世界の子どもシリーズ

世界の子どもシリーズNo.22_過去編~その手に触れられなくてもepisode14~

2025年3月1日

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世界の子どもシリーズNo.22_過去編~その手に触れられなくてもepisode14~

 

 カイネの目の前に青い小さな炎が浮かびあがったかと思うと、いつの間に動いたというのか、すぐ真横に一人の男が立っていたのだ。

「つ……っ!」

 けれど、カイネが振り向くよりも前に男は背後に回ると、その腕をカイネの首元へとまわすのである。ギリギリ、首は絞められてはいない。けれどもいつでも容易く男はカイネの首をとることができるだろう。男の掌には依然、青い炎が揺らいでおり、それはカイネの頬すれすれ、かろうじて当たらないところで不気味に光を放っていた。

 背後をとられたっ! ずっと、影は正面にしかなかったというのにっ。

 カイネは咄嗟に、漲らせていた魔力で全身をぴったりと覆うような薄い膜を作っていく。本来ならば敵からの攻撃に備え、防御したいエリアに集中的に厚い魔法の壁のようなものを作る防御魔法だ。
 その応用でそれをかなり薄くして広範囲、自身の身体へと纏わせたが、切り傷や擦り傷を和らげ、耐熱効果を幾分かあげるくらいのものにしかならないだろう。
 これほどまでに動きの速い者の物理攻撃を防げる訳がなかった。

 ここまで距離を詰められたら、どうしようもない。
 ……イチかバチか。魔法玉の準備もしておきましょう。

 例えば、魔力でいうとカイネはかなり強い。十分に防御も攻撃に関しても知識から技まで一通りの理解と使用はできる。けれど、カイネは小柄ゆえに防御はできたとしても攻撃に関しては自分の魔力に釣り合う体格的な力というのを持ち合わせていなかった。
 それは決して、カイネの健康状態に問題がある訳でも、運動が苦手だからという訳でもない。踊りひとつにしても、あれほどに舞うには筋力がいり、魔法と切り離して運動だけに焦点を当てればむしろ身体能力は高く、運動神経はよい方だと言えるだろう。けれども、魔力というのはエネルギーの塊ともいえる。魔力が強く、その質が良ければ良いほど、密度が大きいのだ。そして、密度が大きいとそれに比例するように、一定の重さが生じてしまうのである。
 無論、魔力が強ければ強いほど、扱いきれない程に重い訳ではない。自身の出力する魔力というのを、自分が望む重さにまで加減をすればよいのだ。ただ、カイネはどれほどにコントロールしようとも、あまりにも魔力が強すぎるため、魔法を使うのに必要な魔力の最低出力の数値が他の人よりも勝手に高くなってしまうのだ。少し魔法を使うだけでも、通常の者が魔法を使うときの何倍もの魔力が放たれてしまうのである。
 そのために、カイネは魔力がどれほどに強くともどうしても攻撃魔法というのが苦手であった。魔法を攻撃に転じて使うとき、最低限の出力まで抑えた状態でも、力が強いゆえにカイネの魔法は重く、その重さが所以となり、攻撃の動作に必要となってくる腕力や脚力というのが追い付かないのだ。

 ……シールドもここまで薄くして纏わせたら相手にもすぐにはバレないはず。一度目の攻撃で致命傷を負うのは防げるかもしれない。防いですぐに魔法玉で手を振りほどくだけの一撃さえいれられたら……っ。

「……ほう、噂に違わず流石だな。上質な防御魔法を応用で変形するとは。それもこんなに薄く。……あと、手に蓄えている物騒な魔力を戻せ。可哀そうだがあなたは魔力が強すぎる。よく隠せてはいるが、他の者に通用するものも、我々にはすぐにわかる。……鼻が利くのでね」

 ……ダメ。この人は全てが強すぎる。

 カイネは小さく息を飲んだ。身体に纏わせた防御魔法の膜も、その次の一手もバレてしまっているのならばもはや意味はなかった。不意打ちを狙ってなんとか間合いを作り時間を稼ぐのが目的であったのだから。
 けれど、それが分かっていたとしても、みすみす反撃を諦め、防御膜はもちろん、手に蓄えている魔力を引っ込めることなどできはしなかった。どれほど劣勢であっても、丸腰に自らなる者はいないだろう。
 カイネの額には冷や汗が滲んでいる。どうにか打破する術はないかと、カイネは首を動かさずに視線だけを動かした。
 けれども、暗闇の中で視界に入るのも、目に止まるのも、顔の横で揺れる青い炎だけだった。

 この炎、まるで熱を感じない。むしろ……。

「いいか? その手に蓄えているものを、戻すんだ」

 低く、今度は有無を言わさぬ形で男は言い切った。
 カイネは一拍考えたのち、防御膜はそのままに、手に蓄えていた魔力を戻し始める。戻しだしたとさえ伝わればいいので、本当はすぐに引っ込めることもできるが、あえて、ゆっくりと戻すことで相手の様子を覗うことにしたのだ。

 私を殺すことが目的ならばとっくに実行しているはず。誘拐……でもなさそう。ならば下手に刺激するよりも、おおよそ従って会話で時間を稼ぐしかない。

「わかりました。ですが、女性の部屋へと勝手に入られるのはいかがなものかと。誰だって警戒するのは当然のことだと思われません? ……それともまさか、お部屋をお間違いですか? ここは私、ムー国カイネが用意頂いた控え室にございますよ、マルアニア国のルーマー王」
「はは、はははははは」

 カイネが言い当てると、ルーマー王が低い声のままに、不気味に笑い出した。けれど、彼は一切の気を緩めることはないのだろう。カイネの背後でその笑いに合わせて肩が揺らしているのを感じるのに、目の前の首に回された腕はまるでぴくりとも動かないのだ。

「……私も魔力を抑えました。ルーマー王もこの手を離してくださいませんか?」
「はは、ははははは。声だけで私がそうだと? あなたに婚姻の申し入れが殺到するのがよくわかるよ、カイネ王女」
「私を捕らえれば我が国ムーが思いのままに動くとお思いでしたら、お引き取りを」
「まさか。宇宙一と謳われるムーの姫という肩書きも、あなたのこの美しさを目の前にすれば何てことはない。容姿も、力も、賢さも……何よりこの凛とした振舞い。全てが……美しい。むしろ、多くの男があなたがムーの姫であることを悔やんでいただろう。受け入れられるかどうか以前に、あなたに婚姻の申し入れをするだけで骨が折れる。みんな、ダメ元で婚姻を申し込むのだろう。ムーに断れない婚姻の申し出をできる国など……アヴァロンか……我が国、マルアニアくらいだからね」

 カイネは反射的に振り向きそうになるも、それを抑え、ただ息を飲むにとどめた。命の危険を感じる以上に、嫌な胸騒ぎがし、身体中を血が巡っていく。
 けれど、ここで言い淀んではいけなかった。相手の言葉に飲み込まれ、心をかき乱され、本来の目的を忘れてはならないのだ。

 ネロが来てくれるまで……時間を稼がなくっちゃ。

「まさかルーマー王はご心配なさってくださっているのですか? ご安心くださいまし。私はアヴァロンから圧力を受けて婚姻の申し出を無理矢理に受け入れた訳ではございませんわ? ちゃんと、いつも自分の意思で全てを決めます。今までも、これからも」

 けれど、この程度で引き下がってくれるのならば、このような強引な手は使わないのだろう。ルーマー王は、依然、青い炎を掌に揺らしながらカイネの首に回した腕を解除してくれる気配はない。それどころか、空いた方の手で、カイネの髪をすき、そのひと房を掴むと、何の断りもなく髪に口づけを落とすのだ。

「気安くお手を触れないでください」
「我が国も、ムーに婚姻の申し入れをしている」
「ムーに、でございますか? ならば正式に国からお断りのご連絡がいくかと思いますわ」
「ははは、これは失礼。先ほど言っただろう? あなたの魅力はムーの姫であることではない。ムーの姫だから手に入れがたいだけなのだ。私以外の……言うならば我が国以外との大国同士の婚姻は聞き入れがたい。よりにもよって、アヴァロンとムーだなんて」
「……私がムーの姫であることに関係ないのであれば、私が誰と結婚しようが、大国同士の結婚であろうが、問題ないのでは? 大国は何もアヴァロンとムーだけではありませんし」
「とぼけるのが上手いな……あなたがいかに魅力かを伝えるための言葉だったが、ややこしかったかね。二つ問題があるのだ。まずは、美しいあなたが他の者と婚姻することが私は受け入れがたい。それと別で、ムーとアヴァロンの王族が婚姻関係を結ぶことも容認できない。……結果、あなたがアヴァロンの王子と結婚することに反対だ、ということだ」
「……………」

 

to be continued……

 

世界の子どもシリーズNo.23

その手に触れられなくてもep15

 

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