アンナのカケラ
先日買ったばかりのタイトなワンピースに身を包み、街を歩いていく。背筋を伸ばして、ヒールの音が程よく響くくらいに。
もうすぐ、とあるファッションショーの募集がある。事務所から推薦はもらっている。忙しい日々の生活の中で、歩く時間というのは貴重だ。練習はどれだけしても足りないのだから。
なるべく、歩くときはこうして美しさを意識する。姿勢はもちろん、魅せる歩き方。時折ポージングだって混ぜたいけれど、流石に街中では目立ってしまう。風が吹く、という瞬間に合わせて、髪がより風に靡きやすいよう、なるべく自然に見えるような形で髪を後ろへと払う。手を下ろす瞬間の指先にまで美を意識して。
すると、目の前を塞ぐような形で一人の男が声をかけてくる。
「あの、もしよかったらこれからお茶でも……」
「ごめんなさい。今からバイトなんです」
「それって何時からですか? ほんの少し、あそこで5分だけでも」
こうやって声をかけてもらうことは有難いことなのかもしれない。けれども、自分にとっては歩く練習の邪魔をされてしまい、バイトに遅れるかもしれないというリスクを背負わされていて。それで、そもそも男性には興味がないのだ。ただ、一人を除いて。
だから、正直なところ、迷惑の一言に尽きる。苛立ちを隠し、無理やり笑顔を作って、声色を変えて向き直る。
「ですから……」
「あーんな!」
苛立つ声を遮って、腕にぎゅっと抱き着いてきたのは、しほだ。その後ろで慌てて走ってくる、萌咲と先日紹介された瀬戸君の姿が見えた。
「いこ! バイト遅れちゃう!」
「そうね」
しほが手を引っ張る。それに合わせて先ほどまでの苛立ちまでも引っこ抜かれたかのように力が抜け、しほの笑顔につられて杏奈も笑顔になっていく。
「はー、君なんなの? 俺、このキレイな人に話しかけてるんだけど」
「聞こえなかったの? バイトなの。綺麗な人しか見えないなんて、不自由な目ね」
「は?」
杏奈は額に手を添えて、悩む。こうやってしほがよく守ってくれるのだが、なかなか引き下がらない男が多い。この付近の大学の男子の間で、モデルをしている女とお茶ができたら勝ち、みたいなある種の賭け事の遊びが流行っているらしい。だからか、皆、何分何十分も執拗に声をかけてくるのだ。こちらの予定などお構いなしに。
かといって、だらだらと受け流しながら話を聞いていて、バイト先までついてこられるのも困るのだ。時折執拗に後を付けられる時もあり、撒くまでなかなか家に帰れなかったりする。
もういっそ、5分でもお茶をしてしまった方が早いのではないか。そう悩み始めた時に、しほが小さな声で言う。
「だめ。諦めたらダメ。また彼氏さんに誤解されるよ」
その声にはっとして、小さく頷く。
「ねぇ、5分でいいし、奢るよ?」
「無理って言ってるでしょ! どいてよ! 私たち、バイトなの!!!」
「だから、君に言ってないって……あれ、よく見たら君も美人ってわけじゃないけど、可愛い顔してるじゃん。もういっそ、君でもいいよ。君が来てくれるなら、ここを通してもいい」
「嫌よ!! ……待って、本当に通してくれるの?」
しほが睨みながら、ニヤニヤしている相手の顔を見て、悩みだす。
まずい、と思った。しほに5分で切り上げて逃げ切るスキルがあるとは思えない。何より、純粋なしほに自分のためにこんな男たちとお茶なんてさせたくない。
「ねぇ、俺たちの連れに、何か用?」
このタイミングで瀬戸君と萌咲が追い付いてくれた。萌咲は後ろで息を切らしている。走ってきてくれて本当に有難い。さらに正直に言うと、ここで味方してくれる男性が間に入ってくれるのは心強い。
「なになに、君、女の子こんなに連れて、自分モテるとでもいいたいの?」
そう言って、男はカフェの方に向けて合図を送る。すると、複数の男がゾロゾロとこちらへとやってきた。
ああ、今日は何なの。本当にまずい。何度も断った記憶がある顔ぶれがズラリと並んでいる。グルになって待ち伏せしてたんだ。
その中のリーダー各っぽい男が前に出ると、今まで絡んでいた男がスッと後ろに下がった。
「ふーん。それで? 俺たちも別に君じゃなくて、君の連れに用があるんだけど?」
チラリと男が挑発するように萌咲の方をみて、瀬戸君が萌咲を後ろに庇う。しほが杏奈の前に出て、「私が」と言った瞬間に、派手に通りがかりの男性が大量のオレンジを転がした。
「おっとっと、ごめんね」
「店長……!」
しほがその男性を見て、小さくそう呟いた。
「今のうちに」
そう言われてしほが頷き、杏奈の手を引いて走り出す。
「ちょ、待て!」
そう言って追いかけようとする男たちの足を瀬戸君がかけて、派手に一人が転んだ。それに連なって何人かが将棋倒しのように転んで、ぶふっと自分としほと、周りで心配そうに見ていた通行人たちも、皆、吹き出してしまった。
「てめぇ!」と真っ赤になって怒り狂った男たち数人に対して、「やばい」なんて言いながらもしっかりと萌咲の手を引いて、杏奈たちとは反対側へと向かって瀬戸君らも走り出した。
ごめんね、二人とも気を付けて。
そう思いながらしほと走るも、一人のあのリーダーっぽい男はしっかりと、こちらを追いかけてきたのだ。こっちはヒールでスカートで。ショウウィンドウのガラス越しに映る自分の姿が、何だかおかしく思えてくる。
しほはスニーカーにポロシャツワンピで、丈も膝くらい。一方の自分のタイトなミニスカート。ばっちりと決めた爽やかな青にサイドに白のラインが入ったもの。それに合わせた白いピンヒールのサンダル。全く走るのに向かない。これ以上走ると、スカートの裾がめくれてしまう。
「しほ、ごめっ、これ以上は……」
「え?」
そう言って、しほが立ち止まる。
「ごめんね、ヒールだ! どうしよう? 足痛めてない??」
「うん、大丈夫。ちょっと、ここからは小走りで」
そうしている間に、男は距離を詰めて、あとほんの数メートルというところまで迫ってきていた。見つけたとでも言うように、真剣な眼差しでこちらを見ている。
「し、しつこい!」
しほが唸るようにそう言ったその時、杏奈たちと男の間に、一人の金髪の青年がすっと入り込んだ。
「よう」
その青年は、腰に手を当て、堂々と突っ立って、男に向かって話しかけている。
「なんだ、お前か。今取り込み中なんだ」
「今度の試合の話だ」
「だから……」
「逃げるのか? 俺たちにとって、それ以上に大切な話はないはずだ」
「……そうだな」
そう言って、男と青年が話し始めた。ほんの一瞬だけ、青年が振り返る。金髪に日の光が差し込んで、眩く煌めく。長いまつ毛に、くっきりとした、透き通るような青い瞳。スッと程よく高い鼻筋。全てのパーツが抜群に左右に均衡がとられていて。天使のような、綺麗な中性的な顔立ちをしているのに、気が強いのが丸わかりの吊り上がった眉が印象的な人。
特に杏奈と目を合わすでもなく、まるでただ後ろを確認しただけです、というような素振りですぐさま前を向いて彼は会話を再開した。
「……レイン」
「今日、雨降るっけ?」
「あはは、降らないわ。それより、今のうちに行きましょ!」
「そうだね。よく分からないけど、追いかけてこなくなったし、ラッキー。私、バイト先まで送るよ!」
「ありがとう」
二人でホッと笑い合い、足早にバイト先へと向かう。それと同時に、しほが鈍くて良かった、と心の中で安堵の息をつく。
しほや萌咲には彼氏がいる、としか伝えていない。何となく、萌咲は気づいているのかもしれないけれど。
杏奈の年下の、異国出身の彼氏。かなり背の高い自分よりも背が高くって。天使のような可愛らしい顔をしているくせに、運動神経がよくって、アメフトでエースなんて務めちゃって。それで全然、こっちのことなんて、気にしないんだ。
あれは先日のこと。どうしても、男たちがしつこくて。バイトに間に合いそうになくなって、5分だけという約束で仕方なく、お茶をしたあの日。レインがちょうど、通りかかったのだ。
目がしっかりと、合った。けれども、何を言うでもなく、彼はそのまま行ってしまった。
自分が悪いはずなのに、そのことで勝手にショックを受けて。自分が悪いからこそ、そのことに深く反省した。
味のしないコーヒーを飲み終えて、一切男たちとは会話せず、5分後きっかりに無理言ってマネージャーに迎えに来てもらってカフェを後にした。
それで、バイトの後で連絡したら、一言。
『お前、何してるんだよ』
ただ、それだけ返ってきた。何も、言い返せなかった。
どうして、あの時、怒ってくれなかったの?
どうして、あの時、連れ去ってくれなかったの?
そう思うと同時に、こうも思う。
どうして他の男性とお茶なんて、酷いことしてしまったのだろう。普段、忙しいと杏奈が会うのを断っているのに。
どうして、連れ去ってなんて思ってしまうのだろう。日ごろから、周りの人には付き合っているのは内緒にして、と杏奈が言っているのに。
杏奈からもごめん、とだけ返信して、それっきり。
例えば、その事件が起こる前に約束した、来週のデートには来てくれるのかとか、そういうことを聞くこともしなかった。
否、出来なかった。そして、向こうもその件に関して何も言わなかった。
きっとこのまま、あえて連絡しないで、私は待ち合わせ場所に行くのだろう。来てくれるのかどうか、分からずに。
そして、あえて連絡をしないことで、彼が来てくれなかった時にそれを言い訳にして、また彼を想い続けるのだろう。
彼が来よう来まいが、杏奈は待たずにはいられない。
杏奈だけの、内緒の彼氏。
内緒なのは、彼が年下だから。彼が異国の人だから。彼がいつの日か、自分の国へと帰ってしまうのが分かっているから。
レインはとても有名なアンティークショップの一人息子。それこそ王族や有名人ご用達の店の子息だ。自分たちで目利きして仕入れ、それをさらに求める人へと最短で裁いていく。いつの日か、家業を継ぐのだろう。もう、彼は家の仕事の重要な役を担っている。それもあって、今、日本に留学しているのだ。色々、日本の伝統工芸の品物を見定めて、学んでいるのだとか。
片や、自分はここで、日本で生きていくと決めている。父が運営している女子大。それをいつの日か、杏奈は引き継ぐのだ。
それは父の意志ではなく、自分の意志で。
そう決めている。
だから、成績は常にトップでなければならない。女子の憧れの的でなければならない。大学のイベントは主に企画・リーダーを任されている。
全てを、完璧にこなさなければならない。そんな中で、声をかけられたモデルのバイト。オシャレが大好きで、可愛いもの、綺麗なもので溢れる生活が好き。それに、歩くのも好き。まさに、自分の求めている全てがあるような、そんな気がした。
そして声をかけられたその足で、モデル体験としてイベントの小さなランウェイを歩かせてもらった。そのランウェイを歩いた瞬間、重圧ばかりの自分の世界から、何かが吹き飛んだかのように、周りがキラキラと輝いて見えたのだ。
杏奈の在学期間は残り僅か。もし、父の後を継ぐのならば順を追ってにはなるけれど、日本に留まり、自分のことなど二の次で働きだすのだろう。
ああ、今だけでもいいから、自分のためだけに歩く仕事をやってみたい。強く、そう思った。
大学の友達と勉強している。嘘をついて始めた、自分の好きなものが詰まっている、モデルのバイト。父は別に、自分の娘だからという理由だけで、女子大の運営を引き継がせたりはしない。しっかりと、実力や適性を見る人だ。だからこそ、約束したのだ。トップの成績をとってみせる、イベント運営だって力を抜かない、女の子の憧れの的になるような人物になってみせる、と。
だから、恋愛なんてしている余裕は、なかった。………なかったの。
それなのに出会ってしまったのだ、レインと。一度ならず、二度も。
一度目の出会いは、数年前。将来有望そうな男の子。そんな程度の印象だった。
大学の式典で花を飾るのに必要な壺を、レインは彼の父親と共に売りに来たのだ。
正直、ただの悪徳商売だと思った。けれども、それはまごうことなき一品もので。亡き母の家系の家紋の入る、素晴らしいアンティークの壺だった。花の意味と大学の校訓と合わせて、大学に飾るのに相応しいと思える由緒のある壺。それらを、彼の父親ではなく、レインが全て説明してみせたのだ。
値段はそれなりにした。けれども、それでも飾りたいと思う一品で、さらには不当どころか、何とか購入できる価格にまで抑えてくれたのだ。
その真意を尋ねると、彼の父が答えた。こういう特別な一品は、然るべき場所に飾られてこそ美しい、と。
この壺はもともと、亡き母の家系で代々受け継がれ大事にされていたものなのだとか。それが戦時中に泣く泣く手放さねばならず、行方知れずとなってしまっていたらしい。
母もまた、異国の人で、きっと自国が懐かしかったのだろう。子どもの頃に馴染み深かった、その壺の話をよくしていた。だから父はどうしてもそれを取り戻したかったようなのだ。生前、女子大の運営は実は母が行っていた。故に、その母の形見として、母の代わりにあの壺を、大学のホールに飾りたかったに違いない。杏奈自身も、もしその壺が本当にあるのなら、是非ホールに飾ってあげたかった。
そして、その想いと願いが、夢物語に終わらず、レインと彼の父によって実現可能となったのだ。
父はレインたちにとても感謝した。そして、杏奈自身も、感謝はもちろん、レインの仕事ぶりに感心したのをよく覚えている。でも、ただそれだけだった。とても綺麗な顔をしていて、博識で、ほんの少しだけ素敵な男の子だとは思ったけれど。だけど、彼は杏奈よりも年下で、当時はまだ、高校生だったのだ。
だから、杏奈にとって、大切な壺を購入した出来事のひとつで終わったはずだった。はずだったのに、あの強い眼差しだけは忘れられなくて、いつの間にか脳裏に焼き付いてしまっていたらしいのだ。
そんな彼と、もう一度再会したのが、この春のこと。
驚いたけれど、すぐにあの男の子だと分かった。向こうも覚えてくれていて、近隣の大学に留学している、と簡単な挨拶をしてその日は別れた。けれど、その後も顔を合わす度にお茶や食事に誘われて。忙しいとかわしていたのに、ある時彼が言った一言に杏奈は心を奪わてしまったのだ。
「美しいものを見抜くのが得意なんだ。だから、俺は諦めない。自分の目に自信があるから」という、その一言に。
抵抗していた最後の恋心も奪われて、もう、彼から離れられなくなってしまった。きっと、その予感はあったのだ。だからこそ、あんなにも避けて、年下だと言い聞かせて、お茶も断っていたのかもしれない。
女子大の運営。それを目指す自分は、女の子の憧れの的でありたい。女の子たちのリーダーとなって、極論を言うなら、その子たちを守っていきたいと、そう思っていた。
だから、ずっと男性には興味がなかった。持とうとしなかった。ただ、一人を除いて。
だけど時折、弱い自分が問うのだ。女子大の子たちを守る、それが目標。だけど、ああ、私自身は誰に守ってもらうの?
そんな誰にもうち明けたことのない弱さを、あの射貫くような瞳で暴いて、レインは杏奈の心を見事に奪っていった。
そしてあの自信満々の表情。絶対に杏奈がレインに惹かれていることを分かっていたに違いない。初めて出会ったあの時から。
それらが悔しくもあり、嬉しくもあり。そして今もなお、杏奈はレインに心を奪われ続ける。彼に惹かれ続ける。
目が合う度に。逢瀬を重ねる毎に。
恋をしたら、弱くなってしまうような気がして、怖かった。どうしても、怖かった。それなのに、杏奈はレインに恋をしてしまったのだ。
「杏奈、大丈夫? 疲れちゃったよね?」
しほが顔を覗きながら、尋ねてくれる。ぼんやりとしてしまっていたようだ。ああ、やっぱり、恐れていたことがおこってしまった。やはり自分は、恋をして、弱くなってしまったようだ。友達と一緒にいる時に彼のことを考えてしまうなんて。
きっと、心ここにあらずな状態になってしまったのは、彼が先ほど、目さえも合わせてくれなかったから。
情けない自分の心を振り払うように、首を振って言う。
「大丈夫。それに、ごめんね? 送ってもらっちゃって。後、店長さん大丈夫かしら?」
すると、しほが目を細めてとびきり可愛らしく笑う。しほの笑顔はまるで、花が咲くかのように明るく、周りを照らすのだ。
「大丈夫! 今日はね、ちょうどバイト先に遊びに行こうと思ってたの。店長きっとオレンジ買い直すだろうから、それ手伝おうかな!」
「悪いことをしたわ。私、オレンジの代金、払うわ」
「うーん、その時は私が払うわ。私、ちょうどオレンジケーキを焼きたいと思ってたの。あのオレンジ、商品にはできないけれど、私個人が使うにはちょうどいいでしょ?」
「でも……」
「だーいじょうぶだって。それに、もう時間が……!」
「あ、ほんとだわ。また連絡するわね!」
「うん」
しほの笑顔に癒され、気持ちを切り替える。
私は杏奈。私はモデル。
一人の女であることを忘れて、誰かの彼女である自分を忘れて、表情を作る。ただただ一人のカメラの前に立つものとして。極限まで美しく見えるように。どこまでも可憐に映るように。それでいて、ほんのり可愛らしさも残るように。
「いいね! じゃあ今度はこっちの青いのに着替えてきて」
「はい」
言われるがまま、ピンクのニットワンピから着替える。今度は白のセーターに青のショートパンツ。アクセントに柄物のマフラーを巻いて。
角度を変えて、何枚も、何枚も写真を撮ってもらう。
「うん! いいよ。今日、ノッてるね! じゃあ、次は赤のドレスで」
「はい」
シルクの生地のドレスに身を包み、花に囲まれて寝転がる。バラに埋め尽くされて、その香りに酔うかのように甘美に微笑む。ワインレッドの口紅に、強めに引いたアイライナー。妖艶な笑みが、決してそうは見えないのはドレスの光沢と、デザインのおかげ。
ドレスの型はアメリカンノースリーブと呼ばれるもので、背中はもちろん、首元までしっかりと覆いつくされている。さらに床に就くくらいに丈も長いので、足のつま先だって見えはしない。そして、同じ色合いで作られた二の腕まである手袋が、ノースリーブなのに肌を出させず、まるで自分が大切に守られている一凛の花であるかのように、錯覚させる。その華と化したドレスを纏う自分に降り注ぐライトの光が、シルクの光沢を上品に輝かすの。
ああ。赤で、妖艶だけれども、上品で清らか。
そのまま黄色い膝丈のフワリとしたデザインのドレスに黒いファーを纏ったり、シルバーのセクシーな太ももまでスリップの入ったドレスでターンしたり。何枚もの服を着て、ライトとシャッターを浴びて、撮影をこなしていく。
正面、右。少し斜め下。流し目で左。次はどっち、今度はそっち。
自分であるのに、まるで自分でないかのような感覚で、表情とポーズを作る。
私が主役だけど、私が主役ではない。これは服が主役なの。それで、このショットに憧れてくれた子たちがいつか、この服を着て、誰かの為に綺麗になって、本当の主役になるの。
ピンクに青に、赤に黄色。いいえ、シルバー。いいえ、黒。あれ……。
「今日はこれで終わり! 杏奈ちゃん、お疲れ様」
「お疲れ様です」
ふと、思う。私って、何色が好きだったっけ?
「わからないわ……」
帰り道の独り言が、誰に届くでもなく自分の心に返ってきた。
色どころではない。杏奈は自分自身に何度も問う。
何が好き?
モデルの仕事が好きなのか、母の残した女子大の運営に携わるのが好きなのか。
友達との時間は好き。勉強も好き。
なるべく、しほや萌咲と一緒にいたい。成績は落としたくない。
モデルの仕事がしたい。今度のファッションショーに出たい。
父を尊敬している。父は別の仕事もしているから、杏奈がいつの日か母の残した女子大を運営していきたい。
あれ、好きなものが選べない。
それじゃあ、誰が好き?
家族。友達。それから……。
そう思ってスマホを見ても、連絡なんてやっぱり来ていなくて。画面にポトリと一粒の涙が落ちる。
ああ、彼は誰が好き?
※連載期間終了の作品のため、公開を一部制限させて頂いております。
続きは本にてお楽しみ頂けます!
✲星のカケラ 7.7 七夕 リリース✲
特別ページはこちら
星のカケラ~カケラはやがて星になる~
※本来episode2.5がきますが、掲載終了につき、episode3をご案内させて頂いております。

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