない限り、一度繋いだ時間をある意味、ムーからは変えることができない。
 さらに厳密に言うと、アヴァロンの魔法族は時間守ができるように時間自体を繋ぐことはできるが、時空間を繋げるのは羅針盤を扱える者のみである。そしてアヴァロン国の現在、羅針盤が扱えるのは王族のみ。さらにムー国で言うならば、ムーの国の者は空間を捉えるのに長けてはいるが、国民が皆、次元を繋げる訳ではない。次元が繋げるのは時計盤に選ばれし、ムーの王と王位継承者だけなのだ。
 羅針盤と時計盤は使用に凄まじい魔力を持っていかれるため、使える者が宇宙中でもほぼおらず、結果として時間を司る星に生まれるアヴァロンの王族と、次元を司る星に生まれるムーの王と王位継承者となっている。そしてそれらは大きな魔力が動くからこそ、他の国が感知できるようになっているのだ。それほどに、時空間の座標を定め、安定的かつ明確に繋ぐというのは難しいのである。誰にもバレずに羅針盤と時計盤を動かすことなど、到底、できないのだ。
 けれど今回、羅針盤と時計盤が使われた形跡がなく、このサンムーンという座標を繋いだ次元に関わる何かしらの過去の時間が変えられてしまったのである。つまり、過去に介入したものは羅針盤と時計盤を使わずに、時間と次元の両方を繋げることができる者、ということになる。
 ショースターは震えを抑えた低い声で、焦点を定めず、けれどもタルバニアの方を向いて、ひとつの確定している事実を口にする。

「アヴァロンとムー以外で、時空間を繋げる者が現れたということかっ。それも、平気で過去に介入するような思想の輩で……!」

 タルバニアがゆっくりと頷くのがショースターの視界に入り、怒りでさらに手が震え、気が付けばギリっと歯の音が響くくらいに、喰いしばっていた。
 そして、タルバニアは確かに誰かが過去に介入し、星が視せる光景から、未来が変わったと言ったのである。例えば、知らない誰かが過去に介入したとして、今の時間に大きな影響が出ない場合、それは気づきにくい。けれど何故時刻封が破られ、それが過去への介入によるものだと気づけたかというと、皮肉にも時刻封の時間守をしていたタルバニアがよく知る人物の未来が変ってしまったことが、星が視せる光景から判明したからであろう。
 時刻封が破られた際のタルバニアの苦しむ様子や話し方から、それが良い未来への変化ではないことは、ショースターは無論、今の様子からも、この場に召集された八人にも否応がなく、予想できた。
 次の言葉を誰も聞きたくはなかったし、けれども聞かねばどうにも動きようがないために、聞くより他なかった。

「過去が変えられ……誰の、誰の未来が大きく捻じ曲げられたと星は言うのだ……」

 その問いに、躊躇うことなくタルバニアその喉を震わせ始めた。彼の中ではきっと、これからの行動の全てを本能的にこの時点で決意し、さらにはその決意に対し、覚悟も持っていたのだろう。
 タルバニアの声はいつもの穏やかさを除き、それ以外は普段通りの、震えもしなければつまりもしない、聞き取りやすいものだった。

「ネロ様とカイネ様です。お二人の未来が変えられてしまった。……このままではカイネ様とネロ様は命を落とされる。……あまりにも、あまりにもお二人の影響力は大きすぎる。お二人が命を落とされればアヴァロンやムーだけでなく、結果、宇宙中の多くの者の未来が本来の可能性と離れたものへとなってしまうでしょう。それに……サンムーンに関わる過去がどう変えられたのか、今の時点で、星が視せた未来からも予想がつきません。ということは、この宇宙で誰もが当たり前の事象として思い込んでいる何かが……変えられているのです」

 ただただ、その場にいる誰もが天を仰ぐしかなかった。誰も、何も、言葉が出てこなかったのだ。どうしようもない想いと状況は、目を瞑り、その場で立ち尽くすことでしか抑えようがなかった。
 そして黙ったまま、ひとり、ふたりと、深く被ったフードを外し始める。
 アヴァロンでは公の任の際、仕事が終わった合図としてフードを外すのが習わしであり、目に見えて分かる任務外の目印でもあった。

 そして、沈黙を破るのもまた、ショースターの遠縁のおじであるのだが、特に一族の中でも気が短くハミル家に敵対心の強いそのおじが、隠しもせず震えがちの声で、ショースターではなく、タルバニアに聞くのだ。

「……だが、いくつか……視えたのだろう、変えられてしまった未来が。我々に今から、お二人のため……何ができる?」

 タルバニアは左目をやはり覆ったままに、きっとその右目では、今この場にいない過去を変えた敵を睨んでいるのだろう。怒りと意志をしっかりと宿した右目は、確かに獲物を捕らえた鋭いものであるのに、この場にいる誰の方にも向けられてはいかなった。
 けれど、程なくして、ショースターがタルバニアの異変に気付く。彼の膝をつくその絨毯に、いくつもの血が垂れた跡が、現在進行形で増えていくのだ。その出どころは彼の鼻で、それは明らかに、どこかにぶつけたり、誰かに攻撃されたりといった外的な要因ではないことが、ずっと星門の時間守を共にしていたショースターだからこそ、疑いようがなく、分かった。

「おい、待て。タルバニア、お前……まさか、左目を押さえているのは……星詠みを続けたままでいるのか? ……時刻封の番を、続けたまま……招集魔法を使って……」

 その問いにタルバニアは答えはしなかった。そして、返答はなくとも、そうであることは、間違いなかった。タルバニアの返事の代わりに響くのは、彼以外の全員が、息を飲む小さな音。
 けれど、誰もこの状態で星詠みをやめよとは、言いたくとも言えなかった。星門の時刻封の時間守をしているタルバニアだからこそ、座標が破られたことに気づけ、さらに言えば、星がタルバニアに視せる未来予知が、頼りの綱となるのだから。
 タルバニアはゆっくりと、星が視せた光景についてを語り始めた。

「……まず、サンムーンを大波が襲います。……最初に視えたのはその波にお二人が巻き込まれる光景です」
「なっ、あり得ないっ! サンムーンはそういった自然現象の被害なども少ない安全な次元で地上世界との時間を繋いでもらったはずだ。一体……」
「……私にも分かりかねます。ただ、この大波だけが未来の中で確定事項として決まってしまっているのです……さらに言うと、奇妙な水嵩の増え方をしている。まるで、突然現れて増えるかのような……」

 タルバニアの不可思議な言葉を、けれども誰も疑いはせずに、黙って聞き続けた。
 タルバニアは決して、嘘など言わないだろうし、言っても意味がない。どういった状況で、どういった場所で、どの時間帯で、どういった対象が。そういうものを予知するには、数多の可能性を視ねばならず、到底、完璧な予知などできはしない。けれども例えば、確定している未来の自然現象というのは、暦が決まっているのであれば、アヴァロンの魔法族であれば、それが起こるかどうかのというだけであれば、星詠みをすればすぐに確認がとれるからだ。そして歓談が終わりアヴァロンの王とムーの王に座標の動きを確認してもらえば、座標が破られたこと自体もすぐに判明する。疑うよりは彼の言葉と星詠みを頼りに、今できることをすること。歓談が終わるまでの数時間で、悲惨な未来が確定してしまうのを防ぐことが重要であった。
 タルバニアもまた、必死に星を詠みながらも、冷静さを損なってはいないのだろう。時間を無駄にはできないことを十二分に分かって、何を説明し、どの説明を省くかを適切に考えていた。
 歓談が終わりトキの調整された空間からネロやカイネが出た瞬間に、動き出した本来とは違う未来へと、カイネとネロは歩んでしまう。過去が変えられてしまった今、未来が変わること自体は避けられないだろう。ただ、逆に言えばトキの調整された空間にいたからこそ、未来を変えられてしまう運命の二人が、どの未来へと変わるのか、トキの調整された空間にいる間だけは、大きく可能性を絞って星詠みをすることで、いくつか回避できるかもしれないのだ。
 タルバニアは星が最初に視せたいくつかの映像と、今も尚、視え続けるもの。ある程度を推測した上で、言葉を選んでいく。

「いえ、波がくることに関しては我々は関与しない方がいい。……それに関しては視ない方がいいでしょう。もう、確定しているからこそ、どうしようもありません。……ただ、我々が招集をかけてから、少しずつ、視える光景のパターンが増えてきたのです。最初はお二人が街の者に扮していて……サンムーンで暮らされていて……そしてそのまま……突然くる大波に巻き込まれる光景しか見えなかった……恐らく、座標が破られ、サンムーンのプロジェクトそのものが上手くいかなくなるでしょう。そうなると、お二人は婚姻を……反対されるのだと思います。……だからお二人でひっそりとサンムーンで暮らし、そこで波に巻き込まれるのかもしれませぬ」
「……だが、波が来ることが分かってて、お二人がサンムーンで過ごされると思うか?」

 おじの問いに答えるのはショースターで、何度も小刻みに頷きながら彼もまたタルバニアから聞いた光景や現在の状況から推測し、今後自分たちがどう動くかの可能性からさらに、星を詠まずにいくつかの推測を重ねていく。

「……いいえ、だからです。だから星がタルバニアに波がくることを視せたのでしょう。……もしタルバニアの星詠みがなく、時刻封が破られたことだけを進言していたとして、式典が終わった時点で、座標が破られたことは王たちから宇宙中に伝えられるはず。そしてきっと、座標が破られたと知ってすぐ、引き離される前にお二人で逃げるのだ。だが、ご身分と能力を考えると、かなりの追手がつくことは間違いない。何処かでひっそりと暮らそうとなされて……ネロ様の考えられそうなことだ……その未来ではきっと、逃げ切った後に、あえて最初の地に戻り、そこでゆっくりと過ごす算段だったのだろう。だが、星がタルバニアに波がくる未来をみせ、まずは緊急事態だと判断し、私とタルバニアで一族を召喚した。そしてタルバニアの星詠みを我々が信じ、どうにかできないかと、今、まさに動こうとしている。だから、未来の可能性が……増えたのだ、きっと。タルバニアが星詠みを続け、我々が動くことで、座標が破られたことだけでなく、波のことまでセットでカイネ様やネロ様にまで伝わり、お二人がサンムーンでひっそりと暮らすことを選ばない未来の可能性へと繋がった……そうか! その未来が回避できるからこそ、次の可能性が生まれる! いくつか視えた未来の光景というのは……我々の動き方できっと現在進行形で変わっていくのだ! 順番だ! 視える順番も重要だ。どうだ、タルバニア!?」

 暦封の時間守を共にしているだけあって、ショースターはタルバニアの凄まじい魔力と体力の消耗を分かっているのだろう。この場ではその知識量や洞察力で推測を重ね、意識の向こうにある星門では、現在進行形で進む今のトキを離すことができないため、繋ぐこと自体はタルバニアが行っているが、そこに必要な膨大な魔力のほとんどを、暦封伝いでショースターが補ってくれていたのだ。
 ショースターはあえて星を詠まないことを選び、今のトキを活用してその推察力と指示力で未来を変えようとしてくれているのである。
 ならばタルバニアはやはり、星詠みを続けることを選び星が視せる情報を的確に周りに伝えることで何としても未来を繋げたかった。
 タルバニアはショースターに同意を示すため、ゆっくりと頷いた。複数の可能性に増えた星が視せる未来予知は、可能性の数だけ、持っていかれる魔力は大きい。タルバニアは正直、話すのも限界なほどに、全身に痛みとひとたび気を抜けば意識を失ってしまいそうな疲弊を感じていたのだ。

「ショースター、恩にきる。これでかなり、詠みやすくなった。……次に星が視せた光景が、二人同時ではなく……ネロ様だけが命を落とされるものと……カイネ様だけが命を落とされるもの……。どちらも、星詠みをしすぎて……命を落とす」
「最悪だ。お二人は特別な星詠みができるから……。恐らく無理矢理に星を詠まされるのだろう。絶対に我々が……」
「うっ、ぐあっ……」
「おい!? タルバニア!?」

 突然、タルバニアが地面に額をつけるような形で苦しみだし、身体を上下に大きく震わせ始めるのだ。ショースターが思わず駆け寄るも、緩く首を振り、大丈夫だという意を示す。ショースターにもかなりの魔力を星門の方で使わせてしまっている。タルバニアは新たな未来が視えたからこそ、今後のことを考えると、これ以上、ショースターに少しでも無駄な魔力を使わせたくはなかった。
 タルバニアは左目を覆うその手にさらにもう片方の手を重ねる。

「……タルバニア?」
「視える未来が……増えた。次は……ここにいる者、ないしアヴァロンとムーに住まうもの全員が命を落とすものだ」
「なんだと!?」

 星詠みをやめるのか、それとも両目で星詠みをするのか。タルバニアはゆっくりと息を吐くようにし、重ねていた方の手を外し、ついには、ずっと左目を覆っていた手を外し。哀れなくらいに恐怖にのまれた右目と、驚くほどに憎しみに満ちた左目を、露わにするのである。
 すると、タルバニアの瞳は黒いはずであるのに、まるでこの国の王子のように、その左目は真っ赤な炎のように揺れて見えたのだ。
 けれど、その赤は、美しいというよりは、悍ましいという表現が近い、血と炎の混ざる色だった。
 その瞳をみた瞬間、その場にいる全員が、あまりもの恐怖に、背筋が凍り、ただ震えるしかなかった。そして、意識を失わないようにしているからか、感情が溢れ出ているからか、あるいはその両方か。タルバニアはアヴァロン城の廊下中に響くくらいによく通る、けれども、その瞳同様に明らかに憎しみの滲む声で言うのだ。

「戦争だ。宇宙中で戦争が起こる……。まずは最初にアヴァロンとムーの両方が同時に攻められ……火の海になる」

 

to be continued……

 

はるのぽこ
次話更新くらいに、秘密の地下鉄時刻表Vol.5から先読み刊行できたらなと思っております!

 

 

※毎週土曜日、朝10時更新予定🐚🌼🤖

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