小説・児童文学

ループ・ラバーズ・ルール_レポート15「任務」

2025年7月26日

スポンサーリンク

ループ・ラバーズ・ルール_レポート15「任務」

 

 リファはファルネ到着と共にすぐさま乗車したが、身体の動きに反し、心がひどくそれに抵抗しているのを感じていた。
 慣れているはずなのに、これがリファの日常であるはずなのに、どうにも、何かが重くのしかかるのだ。そして、その心の重さというのは、いつもよりも強く脳から身体へと指令を出さなければ、あっけなく身体の動きを止めてしまいそうだった。
 研究所へと戻らないなど、できるはずもなければ、リファに他に帰る場所など、ないというのに。

(……早く……切り替えて、集中しないと。……テストに影響がでると……厄介だ……)

 リファの対角線上、視界にギリギリ映る程度の所に、ホームで咳払いした男性が腰かけていた。リファは研究所のルールを守るために、今は身体を休めているんだと強く言い聞かせて、あえて目を瞑り、男を視界から排除した。ただ、目を瞑る前、ふと、鞄につけた金色のゴーカリマンをみられたくないという衝動にかられ、いつもならば何となく防犯のためにつけているこのゴーカリマンが外側にくるよう、鞄を膝の上に抱えるのだが、今日はあえて内側、リファとゴーカリマンが密着するように鞄を抱きかかえた。まるで鞄を抱きしめるように、いつもよりも強い力で。

 ジョウセイ駅からセントパーク側へと乗り進めると辿り着くのがサントウエリアなら、その反対側はスイセンエリアと呼ばれる、広い未開拓のエリアだ。なんでも、温泉というのが湧き出るらしく、硫黄の匂いと火傷を負うくらいに高温のお湯が出るのに政府も手を焼き、手つかずのエリアとなっているのだ。そのスイセンエリア側の、人が寄り付かない奥地に、リファを管理する研究施設、ネオパルコが密かに存在する。降りる駅はファルネで言うならば、スイセン口と呼ばれる終点だ。そこからさらに、研究者が内密に使う地下高速ファルネストを利用して、ネオパルコまで向かう。
 ファルネストは時速三百キロあると言われており、だいたいスイセン口の駅から十分くらいのところにファルネストの秘密の乗り場があり、そこからさらに十分ほど乗り継ぐと、ネオパルコに到着する。地下を一瞬で通り抜けるから、リファでさえ、地図に乗らないネオパルコの正確な位置など知りはしなかった。
 多くの研究員が住み込みで勤務しているため、ファルネスト自体を誰もが日常的には使わない。使うとしたら、スイセン口からファルネストへの乗り場となる小さな売店から物資を運ぶとき、もしくは、被験者の保護者が面会に来るときくらい。
 ファルネストに乗る時には決まりがあり、全員が目隠しをすること、政府が提示するSS極秘プロジェクトの箝口令への同意書に指紋と瞳認証で都度、電子サインすることだ。ただリファは例外で、指紋と瞳は生誕時から特別な登録がしてあるため、電子サインは必要ない。そして、先日から任務が始まったため、目隠しをもしなくてもよくなった。

 今日の見張りは、リファがよく知るネオパルコの研究員。ということは、今日は急げの合図。
 見張りは表向きのルールを守るため、ファルネに乗車前からネオパルコに到着までの間、本当にリファの動きを見るだけで、話かけはしてこない。さらに言うと、リファだけが例外なだけで、ファルネストに乗車中、彼らは目隠しをすることを義務付けられている。あの研究施設は、勤めているものでさえ、場所を知ってはいけないのだ。途中で目隠しする手前、本当に彼らはリファに接触はしてこない。
 あくまでも、見張りではなく、偶然、リファと同じファルネに乗り合わせただけということで押し通している。

 リファはじっと目を瞑って数駅ほどを過ごしていたが、周りの気配が一斉に動いたのを感じ、間もなくタント端駅へ着くのを察知する。
 このタント端駅までの区間、確かにファルネにはリファと見張りがそれぞれ表向きひとりで、けれども行き先を同じくして乗車しているが、周りの乗客が、ほんの少しだけ、リファの姿を隠してくれる。
 だが、このタント端駅というところで、ファルネに乗車しているほとんどの客が、一斉に降りるのだ。

(……こんなことに意味があるのか。……面倒だけど……ルールだから……仕方がない)

 そして、リファと研究員もまた、ファルネに乗る全員が降りると言っても過言ではないこのタント端駅で、一度降りるのが決まりなのである。
 人々が住むエリアというのが、都心部のセントパーク周辺の数駅か、田舎と呼ばれるサントウエリアがメインであるならば、一定数が、新しく開発が進んだこのタント端までのベッドタウンエリアを利用する。ここは都心部に勤めつつも、田舎に住むには十分過ぎるくらいに豊かで、セントパーク付近に住むには少し背の届かない、中間層が好んで居住している、まだまだ発展途上のエリアだ。ジョウセイ駅からタント端駅までの数駅全てが、商業施設はあまりないものの、こういった層が住み心地よい、住宅やマンション、学校がいくつか固まっている。
 実質、利用者という観点でのファルネの終点はこのセント端駅であった。
 ジョウセイ高校の制服の者が、それよりも向こうに乗車するのは、明らかに怪しまれる。リファはファルネ通学が決定してから、指示通り、一度このタント端で降り、手洗いへと向かって他の乗客が姿を消したのちに、一本後のスイセンエリア行のファルネに、人が降りきったのを見計らって、目立たぬよう乗り込む。
 そこからリファと研究員しかいないファルネの中で、徐々に失われていく景観を、窓の外からぼんやりと眺めるのがお決まりだ。ゴツゴツとした岩肌の見えた山々と、枯れた土地がひたすらに続き、それを飽きるくらいに見続けてようやく、温泉と呼ばれるものが湧くエリアへと突中する。至る所で高温により発生する煙や、熱湯が吹き出して貯まった、高温の巨大な水たまりが、チラホラと現れるのだ。

―ファルネ終点、スイセン口―

「…………」
「…………」

 終点に着いても尚、リファが歩き出すと、研究員もまた同じように歩き、リファが立ち止まると、同じように立ち止まる。
 ユーキと同じところを見つけるとあれほどに嬉しくなるのに、リファはこの同じ動きをする人たちとネオパルコに戻る時間というのが、能力テストでも任務でもないのに、とても苦痛だった。身体には痛みなど、一切感じていないというのに。
 そして、恒例通り、ファルネストから降りてすぐ、ネオパルコの敷地に入るのを見計らったかのように、彼らはリファに今日のスケジュールとやらを、伝えてくるのだ。

「ゼロ・ファースト、今日はいつもよりもファルネが一本分遅かった。ファルネストの運行時間と速度を前もって調整したから間に合ったが、気を付けろ。今日は集中力向上テストの後で、久しぶりに任務だ。……といっても、今回は研究所内で、次の任務のため、記憶する業務になる。……古舘教授もお越しだ。いいか、失礼のないようにしろ」
「……わかった」

 リファは相手の目を見ることなく、返事をした。
 もしうっかり目を見てしまって、今の気分がそのまま、抑えきれずに力として出てしまったら困るからだ。
 ネオパルコでは、リファの能力が最大限出だせるようにと、多くのテストルームがあるが、条件反射というのだろうか。それらの部屋に辿り着くと、それに特化した力が出やすくなってしまうのだ。
 移動中、それらの部屋の前を通過する度に、リファの脳ではなく、気分に反応して能力が勝手に発動しそうで、それを抑えるのに必死だった。

 

レポート16

 

∞先読み・紙版はこちらから∞

ループ・ラバーズ・ルール

このレポートの該当巻は『Ⅲ』になります!

※HPは毎週土曜日、朝10時更新中💊∞💊

ループ・ラバーズ・ルール更新日
第2・第4土曜日

 

 

ループ・ラバーズ・ルール_ルールの記憶

ループ・ラバーズ・ルール

秘密の地下鉄時刻表―世界の子どもシリーズ―

はるぽの物語図鑑

 

-小説・児童文学

© 2025 はるぽの和み書房