小説・児童文学

【小説×宝石】誕生石の物語―地球への贈り物―~4月ダイヤモンドの物語①~

2025年4月30日

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【小説×宝石】誕生石の物語―地球への贈り物―~4月ダイヤモンドの物語①~

 

はるのぽこ
このままでもご覧いただけますが、prologueからお読みいただくとよりお楽しみ頂けるかと思います(*- -)(*_ _)ペコリ。特に今回はガーネットの物語と合わせてお読みいただくと分かりやすいかと思います! まだの方はよければぜひ✨

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地球への贈り物_prologue

 

 天界一に高く尊い山、宝山にはこの世界を創られた推称様とその弟子たちが住んでおりました。弟子たちは誰も登ることができないと言われておりましたこの宝山を登りきった十二人の若者たちにございます。
 彼らは宝山の山頂付近に建てられた別邸にて、推称様が新たに創られた地球へという星に宝を贈る任に励んでおりました。

「……できた」

 ダイヤモンドがぼそりと呟いたその声は、それはそれは小さなものでありました。呟いたというよりは、本当にうっかりと感動のあまりに漏れ出てしまったものだと言えるでしょう。

「ダイヤモンド、やったな……っ!」
「これは見事だ。推称様が創られた水晶のように透明だというのに、全くの別物。光が屈折し、いくつもの輝きが重なるのが……何とも美しいことか」

 ちょうどそれは、ガーネット以外の他の弟子たちもこの別邸に設けられた作業場に籠っているときのことでございました。
 皆がそれぞれの宝を創る任に集中しておりましたが、決して、誰一人としてダイヤモンドのこのうっかりと零した小さな感動の声を聞き洩らしはしませんでした。
 気が付けば弟子の皆がダイヤモンドの作業台を囲み、その中央に置かれたそれは美しく輝く透明な宝石を見つめていたのです。

「きっと、推称様もお喜びになる。宝と呼ぶに相応しい代物だ」
「ありがとう。皆がそう言ってくれるのならば、きっと大丈夫だろう。……最終調整をしてこれを提出したいと思っている」

 ダイヤモンドはあまり感情を表には出さない男性でありました。けれども、宝山に登ることはもちろんのこと、この宝を創る任というのも大変に難しいものであったからでしょう。その達成感というのは、ダイヤモンドの心をいつになく開放的にさせ、微かではありますが、どこか緩んだ表情を浮かべさせていたのでございます。
 微かといっても、それは苦楽を共に過ごしている十二人の弟子たちだからこそ分かる程度のものでありましたが、それでもダイヤモンドの喜びがどこか滲み出ておりました。

 その晩、ダイヤモンドは創り上げた宝石を持ち、地球への入り口を見つめておりました。
 作業場のいくつかにはまだ灯りがつき、引き続き任に取り組む者もおれば、ダイヤモンドが宝を創り上げたからこそ、安心して休む者もおりました。
 宝自体は任を受けた弟子たち皆が、それぞれ一人一人、提出することとなっております。けれども、推称様の創られた水晶を作ることはできても、全く新しいそれとなるものを創ることは地球の性質を思えば幾つもの可能性があるというのに、容易なことではありませんでした。
 宝山に登り、弟子となったこの十二人は天界の中でも優秀という言葉では片付かない程に誰一人欠けることなく優秀な者で揃っておりました。
 時に皆で意見やアイデアを出し合う時もありましたが、それでも、なかなか宝に匹敵する物を創り出すことができずにいたのです。
 ですが仲間の一人がそれをついに創り上げたということは、大きな希望となったのでございます。

「いつになくソワソワとしてるね。ダイヤモンドらしくないと言えばダイヤモンドらしくないし、ダイヤモンドらしいと言えばダイヤモンドらしいよ」
「……翡翠。それはどういう意味だ? ……それにソワソワなどしていない。確かに嬉しくは思っているが」

 翡翠はダイヤモンドよりもさらに前へと進み出て、地球への入り口へと手をかけます。そして、ダイヤモンドの方を振り返ることなく、話し続けるのでございます。その声はどこか柔く、愉快そうでもありました。

「そのままの意味だよ。全くもってソワソワしているように見えないのに、とてもソワソワしている。……それほどに嬉しいのならば、ガーネットにも素直に報告してきたらどうだい? ダイヤモンドが探せば地球のどこにいたとしてもすぐに見つかるだろう」
「…………どこでどう過ごそうが、それぞれの自由だ。わざわざ探すなど……」

 翡翠は地球への入り口へと足をかけ、ようやくにダイヤモンドの方を振り返ると、やはり柔く、けれども瞳は真剣そのもので、もう一度言うのでございます。

「それほどに嬉しいのならば、ガーネットにも報告してきたらいいと私は思う。確かにどこでどう過ごすのかはガーネットが決めることかもしれないが、会いに行くのは別に悪いことではないし、難しいことでもない。ダイヤモンドが探せば地球のどこにいたとしてもすぐに見つかるのだから。その手にもつ宝石は……すごいことなのだ。わざわざ探して報告するほどのね」
「…………」

 ダイヤモンドは黙ったまま、けれども翡翠と共に地球へと向かうという意思表示なのでしょう、その身を前へと進めると、躊躇うことなく地球の入り口へと乗り出すのです。

「帰りが遅いから……様子を覗いにいく」
「強情だね。会いに行けばいいのに。ダイヤモンドの言う様子を覗うとは、本当に遠くから眺めるだけだろうからね。明確に会うと決めなければ、会話さえしないのだろう?」
「否……様子を覗った後、会えたら会う」

 その返答は翡翠にとって意外でもあり、納得するものでもあったのでしょう。驚いた表情をみせてはおりましたが、それも一瞬のこと。決して、それ以上は何も言いませんでした。緩く微笑むと、翡翠は特に合図もせず、そのまま地球へと目掛けて、入り口から飛び出すのです。
 そしてダイヤモンドもまた、迷いなく翡翠に続きましたが、決して掌の中にあるものを落とさないようにでしょう、ぎゅっと握りしめるその拳は、力を入れ過ぎのあまり、震えているようにも見受けられました。

 二人して見つめるのは、青く、白や緑を混ぜながらも美しく輝く宇宙に浮かぶ球体にございます。

 翡翠が先に飛び出しは致しましたが、地球のどこへと着地するかを決める頃には自然とダイヤモンドが先頭を行き、短く切りそろえられた髪と同じく白銀の瞳で、天界で唯一の赤い髪の者を探しておりました。

「……変だ。最初に来た地点から動いた形跡がない」
「確かにガーネットが一か所に留まるなど変だね。何かあったのかもしれない」
「……もっと早くに会いに行くべきだった。すまないが、急ぎたい。スピードをあげる」
「ダイヤモンドやガーネットのスピードに合わせると、老体には響くんだ。だが緊急事態かもしれないしね……最善をつくそ……うって……もういない」

 翡翠が返事をする頃にはダイヤモンドはあっという間に地球のすぐ傍まで距離を詰めておりました。もう姿はほとんどみえません。
 翡翠は苦笑いしながらも、ダイヤモンドに追いつくためでしょう、策士の彼は日頃から力を温存するタイプでありましたが、今回ばかりはダイヤモンドと同じくらいのスピードで地球へと着地体勢に入るのでございました。

 そして、翡翠が地球へと無事に降り立ってすぐでございましょうか。
 ダイヤモンドの白銀の髪は、太陽の光に反射して大変に美しく、まるで彼がその手に握る新しく創られた宝石のように輝きますので、それを目印に、翡翠はダイヤモンドと合流致しました。

「追いついた。ダイヤモン……ド」

 そこには、やはりいつも通りであるのに、明らかにいつも通りではないダイヤモンドが呆然と立ち尽くしていたのでございます。
 その視線の先には、足を怪我した赤い髪の女性がおりました。大層嬉しそうに、柔く、目を輝かせて微笑みながら、一人の男に肩を借り、村を歩いている最中でした。

「この村で暮らすのは、とても楽しそうだ」
「そうですか? ガーネットがここにいたいならば、あの家を譲りますよ?」
「いいのかい?」
「はい、あれは遠くへと行ってしまった妹の家だったので。今は空き家ですから」

 そして、聞こえてくる会話の内容は同じく天界を共に生きた者からすれば考えられない、けれども目の前の赤い髪の女性の表情や振舞いから考えれば、当たり前ともとれるものであったのでございます。
 ダイヤモンドは遠くからその光景を眺めるというよりは、視界へと入れるような形で、女性が肩を借りながらも歩く様を、無事に家へと戻るその瞬間まで一言も漏らすことなく、見守っておりました。
 ダイヤモンドの表情は特に普段とは変わらず、落ち着いているものにも見えました。
 ですが、本当の心の表れでございましょうか。あれほどまでに落とすまいと固く握っておりました宝石を、ついうっかりと、その手から離してしまったのでございます。

 

to be continued……

 

 

 

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