秘密の地下鉄時刻表

秘密の地下鉄時刻表―世界の子どもシリーズ―No.34_過去編~その手に触れられなくてもSecretepχ2①

2026年1月2日

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竜の宝石–Kaine no namida–前編①

 

―二度目の波到達後、ムー国―

 街はまるでいつも通りに見えるのに、どこか活気に欠けるものがあった。テレシオもまた気が気ではなく、少しでも情報を得ようと王宮内をウロウロとしてみたが、何か起こったらしい、空気が変わったのだ。魔法の使えないテレシオでさえ、その異変に気付いたのだから、こういった氣の流れに敏感なムーの国民の多くは何か勘づいているだろう。
 もしくは、あの王のことだ。あえて、この氣の流れで国民に緊迫した状態を漠然とながらも伝えているといってもおかしくはなかった。
 命がけで星を詠み、言うなれば国を守り、一度目の戦争の危機を防いだ姫への国民の忠誠心はとても強かった。さらに、ムー国に戻ってから、その姫ときたら目覚めているトキは王宮よりも街で過ごす時間の方が多いものだから、ひとたび不在となれば、賑やかさも華やかさも欠けるといったらないのだ。その姫が不在中に起きた異変は、誰もの心配と不安感を募らせ、むしろいつも通りに過ごそうとする方が難しかった。

「ねぇ、テレシオ様。どうして今日は歌わないの?」
「そうだよー、せっかく琵琶持ってるのに」

 そして、テレシオはというと、王宮前の街を見渡せる噴水広場のど真ん中に腰かけ、子どもたちに囲まれているのである。
 異変が起こってすぐのことだ、情報を集めるより前に、王族が緊急で招集され、その他の者は大臣クラス以外は王宮からの退出を命じられてしまったのだ。さらに言うと、琵琶は全然、弾けない。まだまだ練習段階のもの。音楽の旅の途中で入手したまではいいが、テレシオが習得するには楽譜や資料が少ない楽器なのである。なぜその琵琶を持っているのかというと、急な退出命令で、慌てていたがために、きっと昨夜練習していたからだろう、手前にあった運びやすい楽器を適当に選んできたからである。
 何となく、子どもたちに見せるために琵琶の音をそれっぽく奏でることはできるのだが、曲を演奏するというのはまだ技術的に難しい。ましてや歌いながら弾くなどできるはずがなかった。

「うーん、今日はそんな気分じゃないんだよぉ」
「何言ってるんだよぉ。歌うのが仕事だろぉ」
「……言ったなぁ? いいか、仕事は仕事でも、私はカイネの為に歌うんだ。カイネがいないんだから、仕事は無理にしなくていいんだ」
「なんだ、カイネ様がおられないから拗ねてるだけじゃないかぁ」
「テレシオ様なっさけないんだー。こういうの、男が廃るって言うんだぜ。好きな女が近くにいなくてもちゃんと仕事した方がいいって」
「いやいや、ちょっと意味が違うだろ。ていうか、私、女だから」

 子どもたちとやいのやいのと、はぐらかしながら会話をし、テレシオは気を紛らわせる。すると、大きな爆発音と共に、上空でいくつもの船が現れたのだ。そのうちの一つは、ムーからの貨物宙船で、その周辺をいくつもの見知らぬ船が囲んでいるのである。

「きゃああああ」

 誰かの悲鳴を皮切りに、街は騒然と、それこそいつも通りの日常が損なわれてしまったのである。見慣れないどす黒い煙と、機械類が焼ける嫌な匂い。一方的にムーの貨物宙船が袋叩きにあっているようで、それらはひどくなる一方だった。

「お前たち、早く学校の方へ」
「……はい!」

 テレシオは子どもたちと避難所へと走り出す中、その視界に突如現れたムーの巨大宙船が防戦に入るのを捉えた。周りは王宮が動いたと思っているようだが、少しばかりムーの王宮内をウロウロとできるテレシオにはすぐさまそれが特別な船であることがわかった。

 あれは、カイネの会議参加に合わせてサンムーンに向かっていた宙船だ。どうしてこのタイミングでここへと帰ってくる!?
 まだ帰還は一週間以上先の予定だったはずだ!

「テレシオ様っ! お待ちしておりました」
「じいや!?」
「見ての通り、事態が急変しました。急ぎ、ミューク国へとお連れ致します」
「カイネは!? 一体何があった!?」

 学校へついてすぐ、門のところで声をかけてきたのは、王とカイネのことを一番に知るといってもよい、王宮仕え最年長の老人であった。じいやで知られており、あえてなのだろうか、王とじいやの家族以外は誰もその名を知らない。カイネが子どもの頃より懐いていた王の側仕えのひとりだったようで、今は王の側仕えこそ引退しているが、信頼の厚い彼は、未だ王宮での重要な仕事を任されることが多い。そのじいやが直々にテレシオを迎えに来たということは、カイネに何かあったのだ。

「話はあとです。子どもたちはここにおります兵が引き受けます」
「……分かった、だけど……」

 すると、今度は王宮の方から激しい爆発音と共に、不気味な煙が上がり始めるのだ。方向的に攻撃されているのは、王宮の中でも時計盤がある広間の辺りだった。

「嫌な予感がするっ! まだミューク国には帰らない方がいい気がするんだ。これ、預かってて!」
「任せといて! だからちゃんと男らしく、カイネ様守ってきてよ!」
「よし、琵琶は任せた。カイネは任された! 私、女だけどね!」
「ああ、テレシオ様。なりませぬ。そちらは危険です!」

 子どもたちに琵琶を預け、テレシオはじいやが指す方向とは真逆、退出を命じられた王宮の方へと駆け出していく。すると、それに反応するかのように、肌身離さず首にかけていた次元メダルが淡く光りを放つのだ。

「くそっ、カイネっ!」

 テレシオは決して武術に長けている訳でなければ、魔法が使える訳でもない。そんな自分が襲撃の場へ行くなどお門違いもいいところだと頭では分かっているはずなのに、テレシオの足は止まることなく、時計盤のある広間を目指し続けた。
 すると、王宮に入ってすぐ、一人の虚ろな目をした大男が、巨大な斧を振り回しながらこちらへと向かってきたのである。

「うおぁあっ!?」

 躊躇うことなく振りかざされた斧は、テレシオの足元で、大理石で造られた頑丈な床を破壊していった。その武器が斧であり、大きく振りかざされた一撃であったから避けられただけであって、これが素早く振り下ろされた剣であればひとたまりもなかっただろう。

「うっわ~、本当にやばいやつ。やばいやばいやばい」

 そして、これが斧であっても大振りの攻撃であったとしても、一度は避けられたとして二度目以降は、テレシオにはもはや運任せなのである。
 ただ相手はこちらの事情など知らなければ、そもそもそんな慈悲など持ち合わせていないからこそ、こんな風に攻撃しているのだ。容赦なく次の攻撃を仕掛けてくるのである。

「げっ、もう終わりじゃん、やばいじゃん」

 向かい合って攻防するのは無理だと判断したテレシオは、全速力で走り出すより他なかった。すると、ひゅっと物騒な音が背後でしたかと思うと、大きく大理石が割られ、その振動が足に伝ってくるのである。

 これはもう、正面から次の敵に遭遇したら本当に終わるやつ。って、いるよぉ。前方からもなんか物騒な音がするよぉ。

 進むか、踵を返して斧ならば避けられる可能性があると運に賭けるか。
 テレシオは悩むも、どちらも危険ならば目的地に近づく方がいいと判断し、より一層走るスピードを上げていく。
 すると、案の定、カーブを曲がったところで物騒な音の所以と鉢合わせてしまうのである。

「とけ……い……ばん……こわ……せ。こわ……せ」

 ただ、敵だとしてもどうにも、様子がおかしいのである。テレシオが撒いたと信じたくて仕方がない先ほどの大男も、今しがた求めてもいない出会いを遂げた目の前の鉄球を振り回している男も、共通して目が虚ろで、ぼそぼそと何かを呟いているのだ。頭脳派ではないだろうし、さらに言うならば、テレシオでも目で追えるのだから、スピード派でもないのだろう。

 頭は私の方が上だろう。スピードも私の方が上だから逃げられたんだ。それならまあ、何とか……ただなぁ、威力はやばいよなぁ。当たったら終わりだよなぁ。いやぁ、やっぱ何とかならないよなぁ。やばいよなぁ。

 ここまでくれば、時計盤のある広間への扉はすぐそこだ。鉄球を振り回す男の真ん前なのである。テレシオが足を止めると、特に音に気付いた訳ではないだろうに、男がこちらへ振り返ったのだ。流石のテレシオも息をのみ、一歩後退る。すると、こういうときは大抵、そういうものなのだ。背後からも物騒な音が再び響き出すのである。
 男がずりずりと鉄球を引きずる音がひどく不快で、後ろではむやみやたらと斧を振り回しているのだろう、刃で風を切る音とそこに石が割れる音が重なり、鉄球のそれと混じり合うのだ。
すると、焦りや恐怖を置いて、音が全ての感情をひとつにまとめてくれるのである。

「お前たちの音は不快だ。破壊の音には美しさが宿らないんだよ。ここはお前たちの城じゃないだろうが。人の物、壊すなよ! 子どもでも分かることだろ!?」

 テレシオは今、数メートルを耐え抜けば、時計盤が確認できる位置にいるのだ。腹を括り、後方を捨て、追いつかれるよりも前に、鉄球を避けることに賭けることに決める。
 それからのことは考えてはいないが、テレシオはなぜか時計盤まで行けばどうにかなるような気がしていた。逆に、どうにかするためにも、どうしても時計盤を確認しなければならない気がするのである。

「とけい……ば……ん。こわ……せ。こわ……せ」

 よし、戦おうとするな。音で避けろ。音に集中するんだ。……ん?

 男が鉄球を振り上げた瞬間、男の方ではなく扉の向こうから殺気と危険な予兆の音を拾い、テレシオは反射的に後方へと走り戻る。
 すると、やはり遭遇するのは斧を振り上げたところの男で、テレシオの頭上に避けきれそうにない物騒な影が浮かび上がるのだ。

 ああ、カイネっ……!

 

 

2026.1.3 20:26 open

秘密の地下鉄時刻表―世界の子どもシリーズ―No.34➁

 

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秘密の地下鉄時刻表―世界の子どもシリーズ―更新日
第1・第3土曜日

先読みの詳細は「秘密の地下鉄時刻表―世界の子どもシリーズ―星を詠む」より

 

 

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