小説・児童文学

ループ・ラバーズ・ルール_レポート27「破壊」

2026年1月24日

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ループ・ラバーズ・ルール_レポート27「破壊」

 

 リファは渡された杵というらしいそれを思い切り振りあげ、目の前の、先ほどまで自分が座っていた段ボールに狙いを定めた。
 同じく、その横ではリファ程ではないが、恐る恐る顔の真横くらいの高さまで杵を振り上げたユーキが、やはり先ほどまで座っていた段ボールを狙うというよりは、おろおろと定まらぬ視線を定めようと試みていた。

「リファちゃん、ぎゃ、逆に怪我に響くんでそんな振り上げなくても大丈夫っす」
「ユーキちゃんも、だ、大丈夫っす! ショーさんがアシストしてくれるんで、怖くないっすから」

 デコとポンのその言葉に、リファは考えるように一度狙いを定めた段ボールから横にいるユーキの方へその視線をとズラした。ユーキはさらにおろおろと視線を泳がせている。

(なるほど。これくらいの段ボールならこの怪我でもすぐに壊せると思ったけど……普通は怪我をしていなくても、あまり女の子はすぐに壊せるものではないのか)

 多少リファが力を出し過ぎても、サポーターであるからだろう、ユーキは日頃、特に驚くことなく上手く合わせてくれている。
 けれども今は部活中で、ショーや摩季たちが一緒なのだ。
 どの程度の力を出すのが正解なのか、リファはユーキの筋肉の動きを観察しつつ、思案していた。

「よーっし。んじゃ、二人とも俺の声に合わせて杵を振り下ろしてほしいんだわ。これ、俺が創った特製の杵だからさ。あんまし力入れなくても大丈夫なやつなんだよね~」

(……確かに怪我を回復させるのに集中する方がいいし……不自然がられるのもよくない。ユーキちゃんくらいの力で試してみて……私も壊せなかった、くらいにしたらいいか……)

 ニマっと笑ったショーが、腰を低く王立ちをすると、勢いよく両腕を広げたのだ。立ち位置としては、リファとユーキのちょうど中間くらいだろう。

「ゴーカリマンっぽく、『スリー、ツー、ワン、ゴー』でいくよ~? 二人ともゴーで振り下ろしてね~。本当に力入れなくて大丈夫だから」

 ユーキがぎゅっと強く杵を握りしめたのがリファの視界の片隅に映った。
 ユーキは力を抜くどころか、むしろ、かなりの力が入っている状態、さらに言えばその力は段ボールを壊すには逆効果間違いなしの類の方なのである。

「んじゃ、いくよ~。……スリー」

 ショーはカウントを開始すると、その掛け声に合わせて、パチンと指を鳴らした。
 豪快に両腕を広げたままだというのに、とても器用に指先だけで音を鳴らしたのだ。

(ユーキちゃん、めちゃくちゃ力入ってる……さすがに、ユーキちゃんよりは段ボールを壊してた方が不自然じゃないかも……)

「ツー」

 依然、ユーキは全身に力を入れたまま、狙いを定めるというよりは既に目を瞑っており、けれども杵を顔よりもさらに高い位置へと振り上げていた。
 リファもいよいよ視線を完全に標的、目の前の段ボールへと戻し、先ほどよりは低い位置に留め、杵を振り上げる。

「ワン」

 そして、ゴーの合図に備えて杵を微かに握り直したその時、ショーの最後の一言が響くのだ。

「Go」

(えっ?)

 声と同時にショーは素早く広げていた両腕を自身の方へと仰ぐように動かしたのが見えたような気がした。けれどもショーがその合図を言い終わる頃には、リファは本当に、全くもって力を入れずとも、目の前の段ボールへと強烈な一撃を見舞っていたのだ。その力加減は完璧と言ってもいいだろう。
 リファの感覚でいう、強過ぎず、弱すぎない狭間。
 目の前の段ボールは、その形をある程度保った上で、的確にその空洞であるはずの中が見えるくらいに、上部だけを絶妙に穴をあけるような形で壊しているのである。

「…………」

 振り下ろした感覚はまるでなかった。けれども確かにリファが今まさに握っている杵は、見事に振り下ろされた後の状態であるのだ。

「わ、わわわ、壊れたっ!」

(えっ?)

 杵の動きに気を取られていると、ユーキの声が続き、リファは驚いて振り向く。
 すると、確かに全身に力が入り過ぎていた状態であったユーキも、見事にその段ボールの上部へと綺麗に穴をあけているのだ。
 ユーキの目は大きく開かれ、その声は興奮気味で、頬も紅潮しているように見える。
 その反応は壊せないと思っていたそれが壊れたことの驚きというよりは、自分でも壊せたという趣旨の喜びのようであった。
 水を差す訳にもいかず、リファは日頃ユーキへと行っている疑問にぶつかった時の質問というのを、その内に留めた。

 視線を自分が壊したばかりの段ボールの方へと戻すと、そこから色とりどりの細長い紙が、杵が貫通させた穴とそこから付随するヒビから顔を出していたのだ。

(ちゃんと……私の段ボールもユーキちゃんの段ボールも、穴が開いてる。……それも、全く同じ力加減でっ)

 いくら段ボールといえど、椅子の代わりに使えるくらいの強度であったのだ。決して、柔い造りのものでなければ、明らかにそれは段ボールの蓋の部分ではなく、底を上にしていたのだ。何かしらの仕掛けがあったのかもしれないが、座り心地からして、一打で、それもユーキのあの力の入り具合で貫通させるほどの穴があけられるとは、この世界のルール上、リファには計算が追い付かなかった。

(杵の方に仕掛けがあるのかも……って、あれ?)

 リファが杵をよく観察しようと握り直したそのとき、背後に影がかかる。
 すっかりと日が沈み始め、もう夜と言ってもよい時間帯だ。日没を控えた完全に姿を隠す前の太陽の光だけでは、確かに暗すぎて、影というものが見えにくい。
 それでも、この辺りに音というのが溢れているというのを抜きにしても、には移動のルールが感じられなかった。
 音も、気配も、影も感じなかったというのにいつの間にか、リファの背後にいたのである。
 それは先日のことも含め、リファが突然壊れた箱や杵に気を取られていたからだとは到底思えはしなかった。

「…………ダイ」

 再びリファが強く握り直そうとするそれを、決して背が低いほうではないリファの頭ひとつ分上の高さから、ダイは動きを制するように強く握っていた。
 リファがどこか疑うような心地で視線を向けると、ほんの一瞬のことであったが、ダイの細い目が躊躇いというよりは、どこか悲し気に揺れ動いたように見えた。

「あー……ごめん。でも、その、違うくて。もうちょい壊した方がいいし、これ以上はさ、無理しないほうがいいかなって。えーっと、俺が代わりに続きすんのとか、どうかな……って」

 リファはその申し出にようやく、本来の目的そのものを思い出すのである。今は段ボールが容易に壊れる理由を見つけるのではなく、段ボールを壊すということ自体が、重要なのである。
 パチクリと目を動かし、リファは視線をダイから段ボールへと戻す。
 すると確かにそこには、先ほど壊した箇所から、細長い色とりどりの紙が顔を覗かせ、風に合わせて浮かび上がっては横へと流れていくのだ。
 その穴からはまだ完全に破壊するにはまだまだだと言わんばかりの空気が醸し出され、さらには飛び出す紙がまるでまだ箱の中は秘密だとでも言うように、その奥というのを見せないのだ。

「私、」

 どう答えるのが正解であるのか。
 リファがユーキの様子を参考にしようと横を向くと、先ほどよりも幾分弱々しい音が、ポコンと響いたのだ。

「お~、ユーキちゃんいいね!」

 ユーキはショーの声に合わせてすぐさま杵を振り上げると、さらに次なる一打を加えた。ファルネが通過し、ユーキが段ボールを壊そうとするそれが巨大な影に飲み込まれていく。
 けれども代わりに、そこにファルネの通過音にも負けないくらいの大きなリズミカルな音が至近距離で加わりだした為、ユーキが段ボールを壊す大切な音は、形を変えて続いていったのだ。

「さ、それっ! あ、よいっしょ!」
「あ、それっ! さ、よいしょ!」

 陽気なデコとポンの声に合わせて、ショーがリズムをとるように指を鳴らす。
 まるで音楽のように一定のテンポを保つそれらは、どこか心地よかった。
 そして、ファルネが通過しきると共に現れるのは、残光がうつし出すユーキの影だった。影は賑やかに三つの細長いものが揺れ動くのを忠実に表現した。
 ユーキはリファの視線に気づくことなく、杵を振り上げてはそのツインテールを威勢よく揺らし、段ボールを完全に壊そうとしていたのだ。

「…………私も」
「あー……うん。ごめん。させてあげたいんだけど。でも、これ以上はダメかも」

 リファはダイのその返答に、無自覚ながらに目を丸くさせた。
 例えば、これまででいうと、人がいる時というのは、周りから不自然に思われなければそれでよく、抗うことなく流れに沿ってそれらを済ませていた。
 けれども今は、素直にダイによる禁止を受け入れられないのである。楽しそうに杵を振り上げるユーキと同じようにしたいそれが、リファの喉をぐっと閉まらせた。

 

to be continued……

 

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ループ・ラバーズ・ルール

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