小説・児童文学

ループ・ラバーズ・ルール_レポート19「猶予」①

2025年9月27日

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ループ・ラバーズ・ルール_レポート19「猶予」①

 

 放課後、リファはユーキと共に、多くの生徒と同じように足早に教室を出た。主に痛むのは頬と頭で、絆創膏の数が多いが故に目立つだけで、足はそこまで痛くはない。けれど痛みよりも酷いのは身体全体の重みと、それに伴う息苦しさだった。
 決して、体調はよくはない。むしろ、リファの中で歴代の何位に入るだろうかというくらいに、悪い方である。歩けるのが幸いというか、リファなりに学校へと登校できるよう、怪我を負わないことではなく、歩けない怪我を負わないことに全神経を集中させたのがよかったのかもしれない。

 今日は自宅に戻る日であるため部屋から出ることはできなくとも、身体は休ませることができるとリファは思っていた。けれど思いがけず、リファは部活とやらを始めることが、ユーキの休み時間返上の手続きのおかげで、可能となったのだ。
 横になるという意味では自宅で眠る方がその意味に近いのだろうが、安全という意味では、研究所が下手に介入できない周りの目がある学校や周囲に人目がある環境下の方が、神経を張り巡らせなくてよいがために、部活の時間というのもまた、違った意味でリファに休息を与えることになる。

(任務が動く前に……上手く、身体を回復させていかないと……)

 リファはユーキと黙々と校内敷地の駐車場へと歩きながら、ポータブルデバイスのとあるファイルを念のためにもう一度確認した。

(何度見ても……本当にファイルが届いてる……こっちも、こっちも)

 身体を休めるという意味でこの部活動というのがリファに何よりの効力を発揮するのが、研究所へと戻る日数自体が減ることにあった。
 リファは本日より部活をすることになったがために、平日三日間だけでなく、平日五日間全てを自宅へと帰宅できることになったのだ。
 今、まさにリファが学校に通っている通り、教育に関する法律はかなり手厚く保護されている。政府からの予算のアレコレもあるのだろう、研究所の外で適応される目に見える法律というのは、研究所も逆らうことができないらしい。学校で部活の申請が正式に通ったがために、研究所も認めざるを得えなかったらしく、研究所もこの部活動の参加に合意したのだ。もちろん、部活に誘われて断らないというのは、ある種、成人まで必要な表向きの肩書を守るに繋がるという判断もあったのだろうが。
 そして、研究所が認めざるを得なかった一番の理由でもある学校での部活の申請が正式に通ったというのは、リファの両親が部活動参加に同意したということでもあった。
 ジョウセイ高校は部活動をする者がほとんどである。そのために入学時に部活をする、しないに関わらず本人と両親の部活動に関する同意書が必要であった。リファは既に入部しないの方で提出していたのだが、その変更届を顧問となる谷村先生が用意してくれたらしいのだ。先生が直々に、両親に部活許可を得る電話を入れ、電子で署名をもらって。
 リファは両親のサインの入ったそれに、名前を記したその瞬間から、表向きでの部活動に参加する権利を有し、それに続く形で裏から政府と研究所からの許可を得たのである。
 高校転入時に交わした契約書には、リファが部活をする場合は五日間、自宅にリファを置くことが明記されている。両親が部活を認めるというのは即ち、リファの自宅滞在を認めるということであった。
 あの両親がリファの滞在が長くなる部活を認めたなど最初は信じがたかったが、確かにリファのポータブルデバイスには両親のサインの入った表向きのものと、政府と研究所のサインのはいった裏の自宅滞在日数の延長許可証と部活承認の電子ファイルが届いたのだ。
 リファの周りにはルールも法律も守らない怪獣で溢れている。そこに表向きの先生やユーキからの計らいがこれほどまでに大きな影響があるなどとは露にも思わなかったのだ。
 そこからリファはいよいよ、心が晴れやかになり、ソワソワとした心地が止まらなくなってしまった。

 裏と密接に繋がった表向きの手続きさえ済めば、本当に表向きだけの高校での手続きというのは、非常に迅速かつ穏やかであった。
 ジョウセイ高校の部活動は三人からであれば認められるらしく、特に文化部はそれが緩い。運動部が特段に厳しいという訳ではないが、部活に必要な道具や部室の確保、グラウンドの使用時間など取り決めが多く、新規であると申請が通るのに時間を要する場合がほとんどらしいのだ。
 一方で、文化部は道具をそこまで利用しない場合、部室というのが、演劇部のように更衣を伴わないのであれば、許可を得やすいらしい。
 基本的に顧問の先生さえ決まれば、あとはその先生の担当科目に縁の深い教室や準備室が大抵の場合使わせてもらえる。
 顧問の谷村先生は国語の担当であるため、先生が学校にいる時間、鍵さえ借りにこれば、いつでも国語準備室を使ってもいいとのことだった。
 けれどユーキ曰く、リファたちは特に部室が必要ないのだとか。
 もし一点、厄介なことがあるとすれば、それは部活動の予算らしい。どの部活にも予算というのがおりるらしく、ジョウセイ高校の場合、この予算というの自体に不足や心配はない。ただ予算がおりるからこそ、活動報告というのをしなければならないらしいのだ。
 だがそれらをユーキは昨日から一日で済ませたというのである。
 備品というのを購買で入手し、領収書と共に用途を記入して提出。それはすぐに認められ、早速、今日から活動できるようにしてしまった。
 ユーキは部活動ができると決まってすぐ、昼休みに珍しく捲し立てるようにして、これらを一気に説明してくれたのだ。
 最近のリファの感覚では、休み時間というのは短い。その中でも比較的長い休み時間が昼休みであるが、それでもユーキと一緒に過ごすというだけでなく、物理的に説明の時間が足りなかったのだろう、昼休みはあっという間に終わってしまった。蜜なその時間内、リファは必死に、ユーキの説明を理解しようと集中してそれらを聞いたのである。
 そして、このユーキの懸命なる説明は、昨日から続く胸の痛みというのを和らげ、リファの想像力を掻き立てた。

 部活動はユーキと過ごす時間だという、一番の前提事実を。

「リファちゃん、乗って!」
「うん」
「もうちょっとだけ、行き先は秘密なんだけど。……でも、本当に運動部じゃないし、戸田沖君は基本的にはいないし、生徒は私とリファちゃんだけだから! 校外でもゆっくりと過ごせるよ!」
「うん」

 駐車場に着いた途端、ユーキは運転手よりも先に車のドアをあけ、リファに乗車を促した。ファルネのホームから度々眺めていたユーキの車を間近で見るのはもちろんのこと、乗車するのは初めてのことであった。
 車内は転入当初に乗った東条家のものと然程変わらないように感じたが、車内の匂いがいつものユーキの匂いと同じで、どこかリファをほわほわとした心地にさせたのだ。
 この突然に決まった部活の活動場所は車で赴くような学校外になるようで、けれどもリファにはまだ行き先は内緒だと、ユーキは言う。
 休み時間にユーキが部活申請書を持ってきた時点では、あえて部活名はまだ記入していなかった。
 ただ、ユーキが文化部で運動はしないし、基本的に学校外での活動で、戸田沖は基本的にいないというのならば、きっとそうなのだろう。
 それも活動中、ジョウセイ高校の生徒はユーキとリファだけというのだから、尚のこと、その話は信じやすかった。

「目的地までこれから毎日、私の家の車を使うね。これは部活的にも許可はいらないやつだから心配しないで。ルール内だよ! それで、リファちゃん、ちょっと疲れたでしょう? 着いたら起こすから、移動中は眠ってて大丈夫」
「色々、ありがとう……」
「うん!」

 座ると身体に合わせてフィットする座席は、学校のものより柔らかいために、リファの身体にはひどく優し過ぎるようにも感じられた。
 けれども、部活の時間というのが、活動内容が何であれ、不思議とユーキと一緒であれば寛げるような予感があり、リファの心は既にこの優し過ぎる座席を受け入れ始めていた。

(見張りをファルネで撒かなくても……放課後に……自由な時間が……できる)

 完全に見張りが消えることはないだろうが、法的にも、人の目を考慮しても、」彼らは手出しできなければ、授業でもないために少し緩んだ心地でリファは今からの数時間を過ごすことができる。さらに言えば、特に今日は初日であるがために、リファでさえ、部活の活動場所を知らないのだから、研究所の者が知る由もない。今日の部活の数時間はおおよそ、本当にリファだけの自由時間といっても過言ではないだろう。
 そして、そんな本当の意味での自由時間を、ユーキと過ごせることがリファには嬉しくて堪らなかった。

(ダメ……。喜んだら……ダメ。部活……部活に集中……)

 だがその一方で、その一方で昨日の絶望的な研究所での出来事による罪悪感が、頭にも過っていくのだ。
 ユーキの話し方的に、目的地が病院ではないことをリファは予測していた。ユーキとのこれまでや、ユーキの性格を考えると例えばリファがいきなり病院でボランティアができるなど、サポーターとしても日頃のユーキの人柄的にも、そのような判断はしないはずなのだ。

(でも……病院じゃ……なくても……部活を本当に……したら……ルール内で……いけ……る)

 眠る気はなかったものの、車というのは、とても便利でファルネよりもずっとずっと、快適らしい。ファルネとは違う揺れ方が、動き出して数分も経たずにリファの眠気を誘った。
 心からの安心感は、肩の力を抜けさせ、壊れゆくボロボロの身体が一番求めるものを素直に求めさせたのだ。

(そし……たら……資料……にん、む……)

 研究所でも自宅でも、リファはとあるルールを忠実に守るがために、眠っている間も能力を使い続けている。それにはもう慣れているため、能力を使いながら眠ること自体に、疲労をそこまで感じはしない。けれど、回復という観点で言うと、それは傷の治癒を遅らせる要因となっているのは事実であった。
 今のリファにとって、数分でも完全に休める時間というのは、かなり大きかった。
 気が付けば思考が巡る中、リファは記憶の夢の中へと落ちていたのだ。

 

レポート20「猶予」

 

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