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【小説×宝石】地球への贈り物_誕生石の物語~3月アクアマリンの物語~後編2

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【小説×宝石】地球への贈り物_誕生石の物語~3月アクアマリンの物語~後編2

 

 アクアマリンと真珠は手を繋いだままに入り口を飛び降り、地球のすぐ傍までやってきておりました。二人に迷いはなく、地球までの距離はあと少しで大気圏に突入するかどうかといったところでございましょうか。

「すごい! すごいわ! 近くでみると、こんなに青いのね」
「地球のほとんどは海で覆われているから」
「これが海なのね……! すっごく綺麗。天界にはないから、本当にすごいわ」
「よかった、絶対に喜ぶと思ったんだ」

 興奮冷めやらぬ様子でアクアマリンは地球を青く輝かす海をみつめておりました。
 その熱量が、繋いでいる手を通して真珠にも伝染したのでございましょう。日頃は控えめに笑う真珠も、このときばかりは聖人していることなどすっかりと忘れ去って、まるで子どもの頃のように無邪気に笑っておりました。

「アクアマリン、海も水だ。そしてこの海は、地球の生命に欠かせない存在。一見、飲み水にはならないからすぐにそうとは感じられないかもしれない。でも、そこにあるだけで美しく、そこにあるだけで地球の生命体にとって十分な活躍をしてくれているんだ」
「海も、水。そう考えると、とても地球が近く、愛しく感じられてくる」

 真珠の提案で、アクアマリンたちは地球に降りるのではなく、本当に近くまで地球を見に行くことにしたのでございます。それはアクアマリンの天界に帰れなくなるかもしれないという不安や恐れを払い、素直に地球という星を楽しませてくれるものでありました。

(綺麗。とても、とても、地球が好きになれる気がする)

 終始微笑んでいるアクアマリンは海に夢中でありました。きっと、間近でみる地球の美しい光景を、その瞳に焼き付けようとしているのでございましょう。
 地球の海の中でも特に澄んだ部分は、アクアマリンの髪や瞳と同じように、濃い青というよりは水色に見えるかもしれません。
 それがまた、改めて水の美しさというのを感じさせ、さらにはアクアマリンに強く地球の海に親近感を持たせるのです。

 すると、繋いでいる手を少しばかり強く、真珠が握り直しました。
 アクアマリンがようやく海から視線を真珠へと移すと、今度は真珠が視線を海へと向けるのでございます。

「……地球の海は……まるでアクアマリンみたいだと……思わないか?」
「え?」

 アクアマリンがその意味を考えだすよりも前に、真珠はその手を引くと、ぐるりと大きく地球を周り始めました。周るといっても、地球上を周るのではございません。宇宙空間からその周囲を、でございます。
 けれど、二人にとってはそれで十分でありました。何よりもアクアマリンは安心して地球を楽しむことができましたし、真珠もまた、同じ気持ちであったからでございます。
 アクアマリンは地球の地を歩くよりも、少し離れたところから海をじっくりと眺めることを。
 真珠も地球の地に降り任のために別々に歩むよりも、天界へと戻り任のために共に歩むことを選びたかったのでございます。

 飽きることなく、二人は地球の周りを何周もしたといいます。

「さあ、創ろう」
「はい!」

 

***

 

 重いものから放たれて、水に浮くかの如く軽くなりましたアクアマリンは、真珠と共に宝を創ることをきっかけに、たくさんの特別の違いに気づき、さらなる成長を遂げていきます。

(今日はいつもより広範囲に力を使った……うん。疲れ切る前に食事を挟みましょう)

「私、休憩してまいります」

 まず、アクアマリンは自身の体質や能力が特別であることを自覚致します。
 これまでの彼女は、小まめに休憩をとる自分に対し、恥じる心や未熟さを責める心がございました。

 大きな力を使えば休む必要がある。

 そうした事実を理解しておりながら、それが自分自身に該当するとは露にも思っていなかったことが原因でございます。
 アクアマリンは周りの者が当たり前に使える水仙術の力が極めて優れているがゆえに、自身の水仙術の力が当たり前ではないことを知りませんでした。
 本当は休憩が必要であるのに他の者に合わせて休憩をとらずにいれば、それは即ち極めて優れているその特別な力を、自分自身で封じることとなってしまうのです。
 アクアマリンは自分ではない他の者の基準に合わせ、休憩を失くす必要などなければ、悩む必要もなかったのでございます。
 彼女だけの特別を損なわずにあれるのであれば、他の者と比べ小まめに休憩をとらねばならぬことなど、何てことなどありません。

 時に、体質は対策で越えていけるのでございます。

 自分の特別を認め、十分に休憩をとることでアクアマリンは存分にその力を使っていけるようになりました。

「アクアマリン、休憩に行くなら私も行こう」
「ガーネットさん!」

 ガーネットが声をかけるのに合わせて、アクアマリンは大層嬉しそうに顔を綻ばせました。アクアマリンが弾むような足取りでガーネットへと駆け寄っていくのにあわせ、彼女の淡い水色のツインテールが、まるで踊るかのように揺れておりました。
 その様にガーネットも大層嬉しそうに笑い、ダイヤモンドがやはりさも当然の如く、自身も休憩する準備に取り掛かるのであります。

 もう、アクアマリンはガーネットたちが自分に時間を割いてくれることに罪悪感を抱くことはありません。
 ガーネットとダイヤモンドの存在が、どれほどに特別な存在であるかを再認識し、ガーネットとダイヤモンドにとってもそうであることを感じられるようになったからでございます。

 ガーネットが宝を創りあげ、ダイヤモンドと共に地球から帰ってきたあの日、アクアマリンは人目を憚らずに盛大に泣き、想いを告げたと言います。
 ガーネットも柄にもなく瞳を潤ませていたとか、いなかったとか。ダイヤモンドからも隠しきれない嬉しさが、ほとんど動かさないその表情からでも感じ取れたとか、とれなかったとか。
 このときのことを、十二人の弟子皆が、まるで宝山に登りきったときのように、特別な瞬間のひとつになったといつまでも語っております。

 そしてこのときを機に、アクアマリン、ガーネット、ダイヤモンドの三人は新しい形を作りだしながら、けれどもこれまで築き上げた特別な絆を大切にしながら進んでいくこととなりました。

 そして、だからでございましょう。
 アクアマリンは十二人の他の弟子たちとも積極的に関わっていくこととなります。

「悪いが今日は私が先にアクアマリンと約束している。……そういえばガーネットは地球へとそろそろ遊びに行きたいと言っていなかったか? ダイヤモンドも今日は地球へと行くと聞いていたが。……せっかくだから一緒に行って来たらどうだ?」

 もちろん、他の弟子の中でも特に真珠と関わる機会が多くなっていたと言えるでしょう。

 いつものようにアクアマリンと休憩室へと行こうとするのを阻んだのは、真珠にございました。だいたい、三度に一度は、こうして真珠がアクアマリンとの休憩時間を攫って行くのです。

 アクアマリンと真珠は二人で宝を創るため、自然と共に過ごす時間が増えていっておりました。
 ただ同じ時間であっても、任に取り組む時間と休憩時間はどちらも特別でありながら、特別の意味が違うのでございます。
 ガーネットは本能的に、真珠は策略的に、両者譲ることはありませんでした。
 そうしていつも、何事も他の者が考えだす頃には既に動いているガーネットが珍しく考え込み、ようやくに唸りながら頷くのが、真珠の勝利の合図となるのです。

「うーん、そうだな。パイロに渡したいものがあったんだ。……では先に地球へと行って、柘榴のお土産を持って帰ってこよう。アクアマリン、その時に一緒に休憩しよう」
「はい。気を付けて行ってきてください」
「……別邸の管理は任せてくれ。ゆっくりしてくるといい」
「よろしく頼む!」

 こうした日々を重ね、アクアマリンと真珠はベリルという鉱物を共に作り出します。
 そしてそのベリルという鉱物から、二人で力をあわせ、大変に美しい濃い緑の神秘的な宝石を創りあげたのです。
 その名をエメラルドといい、後に地球で希少価値の高く歴史と共にいくつもの逸話を残す宝となっていきます。

 創り上げた日、二人は大いに喜び、その完成を心から祝いあいました。

 ですが、決してどちらもそのエメラルドという石を自分の創った石としては提出しようとはしないのです。

「アクアマリン、すごいものが出来上がった。だからこれは君の宝として提出するといい」
「ダメ。これは二人で創った宝だもん。実は私……ちゃんと自分の特別をみつけて、地球に贈りたいものが出来たの。ベリルを元にだけど……その……これを……私の創った宝として提出したいと思ってるの」

 アクアマリンのその掌には澄んだ水色の宝石が乗せられておりました。それを差し出すようにして、真珠に見せます。

「これは……すごい。ベリルから創ったのか?」
「海を……海をイメージした宝を地球へと贈りたいと思ったの。ベリルまでを一緒に創ったから少しズルけれど、これを推称様に提出してもいい?」

 すると、アクアマリンの上目遣いが大変に愛らしかったからか、質問するまでもない事柄だったのか、それとも素晴らしいタイミングと可能性が繋がったからでしょうか。
 珍しく、真珠が盛大に声をあげながら笑い出すのでございます。

「ははは、すごい偶然だ。ほら、アクアマリンみて? 俺もちょうどこれをみせようとしてたんだ。……同じくベリルから創ったんだ。淡いピンクの宝石だよ」
「……っ! すごい! ベリルから三つも宝石ができたということ?」

 真珠のその手には淡いピンクの宝石が握られておりました。

 アクアマリンと真珠は分け合うのではなく与え合おうとすることで、宝をより特別なものへと仕上げていったのでございます。
 すると、奇跡は起こるのでありましょう。ベリルという鉱物から、ひとつではなく、また二人で創ったから二つという訳でもなく、三つの素晴らしい宝石ができあがったのです。

 二人の作業台には、ベリルを元にアクアマリンが創った水色なる宝石と、二人で共に創り上げた深く神秘的に輝く緑のエメラルド、そして真珠が創った淡いピンクの宝石がそれぞれ違う色で、けれども互いを引き立て合わせながら輝いておりました。

 このベリルという鉱物は、アクアマリンと真珠の創り上げた三つの宝石に留まらず、地球で多くの宝石を生み出すこととなっていくのであります。
 後に真珠はこのピンクなる宝石をモルガナイトと名付け、地球へと贈っております。
 ですが、硬派な誰かを真似たのでございましょう。真珠はモルガナイトを自身の創った宝としては提出せず、新たな宝を、自身の創った宝として提出致しますが、それはもうしばらくあとの話にございます。

「推称様、このアクアマリン、地球の海の美しさに大変感動致しました。その美しさが未来永劫続き、海の恩恵により地球に生きる存在全ての発展を心より願い、海をイメージした宝を地球への特別な贈り物として提出致します」

 

 

 

アクアマリン

 

 

💎宝石メモ💎

アクアマリンはラテン語の「海の水」に因んでいるそうです。アクアマリン、エメラルド、モルガナイトはいずれもベリルという鉱物に属します。三つとも結晶構造、化学組織共に同じですが不純物として含む元素に違いがあり、それが起因して違う色となっています。

 

※他の誕生月も宝石メモ📝追加してます💎✨

 

はるのぽこ
ちなみにアクアマリンとモルガナイトはアクセサリーとして作成する際も石の相性が大変よく、恋愛運・結婚運アップのお守りとされることも多いです!
そういうのも含めて拘って創った物語のひとつですが、つい長くなってしまい、最後の一話の更新が四月になってしまいました。ですがモルガナイトは実は四月の誕生石のひとつでもあります💎
石が運命的に出来上がったように、更新のタイミングも三月四月を跨ぐ運命であったということで、少し遅くなりましたがお許しください💎(。-人-。) ゴメンネ

 

💎毎月第5土曜日(第5土曜がない月はその月の最終日)更新

 

誕生石の物語―地球への贈り物―

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