オリジナル小説

陽によう

2024年2月23日

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ようによう

 

 炊飯器のスイッチを押す。
 それを合図にグラスに注ぐのは、少し度がきつめのアルコール。

 窓越しに日の光が差し掛かり、炊飯器が仏のごとく、輝きを放つ。
 その光景を眺めながら、日の光のギリギリ届かぬ場所に腰かけ、グラスの中のものを、口に流し込む。

 次に手に取るのは肴。自分が一番、好きなもの。
 あえて、塩気の強いものにしている。

「ばっかみたい」

 そう呟きながら、また、アルコールを口に注ぐ。
 その、繰り返し。

 次第に味が分からなくなっていき、さらに口に注ぐアルコールの量を増やす。

「全部が、どうでもいい」

 小さく息をつき、今度は塩気の強い何かを、口に含む。
 もう風味なんて、分からない。

「ふっ……。うぐっ……」

 味が分からなくなってきたのは、本当は酒に酔ったからではないのを、ちゃんと分かっている。

「なんで……上手くいかないんだろう」

 もう塩気しか分からない。
 絶えず涙が頬を伝うから。
 もうアルコールが喉を通った熱さしか分からない。
 鼻が詰まって、ちゃんと薫りがしないから。

 塩の味しかしない酒は、とてつもなく旨くて、ものすごく寂しい。
 けれど、誰にも邪魔されることのないこの孤独じかんは、私だけのもの。

 この時間こどくに私は酔うのだ。

 ピピー、ピピー。

 炊飯器が、鳴る。
 それを合図に私はグラスの中のものを、口に注ぐのをやめる。

 もう窓の外から日の光が差し込むことはなく、夜空にはきっと、星々が輝いている。

 社会に逆らうのはおしまい。

 もう夜だから、私は酒なんて飲まずに、夕飯を食らう。
 水分と塩分は十分にとったはずだけど、もしかしたら足りてないかもしれないから、もりもり食らう。

「……ごちそうさまでした」

 そしてルールしゃかいを守るため、しっかりと水を飲んで、目を冷やして、早々に眠る。
 明日に備えるために。

 私のささやかな反抗。

 昼の光の残る夕暮れの特別な時間。

 私は酒でちゃんと自分に酔う。
 もう社会ルールに呑まれぬために。

 

ひるう。

 

 

※飲酒を無理に推奨しているものではありません。20歳をこえてから、身体に気を付け、アルコールアレルギーや急性アルコール中毒に十分に注意してお飲みください。

 

 

はるぽ
おまけ

 

 

色を重ねて作ったものなのですが、何色が一番強くみえますか?
私はこれが、不思議とどの角度からみても、笑ってる顔にみえて、3枚目の角度がすごく好きです。

 

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