
ジルクは生い茂る花々や草木の間を飛びながら、じっと考える。この辺りは都心部にも関わらず、まだ自然が残っている。海も山もある土地だ。そして、さらにこの町には不思議な力を感じる。まるで、どこかで魔力が残っているかのような。
だからこそ、ジルクはこの町に目星をつけた。ここならば、扉が見つかるかもしれないと。
先ほど見かけた魔法茶屋という店もそうだ。扉の気配とは違うものの、何か他とは違うエネルギーを感じたのである。それが気になり探っていると、その裏に森へと続く一本の緩やかな坂道を見つけたのである。
その一本の道を沿うように森の中を進み続け、ようやく一軒の家へと辿り着いた。その家は温かな木で造られており、その周りには多くの植物が植えられ、風が吹く度にそれらが優しく揺れる。その揺れに呼応するかのように森の木々に生い茂る葉が動き、花々が躍る。そして、それを喜ぶかのように鳥たちが歌うのだ。
「よい。私の潜伏先はここにするとしよう」
小さく頷いて、ジルクはそう呟いた。それに対し、心配そうな声で黙って後ろをついてきていた爺やが言う。
「ジルク様、どうか今からでもお考え直しください。私めが毎夜、他の者と交互にこの辺りを捜索致します」
今にも泣きそうな、自分よりも何百歳も年上の爺やに向けて、ジルクはゆるりと微笑む。
「いや、これは私とシルヴィの問題なのだ。それに、誰かが地上世界に残り導かねばならない。それは元々、私の役目であった」
「ですが……!」
「爺やよ、本当に心から感謝する。だが、もう地上世界にはこれだけの自然しか残っていない。誰も耐えられないだろう。そして逆を言えば、これだけの自然が残っていれば、私であれば最後の者が移るのを確認するまで耐えられよう」
「それでも、お身体に負担がかかることはお変わりありません」
「大丈夫だ。だから、わざわざこのサイズで海を渡ってきたのだ」
「……爺は心配で仕方がありません。ですが、ご挨拶が遅れてしまいましたな。よう、海を渡られました。見事に七つの海域を越え、地上世界へと辿りつかれたこと、心よりお慶び申し上げます」
「……ありがとう。水の精と、リンディと鯨たちに感謝せねばならぬな」
爺やがまた目頭に涙を溜めて、寂し気にほほ笑む。
「こんなに立派に成人なさったのに、運命とは皮肉なものです」
「大丈夫だ。それに、このサイズで保つのが精一杯であることを考えると、シルヴィもあまり自然の残っている所からは離れられないだろう。すぐに見つけて、サンムーンへと向かわせよう」
「……よろしくお願い申し上げます」
そう話しているうちに、爺やの姿が少しずつ薄くなっていく。
「ああ、私と入れ替わりだった迷い人は、もうすぐ目覚めるようです」
「そのようだな。爺やはそのまま、サンムーンへと向かわれよ」
「入れ替わることのできる、昼間に寝てくれる貴重な人間だったのですが」
「そうか。だが、迷いがないのは良いことではないか」
「そうですね。きっと、この者は何か生きる意味をみつけたのでしょう」
いつものように目が完全になくなってしまうくらいに目を細めて笑う爺やを見て、ジルクは微笑んだ後、静かに片足をたて、跪いて正式な礼の形を取る。
「……ジ、ジルク様!?」
そして、真剣な眼差しで、言う。
「父と母は精霊郷に残る。そして、私は地上世界に……。本来サンムーンへと向かうはずだった妹が未だ見つかっていない状況。しばらく、向こうで導くはずの我ら一族は不在となる。水や火の精たちもおられるので問題ないと思うが、私たちの分までよろしく頼む」
「ジルク様……どうか、またサンムーンで会いましょう」
消えかけの手で、ジルクの手をぎゅっと握りしめ、爺やは一筋の涙を零してあちらの世界へと行った。
迷い人が、夢から目覚めたのだろう。
かつて、大きな悲劇が起こった時、精霊郷は魔法族についた。そして、魔法使いたちと手を取り合い、ブライトアースで生きてきた。けれど、それも、もう出来なくなってしまったのだ。
「太陽の光……」
ジルクは空を見上げ、真っ青な空に眩く輝く太陽をみる。といっても、ほんの数秒程。
「これだけの日差しは、懐かしい。子どもの頃以来だ」
地下世界の太陽の光の届かないブライトアースでは、秘密の地下鉄を敷き、地上世界から太陽の光をもってきて昼を過ごしていた。
けれども、地上世界で起こった数々の戦争を機に、徐々に地下鉄は運行されなくなっていき、とうとう地上世界からもってきていた日の光も失われようとしていた。
精霊郷の妖精や精霊たちは自然と共に生きる。故に、太陽の光がなければ、どれだけ魔法族と手を取りたくとも、一緒には生きてはいけないのだ。
だからこそ、苦渋の選択の末、精霊郷は大きな決断をした。ブライトアースから、サンムーンへと妖精や精霊たちを避難させるという、決断を。
けれどもそれは、完全なる移住ではない。一時的な避難だ。生きるための。
月だけの世界となってしまうブライトアースではどうしたって、妖精や精霊たちは生きることができないのだ。けれども、自分たちの力の源であり、古郷でもある精霊郷自体はブライトアースへと残すこととなった。
精霊郷をあちらへと残すのは、自分たちの意思を曲げない為であり、意地でもあり、誇りでもある。
皆が、いつの日か、トキと刻が分かつ時がくることを信じているのだ。
「しかし、だいぶ慣れたと思ったがやはり小さいと不便だな」
爺やと別れてからブラリとこの辺りの森の奥の方へと進んでみたが、かなりの体力を消耗してしまった。もう太陽は傾き始め、橙色の光が降り注ぎはじめている。
なるべく、明るいうちに今日の寝床を確保しておきたい。
そして、いくら自然が多い方がいいと言えど、あまり森の奥に住みすぎるのも情報収集に差支えがある。
「外灯からはなるべく離れすぎない位置でよい木を見つけなければ」
そう呟くと、ジルクはまた道沿いに飛び始めた。
理の違うこの地上世界では何人も魔法を使うことはできない。
けれど、妖精や精霊は別だ。幸いにも地上世界には精霊郷ほどでなくとも、自然がある。妖精や精霊たちは自然と表裏一体。理が違うため、自分たちの姿は人に見えることはないが、自然がある場所で、それらの力を取り入れることができれば、魔法に近しい力を使うことができる。
そして、それらの力を用いて、妖精たちは地上世界の自然のある場所に限り、人目を忍んで遊びに来ることが出来た。美しい自然が多くあった、秘密の地下鉄が敷かれる遥か昔は。
けれど、昨今、地上世界の自然は消滅しつつある。此度のサンムーンへの移動も、昔のように自然の力を用いて移動しようという案もでたが、残念ながら一時的であってもそこまでの綺麗な自然が地上世界には残っていなかったのだ。
そして秘密の地下鉄の運行は止まり、扉は行方不明。
そこで妖精たちは迷い人の力を借りることにしたのである。悩める人間、迷い人と夢の中で入れ替わることで、妖精たちは地上世界へと訪れることができる。
人間たちが寝静まる頃、妖精たちは秘密裏に動き回る。そして、人間たちは不思議な夢をみて、妖精の世界を垣間見る。それが、本当に不思議な力で繋がっているとは知らずに。
多くの妖精が人間たちと入れ替わり、ブライトアースから一度地上世界へと赴いた後、また人間が目を覚ます頃合いに、入れ替わりサンムーンへと戻っていく。
しかし、この方法では人間が眠っている間しか地上世界を過ごすことができない。
だが、ジルクは妖精たちを導く者。最後の者が完全にサンムーンへと移ったと確認できるまで、地上世界へと留まり、見守らねばならない。一時的な迷い人との入れ替えではそれができない。
そこでジルクは地下鉄でも扉でもない、残る唯一の地上への道、海を越えてきたのである。
海を越えるのは至難の業。特に、水の精霊でもない限り。
それでも、ジルクは責任感だけで、ここまでやってきた。
まずは精霊郷で皆を誘導し、命がけで海を越え、今度は地上世界へと留まる。
「シルヴィ……どこにいるんだ」
こちらでも皆を導き、失踪した双子の妹を探しながら。
❁❁❁❁❁
ジルクがこの辺りの木にしようと、寝床になり得る場所を絞り始めた頃、一匹に猫と遭遇した。
円らなアーモンド型の瞳は美しいエメラルドグリーンで、何かを見定めるようにこちらを見ていた。
「ほう。そなたは私の姿が見えるのか」
勘の鋭い動物たちは、稀にジルクたち妖精の姿に気が付いたり、風を舞う精霊たちを感じ取ったりすることがある。特に、かつて魔法族の使い魔であった猫はこういうのに敏感だ。
「そなたはかつて地上世界へとやってきた魔法族の使い魔の子孫なのかもしれぬな。すまないがしばらく、この辺りに住まわせてもらう」
そう言いながら、ジルクはゆっくりとお辞儀をし、その猫へと近づいていく。
いくら人間の目には見えないからといって、自然の力を取り込めるからといって、本来の姿で地上世界を過ごすのは、身体がもたない。
妖精たちはブライトアースでは人と同じような大きさを保てるが、理の違うこちらの世界ではいくら自然の力を取り入れているといっても、向こう程の力は保てない。そこで皆、妖精たちは取り入れる自然の力の量を調整して、身体のサイズを小さくすることで、地上世界を過ごしている。
今、目の前にいる猫は、ジルクの何倍もの大きさをしている。最低限の力しか使えない今、例え猫であったとしても、心を通わせることができなければ、ジルクたち妖精にとっては脅威となろう。
けれど、目の前の猫は襲うどころか、ジルクの反応を待っているのだ。ジルクがそっとその額に触れると、その瞬間に猫は目を瞑り、顎を地面へとつけ、身体を伏せる。
そして、再び目を開くと、上目遣いでジルクを見上げてきた。
「背にのせてくれるのか? 有難い。無理に飛ぶよりも、断然、力を温存できる」
そっとその背に乗ると、猫は勢いよく走り出した。その先はまさに、目の前にある一軒の木の家であった。
「なるほど。あそこがそなたの家なのだな。この近くに住まわせてもらうのだ。ぜひ、どのような人が住んでいるのか知っておきたい。案内してくれるか?」
猫はその問いに応える代わりに、ぴょんと大きく跳ねた。それがまた可笑しくて、ジルクは小さく笑みを漏らす。
「はは、そなたとは上手くやっていけそうだ。よろしく頼む」
そうして、猫は木の家の森側にある窓の細い隙間から、家の中へとスルリと潜り込んだ。
「そなた、なかなか凄いな。さてはいつも家から抜け出しているな?」
そう微笑んだ時、頭上で何かが動いた。
「ジータ? 戻ってきたの?」
その声に誘われるかのように振り返った瞬間に、今、ジルクが背に乗っている猫よりももっとその色味を深くしたような、エメラルドグリーンの瞳と目が合った。
「人……」
こんなに近くで見たのは初めてのことだった。いくら姿が見えないとはいえ、焦りにも似たような感覚がジルクを襲う。
普段ならばこのような状況に陥れば、そっと飛んでこの場を去るだろう。
それなのに、あの植物のように優しい瞳と、その奥に秘められた強い意志のようなものがジルクを虜にして、そこから動けなくしてしまったのだ。
「……妖精?」
しかし、その瞳の印象的な少女は思いがけず、妖精、という言葉を口にしたのだ。
「…………っつ」
ジルクは思わず、猫の背から飛び降り、窓ぶちの所にしゃがみこんで構える。けれども決して、彼女から視線はそらさずに。
凄まじい緊張がジルクの全身を駆けめぐる。
先ほどの声は空耳だろうか。目の前の少女は自分を捕らえるのか、はたまた騒ぐのか、恐れて攻撃をするのか。
けれど、焦るジルクを前に少女はフワリと微笑んだ。
「パパのおとぎ話そのままね。嬉しい、本当にいるんだ」
その純粋で無邪気な笑みは、ジルクの警戒心を薄れさせた。ジルクはそのまま立ち上がり、少女の様子をじっと伺う。
少女はそのまま、ぽすりとその華奢な背を後ろにある半分起こした状態のベッドに預けて、今度は軽く息をついて、言う。まるで、自分に言い聞かせるかのように、小さく、独り言を。
「私、そろそろなのかしら」
少女は特にジルクに何をするでもなく、そのまま窓の外に視線を向けて、そのエメラルドグリーンの瞳に花々や草木を映し出す。 その姿をみて、ジルクは瞬時に少女から零れ出た言葉の意味を察する。
その横顔は先ほどの無邪気な笑顔から一転、とても儚げで、どこか大人びてみえた。さらに先ほどあんな言葉を発したとは思えないほどにどこか凛ともしていて、その在り方に何故かひどく心を奪われ、とても美しいと思えた。
ジータと呼ばれていた猫が「ニャー」と小さく鳴いて、少女に訴えかける。
「ああ、ごめんごめん。おやつをあげるわね」
そう言って、ベッドの脇から何かを取り出して、ジータに渡していた。ジータをとても愛しそうに見つめながら、その背を撫でる彼女に目が釘付けになる。
もう一度、視線を合わせたいと、衝動的に思い、また一歩近づく。すると、徐に彼女が長いまつ毛を伏せながら、再び顔をこちらに向ける。
人間の目に自分たち妖精の姿は映らないはずなのに、例え映るとしても見られない方がいいはずなのに、ジルクは強く、その少女の瞳に自分の姿を映してほしいと、そう願ってしまった。
だからだろう。気が付いたら、声が出ていたのだ。
「そなたは、私の姿がみえるのか?」
すると、再び少女はジルクをみて、ふっとほほ笑んだ。
「そうみたい」
その瞬間に風が吹き、白いレースのカーテンがフワリと少女の姿を隠す。
「私が怖くはないのか?」
また風が吹き、ジルクと少女を遮っていたカーテンがさらに揺れ、褐色がかったその肌と、漆黒の胸元あたりまである編み込まれた髪が再び姿を現す。
「どうして? こんなに綺麗なのに、怖いなんて思うはずないわ」
風が止み、完全にジルクの前に少女の顔が映し出される。すっきりとした鼻筋に、長いまつ毛、少し気の強そうな眉に、深いエメラルドグリーンの瞳。少女が、ジルクを見つめがら、微笑んでいる。
「綺麗?」
あまり男の自分を表現するのに使われる言葉ではなく、そのまま聞き返す。
少女が、微笑んだまま、静かに頷いた。
「ブロンドの長い髪が、夕日にあたって太陽みたい。深くて蒼い瞳が、空みたい。私には眩しいはずなのに、優しいから眩しくない。とても綺麗」
息が、詰まりそうになった。そして、少女が今度は、少し眉を上げて、面白そうに言う。
「ねぇ、逃げなくていいの?」
「は?」
「だって、最初、逃げたそうだったじゃない」
図星を付かれて、なんだか急に恥ずかしくなってくる。普段なら導く者として何でも顔には出さず、上手く交わせるのに、気が付けばまた、声が出ていた。
「私は、逃げたりなどしない。警戒をしただけだ」
少女はそれを聞いてクスクスと笑い出す。
「そうなんだ。それで、警戒して、私は声をかけてもいい人間に認定してもらえた感じ?」
予想外の返答ばかりを返してくるので、思わず拍子抜けしてしまいそうになるもジルクはじっと少女を見つめながら言う。
「私はジルク=ディア=グレンジャー。そなたの名前を聞かせてほしい」
少女がまた、目を細めて、無邪気に笑う。
「ジルクって言うのね。私はね、ナンシーよ」
ナンシーがそっと、ジータを撫でていない方の手の人差指をジルクへと差し出す。
その意味が分からずに、ジルクが首を傾げると、ナンシーが言う。
「名前を教えてくれたってことは、仲良くしてくれるってことでしょ? 指での握手じゃ、ダメ?」
今度はナンシーが首を傾げてこちらを見てくる。その様子がとても可愛らしくて、ジルクはふっと息を漏らし、笑いながら言う。
「いや、よろしく。ナンシー」
そっと近づいて、彼女の指に触れ、秘密の握手を交わす。
「うん。よろしくね」
ナンシーの指から、ジルクの小さな手へと、胸を焦がすような熱い感情と共に、彼女の生きている温もりが伝ってくる。
それらがとても心地よく、ずっと張りつめていたジルクの緊張が解けていく。
今、目の前にいる少女は人間であり、ジルクは妖精だ。それなのに、彼女はそれを受け入れて、さらに、ジルクをただのジルクという一人の生きるものとして、純粋に握手を交わしてくれている。
初めて、自身の家名に関係なく、立場に関係なく、種族に関係なく、ただ綺麗だと言われ、ただ名を呼ばれ、ただ仲良くしようと言われた気がした。そしてそのことが、ジルクにはひどく嬉しく感じられ、まるで魔法にでもかかったかのように、自身が気づかぬ間に担っていた様々な重責が彼女によって軽くなっていく。
そうしたらまた、勝手に声が出ていた。
「君の話を、聞かせてくれないか?」
ナンシーが、目を細めて、嬉しそうに笑う。
「やったわ! 私、お話ができるお友達をずっと探してたの。ねぇ、何が聞きたい? それで、何を聞かせてくれる? 私もジルクの話をたくさん聞きたいわ」
その日から、毎日、彼女に花を届ける。少しだけ、彼女が元気になるように、おまじないをかけて。
そうして、気づく。ジルクにとって、彼女がとても特別な女の子であることを。
だから、そっと、日々贈る花々の中に一凛のピンクのガーベラを混ぜ込む。
きっと、自分にとって、彼女は運命の人。
生きる場所が違うのに、思いだけが溢れていく。ジルクは妖精の中でも、植物の精。
もしいつの日か、彼女に100本のガーベラと共に、自分の想いを告げられたらどんなに良いだろうか。
そんなことを思いながら、そして、そんなことをただ心の中で思える感情があることさえにも喜びを感じながら、ジルクは彼女に花を贈る。
その一瞬だけは、ただのジルクに戻ることができ、彼女と過ごす時間はただの男であれるから。
彼女の家族が戻ってくるときや、学校の授業を受けるという時は、そっと離れる。
そして、ジルクはグレンジャーとしての役目を全うするため、迷い人と入れ替えで来た妖精たちを導き、時間を見つけては扉を探す。
妹のシルヴィは、封じられていた扉の隙間から、身体を小さくして、こちらの地上世界へと勝手にやってきてしまった。そして妹が扉をくぐってすぐ、安定しない扉は忽然と姿を消してしまったのだ。
「早く見つけ出さなければ」
完全に、それぞれの世界が閉じられる前に。
けれど、同時に願ってしまう。もっと一日が長く、誰も傷つかない平和な日の今のまま、明日が来なければとも。
そうすれば、種族も生きる場所も生きるときも違うナンシーと共に過ごすことが出来るのだから。
そんな叶わぬことを思ってしまう自分を叱責するかのように、ジルクは一人首を振り、あえて今日することを口に出す。
「今日は父上がおられるから、私は捜索に力を入れることとしよう」
なるべく草花が多いエリアを目指して、ジルクは今日もこの町を飛ぶ。
to be continued ……
『生きる刻があるうちは』は、現在連載中の『その手に触れられなくても』が完結後、連載再開となります♪
※この世を繋ぐもの~海と地下鉄と扉~に収録中の「迷い人」は生きる刻があるうちはのprologueのような物語になります。本限定の物語になりますので、よければ覗いてみてください♪