オリジナル小説

四季折々~私の一番好きなケーキ~

2022年9月1日

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四季折々~私の一番好きなケーキ~
はるぽ
こちらでは初めてですが、再掲です❁

 

「いってくるよ」
「うん、いってらっしゃい」

 

 そう言って、あなたは振り返ることなく行ってしまった。

 

 最後に食べたのはあなたの大好きなかぼちゃケーキ。

 毎年秋になると、丘の下の遥か先にある、村で唯一のあの緑の屋根の喫茶店へと、一緒に食べに行く。

「やっぱり、ここのかぼちゃケーキが一番だな」
「そうね。ここのかぼちゃケーキを食べないと、秋じゃないわ」

 そうやって子どもの頃から、毎年、毎年、あなたと一緒に食べてきた。

 日ごろから物静かで、何があっても微笑む程度のあなたが、いつもここのかぼちゃケーキを食べる時だけ、満面の笑みを浮かべる。

 本当はね、かぼちゃケーキより、私はスイートポテトの方が好きなの。それは内緒。

 だってね、スイートポテトよりもあなたのその笑顔が見るのが好きなんだもの。

 それでね、かぼちゃケーキは二番目に好きなの。だから、二番目に好きなケーキとあなたの笑顔がセットなら、それはもちろん、かぼちゃケーキが一番好きなケーキになると思わない?

 

 別に私はいつも嘘なんて言ってない。

 かぼちゃケーキが好きとしか言ってない。

 それで、ここのかぼちゃケーキを食べないと、秋じゃないとしか言ってない。

 

 それなのに、嘘なんてついたことなんてなかったのに、私の秋はあの年から来なくなってしまった。

 

「えっ、どうしても行かなくちゃダメなの?」
「……うん。こんなに大きな仕事はないからね。といっても1年程度の仕事だよ。次の秋には帰ってくる」
「次の、秋……」
「うん。だから、また次の秋にはここで一緒にかぼちゃケーキを食べよう」
「……うん」

 

 

 冬は毎年、あなたに温かいコーヒーを差し入れにいっていたのに、私は一人、家で紅茶を飲む。

 村のクリスマスはいつも通り。私も可愛らしいツリーを見ながら、香ばしいスパイスの薫りのチキンとポットパイでお祝いしたけれど、別に普通だったわ。

 

 春は毎年、丘の上で花を見ながら一緒にサンドイッチを頬張っていたのに、私は一人、家でパンを食べる。

 村の春の収穫祭はいつも通り。私もみんなと一緒に花冠を被って、白いワンピースを着て裸足で踊ったけれど、別に普通だったわ。

 

 夏は毎年、あなたに冷たいタオルとお弁当を届けにいっていたのに、私は一人、お弁当を持って、丘の上で食べる。

 村の夏祭りはいつも通り。私は肝試しには参加せず、おばさんのお店のお手伝いをして、観光客の人にたくさんのココナッツミルクを振る舞ったけれど、別に普通だったわ。

 

 それでとうとう秋が来て、私は毎日、丘の上の木に登って、あなたの帰りを待つ。

 

 ねぇ、秋って曖昧過ぎるわ。何月くらい? それで、何日頃?

 

 9月が過ぎて、言い聞かす。9月はまだまだ暑いし、夏って言ってもおかしくないかも。

 10月が過ぎて、言い聞かす。ハロウィンが終わっても、まだかぼちゃは全然、美味しい季節。

 11月が過ぎて、言い聞かす。クリスマスが来るまでは、まだ秋って言ってもおかしくないかも。

 それで12月23日に、慌てて私はかぼちゃケーキを食べに行く。

 

 でも、村で唯一の、あの緑の屋根の喫茶店へは行かないわ。

 

 私は朝から隣の村まで、歩く。ひたすらに歩く。呆然と景色を見れば、木々の葉はすっかりと落ち切って、どこの家もクリスマスリースを飾っていて。

 

 ああ、私の秋はどこへ行ってしまったの。

 

「かぼちゃケーキをひとつください」
「お嬢ちゃん、向こうの村から来たの? 早く帰んないと日が暮れちゃうよ」「はい……食べたらすぐに、帰ります」

 口に運んだかぼちゃケーキは、あんまり甘くなくって。とっても蜂蜜がかけたくなった。

「ごちそうさまでした」

 そして、私は自分の村まで走る。ひたすらに走る。だって、歩いていたら涙が零れそうなんだもの。それに、走らないと、日が暮れちゃう。

 

 今年の冬、私は去年と同じ、クリスマスを過ごした。

 

 今年の春、私は去年と同じ、収穫祭を過ごした。

 

 今年の夏、私は去年と同じ、夏祭りを過ごした。

 

 今年の秋、私はやっぱり、去年と同じように、丘の上の木に登って、あなたの帰りを待つ。

 

 ねぇ、秋っていつまで?

 

 そう問い続けて、12月23日が来て、私はまた朝から歩く。

 

「かぼちゃケーキをひとつください」
「……お嬢ちゃん、今年も向こうの村から来たの?」
「……はい」
「どうぞ。これはサービスだよ」

 

 そうして出されたのはホイップクリームで、今年は蜂蜜が欲しいとは思わなかった。

 

 次の冬、私はクリスマスを祝うのをやめた。だって、楽しくないんだもの。周りはみんな結婚しちゃったから。

 

 次の春、私は収穫祭で一人、すっかり背が高いのに踊り切った。それで、みんなが噂する。もう、帰りを待つのはやめた方がいいって。

 

 次の夏、私は店の手伝いを断られた。売り子はもう、他の女の子に頼んだんだって。だから一人、店の中でビールを飲む。

 

 次の秋、私はもう丘の上の木に登るのはやめた。

 

 私は貯めたお金で、電車に乗る。向こうの向こうのその向こうの先にある街まで。あなたはそこにいるのかしら。

 

 それで、いつ頃から届かなくなったか分からない、あなたから届いた最後の手紙の住所を頼りに、初めて踏むコンクリートの道を歩く。

 

「ここ……」
「お姉さん、どうしたんだい?」
「あの、この辺りで建築途中の教会って……」
「ああ、この春には工事も終わったから、もう入れるよ」
「そう……ですか」

 

 悲しい気持ちで、私は祈る。あなたが建てたであろう、この教会で。

 

「どうか、あなたが元気でありますように」

 

 それで、いつ頃から届かなくなったか分からない、あなたから届いた最後の手紙を鞄の奥へとしまい込んで、この数日で慣れてしまったコンクリートの道を歩く。

 

 一駅分歩いて、ギリギリの運賃で電車に乗る。向こうの向こうのその向こうの先にある村まで。私の帰る場所はあるのかしら。

 

 そして、村で唯一の、緑の屋根の喫茶店で、頼む。スイートポテトを。

 

「はい、お待ちどうさま」
「ありがとう」

 

 私が好きだったかぼちゃケーキはもう食べられない。だって、あなたの笑顔がもう見られないから。

 

 そうして、次の冬。一人でクリスマスの準備を始める。12月の始め頃から。

 

 12月23日はもう家から出ることができない。チキンを仕込んで、ポットパイやケーキを作り始めないとダメだから。

 

 けれど、一人分だから仕込む量も少なくって、早々に眠る準備を始める。

 

 コンコン。

 

 そこにノックの音がして、扉を開けるとそこには……

 

「遅くなって、ごめん。クリスマスケーキはかぼちゃケーキでもいい?」
「……嫌よ」
「もう待ってはくれてない?」
「……いいえ。かぼちゃケーキは秋にしか食べない」

 

 やはり、早々に眠るのはやめた。もう一人分、準備しないとダメになってしまったから。

 

 あなたが戻った春、私は収穫祭でとうとう踊るのをやめた。代わりにウエディングドレスに身を包む。

 

 あなたが戻った夏、私はもうビールを飲むのはやめた。代わりに小さな靴下を編み込む。

 

 あなたが戻った秋、私はかぼちゃケーキを頼むのはやめた。代わりにスイートポテトを頼み、あなたと半分こする。

 

 あなたが戻ってから二度目の冬、私たちは二人きりで過ごすのをやめた。代わりに小さな家族が増えて、三人で過ごすようになる。

 

 きっと次の秋、私たちは三人でかぼちゃケーキとスイートポテトを分け合う。満面の笑みで。

 

 

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