秘密の地下鉄時刻表

秘密の地下鉄時刻表―世界の子どもシリーズ―No.37_現代編~扉の試験episode2①~

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秘密の地下鉄時刻表―世界の子どもシリーズ―No.37_現代編~扉の試験episode2①~

 

 その駅をキョロキョロと覗き込んでみたが、列車から降りてきた人というのはいないらしい。辺りを見渡しても、田んぼが続くだけで、やはり人の姿自体が見当たらないのである。
 さらに言えば、店や建物があれば人がいる可能性もあるが、そういったものも見当たらないのだ。

「どうしよう、空間移動の詠唱、失敗しちゃったんだ……」

 エミリーは力なく、その場にしゃがみ込み、項垂れた。ぼんやりと目の前に書かれている大きな文字を見つめながら推測を重ねていく。

 この文字……漢字だわ。それに漢字の上にひらがなが小さく書かれている。恐らくだけれども、日本なんじゃないかしら。

 さらによく観察すると、この看板らしきものは、駅そのものと比べて真新しくみえる。どうやら看板だけが作り直されているようなのだ。

 この駅の感じだと……人の利用が多くはないし、全くない訳でもないということかしら。本当に、どうしよう。

 エミリーは漢字を読むことはできない。知識がなければ、あらかじめ身体の中身も英語圏に対応するように魔法をかけているからだ。
 けれども、日本の有名な土地というのは、ある種の記号のように漢字表記でもその地名が分かる。

「……知らない漢字」

 ただ、ここに記載されている漢字は、全く知らないものであった。となれば、ここは日本は日本でも、よく話題にあがるような地域ではないということだろう。
 実技が得意な何人かの同級生は日本へ向かうと言っていた。けれど、その際にあがる地名は東京がほとんどだ。そして、時折、大阪。あとは、古都に憧れる者たちが京都や奈良へと行く。

 本当に、ここは、どこ――……?
 ああ、せめて変装魔法の時に日本人になっていれば、多少は言語も分かって、見た目だってすぐに馴染めたかもしれないのに。

 ドクドクと心臓が嫌な鼓動を鳴らし、焦りからか、じんわりと全身に汗を感じていた。手どころか足までも震えだし、しゃがみ込んでいるからだろう、震える振動が全身に伝わっていくのだ。

 もう終わりだわ。どうしようかしら。違う場所に繋がってしまったし、その先が日本だなんて。日本なんてものすごく遠いし、それに――……。

「日本?」

 そうして改めて、エミリーは今、自分が日本にいることを冷静に認識し始めるのである。
 地下世界には地下世界の地形があり、地上世界には地上世界の地形があるのだが、秘密裏に繋がるこの二つの世界そのものにも位置関係が存在するのだ。例えば、秘密の地下鉄で繋がっているロンドンは、エミリーがいる地下世界、ブライトアースから一番近いといっていい。
 けれども逆に、地上世界でいう日本とロンドンは距離的にも決して近いとは言えないし、位置的にもブライトアースからかなり離れていると言える。だからだろう、余程魔力が強く、空間移動の詠唱が得意な者以外は、なかなか試験の地に日本は選ばないし、むしろ、選べないのだ。扉経由では辿り着くのが難しいとされているがために。

「日本――……」

 エミリーは再び、あえてこの国の名を声に出して呟いてみる。

 私、今、日本にいるんだわ。あの、日本に。
 日本を選ぶ人が少ないのは、人気がないからじゃない。本当に、扉を繋ぐのが難しいエリアだから。そうでなければ、むしろ日本は一番といっても良いくらいに、人気の国!

「大魔法使い、ウィルが暮らした場所」

 かつて、地下世界の地が割れた刻、ブライトアースには太陽の光が届かなくなった。けれど月の助言のもと、地上世界から太陽の光をもってくることに成功したのだ。ロンドンへと繋がる秘密の地下鉄を敷くことで。
 そして、エミリーたち魔法族はウィル指導のもと、昼を生きられるように星詠みを捨てたのである。正確には、一部の理を残して、新しい星詠みをしなくなった。
 その刻からエミリーたちは魔法族は魔法族でも、新星の魔法使いと名乗るようになった。そうして、長い歳月が過ぎ去り、ウィルの言いつけを守り続けたエミリーたち新星の魔法使いは、魔力と使える魔法の種類は減少の一途を辿ったが、代わりにある程度の日の光の耐性を得ていったのだ。本来、魔法族は日の光に耐性がない、夜を生きる種族であったにも関わらず。
 ブラウン家は、秘密の地下鉄の開発者、大魔法使いウィルの一族であり、エミリーはその子孫なのだ。
 一族のみんなが、種族全体で魔力や使える魔法の種類が減少の一途を辿るなか、今の時代に至っても魔力がかなり強かった。ブラウン家の血筋の多くが、未だに星詠みをもすることができるくらいに。
 無論、星詠みをするといっても、日の光を浴びるのに差支えのない程度に留める上限を守ってのことである。
 今の時代においても魔力が強いことは、星詠みができることは、一族の誇りであると同時に、一種の使命のように一族で受け継がれてきた。
 けれども、エミリーは一人、違ったのだ。ブラウン家の生まれであるのに魔力は弱く、実技は苦手。星詠みなんて、もっての外であった。
 日の光にも、特に地上世界の太陽が直接となれば、そこまで耐性はない。日常生活に差支えはないけれど、もともとの魔力が弱いからこそ耐えうるだけで、決して身体が優れて丈夫な訳でもなかったからだ。
 日の光への耐性というのも不確かな情報が多く、新星の魔法使いとなっても尚、完全なる解明は誰もできてはいない。
 ただ、かつての魔法族というのは日の光に耐性がなかったのは事実で、ブライトアースでも魔力が強い者が星を詠もうとすればするほど、日の耐性が弱くなってしまう傾向にあった。
 けれども魔法を使う上で、そもそも身体の造りというのだろうか、ある程度の身体能力というのが、必須となってくるのだ。魔力が強い者は、魔法がよく使えるようにだろう、必然的に身体も丈夫に生まれてくる者が多く、星詠みの量を調整さえすれば、ブライトアース生まれの魔法族は日の光の耐性もかなりつけることができていた。

 中途半端なエミリーは、どれもが該当せず突出したものがないのである。付きまとうのはブラウン家という、血筋だけ。
 それはそれに誇れる何かを持ち合わせていなければ、特技でも何でもなく、むしろエミリーにとってブラウンの姓は、不釣り合いな隠しきれない血統書のようなものとなっていたのだ。

「……こんな私にも、何か、できるかもしれない」

 今、私は日本にいる。かつて、一族の誇り、大魔法使いウィルが暮らした場所。ブラウン家がこぞって行きたがる、日本にいるんだわ!

 記録では、ウィルは人になり、最初に秘密の地下鉄で地上世界へと来た魔法使いだとされているのだ。定かではないが、言い伝えではそのまま地上世界の日本へと向かい、そこに永住したとされている。
 近年はそもそも秘密の地下鉄自体が運行されなくなってしまい、この扉の試験でしか、地上世界を訪れることは出来なくなっていた。
 ただ、扉からはかなり実技に優れた生徒しか、日本を訪れることがかなわないのだ。だからこそ、エミリーは日本という地を選択肢にさえ入れていなかったのだが、思いがけず、千載一遇のチャンスを得たのである。

 エミリーは改めて、違う意味で胸を高鳴らせていく。

 みんなが羨む、日本! 詠唱は失敗してしまったけれど、だけど、上手くいけば、なかなか訪れることの出来ない日本の物を、持ち帰ることができる!

「私も、ブラウン家の一員に、なれるかも」

 

to be continued……

 

✶✵✷

 

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秘密の地下鉄時刻表

このepisodeの該当巻は『Vol.8』になります!

 

※HPは毎週土曜日、朝10時更新中🐚🌼🤖

秘密の地下鉄時刻表―世界の子どもシリーズ―更新日
第1・第3土曜日

先読みの詳細は「秘密の地下鉄時刻表―世界の子どもシリーズ―星を詠む」より

 

 

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