小説・児童文学

ループ・ラバーズ・ルール_レポート14「抑える」

2025年7月12日

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ループ・ラバーズ・ルール_レポート14「抑える」

 

 昨日、ショーたちの演奏を聴いたリファは、直前まで覚えていたというのに、あまりにもそれに夢中になってしまい、ゴーカリマンと出会ってから初めて、テレビでの最新話の放送を見逃した。帰宅後にネットを繋ぎ、アーカイブで視聴したけれど、それくらいにリファにとっては、ユーキとの時間も、ショーたちの演奏も、ダイや摩季とのお喋りも、初めて見張りを撒いたときと同じように、まるで世界が変わったかのように、視野が広がった気がしたのだ。物理的に目に映る景色はいつも通りなのに、どこか、これまでよりも美しく、色がはっきりと見えるような気がしたのである。それで気分が良くなってしまっていたのかもしれない、お昼休みにユーキに言おうとしたことを、突然に思い出したかと思うと、熟考せずについ、気が付けばリファは口を開いていたのだ。

『……本当はね、お昼休みに、話したかった。こっそり引いて、偶然ファルネに乗るのをやめてここまで来る予定だったから……言えなかったけど、コレ、分けていいくらい、いっぱいある。私も、ユーキちゃんに分けたい。ステッカー、分けてもらえて、嬉しかった』

 鞄に詰め込んできた大量のゴーカリマンのマスコットをみせると、その場にいる全員が息を飲んだ。そこにはノーマルキューブの白いのがあと二~三個程。レアバージョンのラメ入りの赤とシルバーが五~六個ずつくらい。オーロラが四個ほど顔を覗かせていた。

『う、うわああ。すっごい、これ』
『や、ややややっばああ』

 デコポンコンビと呼ばれる人たちも興奮気味に鞄の中を見つめ、ショーとダイはガチャキューブの時のことがあるからか、『やべぇな』と言いながらも軽く笑うだけだった。デコポンコンビの人にも『……たくさんあるときは、分けていいんだって。……ゴーカリマン、好き?』というと、喜んで選ぼうとしたものの、ダイが今度はショーではなく、その二人を長い脚で蹴り、『空気読めよ』と何故か止めた。ユーキちゃんは遠慮がちに鞄の中を覗き、『……リファちゃんが……鞄につけてる金色があるなら……欲しいかも』と言ったのだ。けれど生憎、その日鞄の中に金色のゴーカリマンは詰めてきておらず、『じゃ、じゃあ大丈夫』とユーキは選ぶのをやめてしまったのである。リファの中で、確かにモゴロンが好きなのだけれど、何となく、ゴーカリマンとレディーマンもひと種類ずつは、あの日貰ったモゴロンと共に並べて飾っている。その他のゴーカリマンを各五個ずつくらい、手前から適当に詰め込んできたのだ。けれど、最初に引いた金色のゴーカリマンだけ、鞄につけているのを含め二個しか持っておらず、たくさん、ではないから置いてきたのである。ただとっさの判断で、ユーキにそれは黙ったままにしておき、『……適当にとってきたから。家にもまだいっぱいあるの。また持ってくる』と言うに留めた。ユーキは『気にしないで』と慌てたように言うばかりで、その日はお開きになってしまったのだ。

 リファが持ってきたのはモゴロンと一緒に飾っていた残るひとつ。金色のゴーカリマンは、その手を離れ、ユーキに嬉しそうに握られている。もっと、話していたい。そう思ったけれど、改札口でいつもよりも時間を費やしてしまったからだろう、改札の向こうからリファをじっと見つめる一人の男性が咳払いしたのが、リファの耳にまで届いてしまった。

「…………」

 リファはユーキの方を向いたまま、表情を鎮め、仕方がなく今度こそ、定期パスを出す。ファルネ到着前のアナウンスが流れ、ユーキもそれに気が付いたのか、「また明日」とリファが言うと、手を振ってくれた。いつもならばユーキがエスカレーターで降りていくそれを見送って、自家用車が通り過ぎるのをポータブルデバイスを見るフリをしながら視界に入れるところだけれど、リファはそれを諦め、改札をくぐると早歩きでホームを目指す。今日乗るのは自宅帰宅時とは反対方面行のファルネだ。
 ジョウセイ駅からセントパーク側へと乗り進めると辿り着くのがサントウエリアなら、その反対側はスイセンエリアと呼ばれる、広い未開拓のエリアだ。なんでも、温泉というのが湧き出るらしく、硫黄の匂いと火傷を負うくらいに高温のお湯が出るのに政府も手を焼き、手つかずのエリアとなっているのだ。そのスイセンエリア側の、人が寄り付かない奥地に、リファを管理する研究施設、ネオパルコが密かに存在する。降りる駅はファルネで言うならば、スイセン口と呼ばれる終点だ。そこからさらに、研究者が内密に使う地下高速ファルネストを利用して、ネオパルコまで向かう。ファルネストは時速三百キロはあると言われており、だいたいスイセン口の駅から十分くらいのところにファルネストの秘密の乗り場があり、そこからさらに十分ほど乗り継ぐと、ネオパルコに到着する。地下を一瞬で通り抜けるから、リファでさえ、ネオパルコの明確な位置など知らない。多くの研究員が住み込みで勤務しているため、ファルネスト自体を誰もが日常的には使わない。使うとしたら、スイセン口からファルネストへの乗り場となる小さな売店から物資を運ぶとき、もしくは、被験者の保護者が面会に来るときくらい。ファルネストに乗る時には決まりがあり、全員が目隠しをすること、政府が提示するSS極秘プロジェクトの箝口令への同意書に指紋と瞳認証で都度、電子サインすることだ。ただリファは例外で、指紋と瞳は生誕時から登録してあるため、電子サインは必要ない。そして、先日から任務が始まったため、目隠しをもしなくてもよくなった。

 今日の見張りは、リファがよく知るネオパルコの研究員。ということは、今日は急げの合図。研究所の見張りは表向きのルールを守るためファルネに乗車前からネオパルコに到着までの間、本当にリファの動きを見るだけで、話かけはしてこない。さらに言うと、リファだけが例外なだけで、ファルネストに乗車中、彼らは目隠しをすることを義務付けられている。あの研究施設は、勤めているものでさえ、場所を知ってはいけないのだ。途中で目隠しする手前、本当に彼らはリファに接触はしてこない。あくまでも、見張りではなく、偶然、リファと同じファルネに乗り合わせただけということで押し通している。
 リファは研究員の視界に入りつつ、なるべく完全にリファの姿が入り込まない絶妙な位置関係が成立する座席に腰かける。といっても、周りの乗客がリファの姿を隠してくれるのはほんの数駅程度。リファと研究員はファルネに乗る全員が降りると言っても過言ではない、ジョウセイ駅から数駅ほど進んだ、タント端駅で一度降りる。
 人々が住むエリアというのが、都心部のセントパーク周辺の数駅か、田舎と呼ばれるサントウエリアがメインであるならば、一定数が、新しく開発が進んだこのタント端までのベッドタウンエリアを利用する。ここは都心部に勤めつつも、田舎に住むには十分過ぎるくらいに豊かで、セントパーク付近に住むには少し背の届かない、中間層が好んで居住している、まだまだ発展途上のエリアだ。ジョウセイ駅からタント端駅までの数駅全てが、商業施設はあまりないものの、こういった層が住み心地よい、住宅やマンション、学校がいくつか固まっている。実質、利用者という観点でのファルネの終点はこのセント端駅であった。ジョウセイ高校の制服の者が、それよりも向こうに乗車するのは、明らかに怪しまれる。リファはファルネ通学が決定してから、指示通り、一度このタント端で降り、手洗いへと向かって他の乗客が姿を消したのちに、一本後のスイセンエリア行のファルネに、人が降りきったのを見計らって、目立たぬよう乗り込む。そこからリファと研究員しかいないファルネの中で、徐々に失われていく景観を、窓の外からぼんやりと眺めるのがお決まりだ。ゴツゴツとした岩肌の見えた山々と、枯れた土地がひたすらに続き、それを飽きるくらいに見続けてようやく、温泉と呼ばれるものが湧くエリアへと突中する。至る所で高温により発生する煙や、熱湯が吹き出して貯まった、高温の巨大な水たまりが、チラホラと現れる。終点に着きリファが歩き出すと、研究員もまた同じように歩き、リファが立ち止まると、同じように立ち止まる。ユーキと同じところを見つけるとあれほどに嬉しくなるのに、リファはこの同じ動きをする人たちとネオパルコに戻る時間というのが、能力テストでも任務でもないのに、とても苦痛だった。身体には痛みなど、一切感じていないというのに。
 そして、恒例通り、ファルネストから降りてすぐ、ネオパルコの敷地に入るのを見計らったかのように、彼らはリファに今日のスケジュールとやらを、伝えてくるのだ。

「ゼロ・ファースト、今日はいつもよりもファルネが一本分遅かった。ファルネストの運行時間と速度を前もって調整したから間に合ったが、気を付けるように。今日は集中力向上テストの後で、久しぶりに任務だ。……といっても、今回は研究所内で、次の任務のため、記憶する業務になる。……古舘教授もお越しだ。失礼のないようにしろ」
「……はい」

 リファは相手の目を見ることなく、返事をした。
 もしうっかり目を見てしまって、今の気分がそのまま、抑えきれずに力として出てしまったら困るから。
 ネオパルコでは、リファの能力が最大限出だせるようにと、多くのテストルームがあるけれど、条件反射というのだろうか。それらの部屋に辿り着くと、それに特化した力が出やすくなってしまうのだ。
 移動中、それらの部屋の前を通過する度に、リファの脳ではなく、気分に反応して能力が勝手に発動しそうで、それを抑えるのに必死だった。

 

to be continued……

 

はるのぽこ
ルールの記憶のところに、リファのメモがあります✨今後のリファのメモの更新はストーリーの展開に合わせてネタバレにならないよう、HPではなく製本版のPDF特典として普段のトランプなどと+αで、巻ごとにぴったりの状態で能力や相関図などまとめたペーパー的なものを無配していけたらなと考えています!(秘密の地下鉄時刻表やフィフィもネタバレにならないよう、ホームページではなく製本版の特典としてキャラや能力・相関図など何かしら作れたらなと思っています✨)

 

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ループ・ラバーズ・ルール

付録としてPDF特典トランプがつきます
各キャラのイメージで絵は描き下ろしてます❤♦♧♤

このレポートの該当巻は『Ⅲ』になります!
トランプ付録はA「Rifa」です

 

はるのぽこ
ルールの記憶のところに、随時リファのメモを更新中✨今後、リファのメモは相関図やストーリーの展開に合わせてネタバレにならないよう、PDF特典に巻ごとにぴったりの状態で無配していけたらなと考えています!(秘密の地下鉄時刻表やフィフィもネタバレにならないよう、ホームページではなく製本版の特典としてキャラや能力・相関図など何かしら作れたらなと思っています✨

 

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第2・第4土曜日

 

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