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その手に触れられなくても~episode0.9①~世界の子どもシリーズ―過去編―

2023年5月24日

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その手に触れられなくても~episode0.9①~

 

 久方ぶりに天空城に颯爽とした風が吹き抜ける。その風に合わせてチェルシーの長い髪が揺れる。その髪に、チェルシーが手に持っている密書と同じように、一筋の希望となるかのような、風と共にやってきた花弁が引っ掛かる。

「……あちらは何と?」

 待ちきれないとでも言うように、カリバーンが自身の主に問う。
 チェルシーはカリバーンの方を向くでもなく、密書を食い入るように見つめたまま、声を出す。

「……目覚めたようだ」
「は?」
「……ネロが、目を覚ましたようだ」
「本当ですか!」

 チェルシーは密書をぐっと握りしめたまま、ようやくカリバーンの方を見て、ニヤリと笑う。

「聞いていた通り。カイネは海におる。あの時にカイネを海に連れて行ったのはアトラントの皇子じゃ。カイネの足が柱に挟まって抜けんのを、海側から助けてくれたようだ」
「そうですか……」

 チェルシーはカリバーンに向き直り、真剣な眼差しで言う。

「うむ。故に必ずや我らでカイネとアトラントの姫を見つけねばならん」
「はい……。ですが……」

 未だ、カイネはおろか、アトラントの姫の行方も手がかりさえも見つけられていない状態だ。
 チェルシーは黙ったまま、胡坐をかき直し、目を瞑ると、いつものように氣を巡らせてカイネのエネルギーを探る。

「微かには反応するのだ。それなのに、なぜ、こんなにみつからん? 最近、人魚は海に籠もりがちで、めっきり岸にも姿を現さん」
「そうですね。海の中を探すといっても、そんなすぐには見つかりませんね」
「……そうじゃのう。はよう、阿保な人魚たちを見つけたいものじゃ」

 チェルシーの焦りの滲む声にカリバーンは黙って頷いた。

 時空と次元を繋いでいたあの時は、各国の者が行き交っている状態だった。もちろん、アヴァロンの者もムーの者も。
 けれど、あの波の日を境に、各国の交流は閉ざされてしまった。皆、それぞれの移住先の星へと向かい、ここに残ったのは中立都市サンムーンと、海へと還ったアトランティスとレムリアのみ。

 かつて、レムリアの女王とカイネはとても親しかった。故に、すぐにカイネがみつからずとも、レムリアの海域内にいるのならと、心のどこかで安心していた。
 けれども、噂が出始めた頃から不穏な動きが目立ち始め、女王が正式に声明文を出すこととなった今、レムリアはもはやカイネたちの敵といっても過言ではなかった。

 今、カイネの母国ムーの者も、ネロのいるアヴァロンの者も、誰もが動けない。
 そして、ここ最近、あの波の時に結んだ平和条約を不自然に抜ける国が後を絶たない。
 友を救うために動けるのは、レムリアの上空に位置し、アヴァロンと親交も深く、独立した民族である故に中立をうたうことのできるチェルシーのみなのだ。

 チェルシーの肩に凄まじい重圧がのしかかる。

 あの時、カイネを助けたのはアトラントの皇子。そのアトラントの民が、理不尽な目にあい、あの時、皆を助けるために動いたカイネとネロが、何も悪いことをしていないのに、窮地に立たされている。そして、あの時、チェルシーは間に合わなかった。そらだって飛べるのに、何もできなかったのだ。友も民も、多くをこの手から零れ落ちぬよう、守りたかったのに、それができなかった。

 何のために強くなり、何のために強くあろうとし、何のために王として生きているのか。

「こんな、理不尽なことが、許されてたまるものか」

 ボソリとチェルシーが呟く。

「……はい」

 カリバーンに向かい、小さく悲し気な笑みを浮かべる。

「大嫌いだ。……我は、弱い自分が、大嫌いだ。我の思う正義が貫けぬのは……大切な者たちが苦しめられるのは、大嫌いだ」

 そんなチェルシーの声をかき消すかのように、また天空城に風が吹き荒れ、今度は張りつめた空気が流れる。

「……来ましたね」
「……ふん」

 すばやく密書を懐にしまい、チェルシーは胡坐を立て、わざとらしくひじ掛けに手を付き、威嚇するような気を背後に向けて放つ。

「……女王陛下より、密書を預かって参りました」

 その圧倒的な覇気に臆することなく、また、倒れることもなく、その使者は平然と歩み寄ってくる。

「……ふん。その密書を、我にどうしろと?」

 相手が全く動じず、倒れぬことで、さらにチェルシーは放つ気を強め、カリバーンは天空城中の者に、龍族にしか分からぬ氣を巡らせ伝える。構えろと。

 しかし、チェルシーの威嚇にもカリバーンの殺気にもビクともせず、その使者はチェルシーの前へと走り出る。

 カリバーンがすぐさまその者の肩を強く握り抑えるも、振り切られてしまう。カリバーンとチェルシーの両者が慌てて自身の剣の柄に手をかけたところで、使者は玉座に腰掛けるチェルシーの真ん前まで出ると、いきなり膝をつく。そして中腰の状態で左足を立て、自身の左手と右手をしっかりと握る形できつく結ぶと、その結んだ手を額に押し当て、頭を下げて礼をする。

 その礼と共に、男の緩くくせ毛の混じった髪が、色を変えていく。淡い水色に、一筋のピンクのメッシュ。それらがみるみると、黒に変わっていくのだ。

「……っつ、主!」
「この日を待ち望んでおりました。テト=セオルド=レレリアントと申します。龍騎姫チェルシー様、どうかお助け願います」

 カリバーンの制止さえも振り切るほどの力の者が、精霊郷せいれいきょうの正式な礼を取り、チェルシーへと助けを願い出たのだ。それも、わざわざ正式名を名乗って。

「……まさか……」

 使者の男は手を結んだまま、ゆっくりと頭をあげ、真剣な眼差しで、言う。

「精霊郷より、あの波の日から海に潜伏しておりました。女王の信頼を得て、ここまで辿り着くのに長い歳月を要してしまいました。カイネは無事です。どうか、お助けください。私たちが信頼できるのは、アヴァロンと親しき、龍族の姫しかおりません。お願い致します」

 カイネの名前を聞き、チェルシーがぐっと喉を詰まらせる。

「……っぐ。あの、阿呆め。無事だったか……」

 このチェルシーの一言に、カリバーンを始め、天空城中の龍が、警戒を解く。

「ですが……手放しに無事とは、言えない状態です」

 テトが唇を噛み締めながら絞り出した言葉に反応し、チェルシーが詰め寄るようにして、声を荒げる。

「どういうことだ!? 怪我でもしておるのか?!」

 カリバーンがテトの肩に再び触れ、礼を解くように無言で言うも、テトは首をふり、膝を立て、手をきつく結んだままの姿勢を貫く。
 あくまでも、害をなす気はないと、チェルシーの前ではこの姿勢を崩さないつもりなのだろう。再び結んだ状態の手を額へとつけ、頭を下げて、テトは続ける。

「……大きな怪我はしておりません。ですが、色を封じられております。そのため、記憶がなく、また力が安定しないのか、数年程、海の中で眠っておりました」
「何!? 眠っておったのか。どうりで見つからなんだ訳だ!」
「レムリアの……女の園に入れられておりますので、私ではあまり近づくことができません。そして、先日まで、私は戦に駆り出されておりましたので、近況が直接は分からないのですが……」
「ふむ」

 テトがさらに唇を噛み締めながら、言う。

「……もう一人、潜伏している者がおります。その者の話では、今、カイネはいじめられておりまして……」
「うん!?」

 急に話が飛び、訳が分からないというようなチェルシーに、テトが言う。

「実は……カイネの色は、緑です。龍騎姫ならばご存じかと思いますが、レムリアでは成人と共に色別式にて色と力を授けられます。階級は、ピンク、黄色、青の順で、色が濃ければ濃いほど、良いとされております」
「う、うむ……だが、なぜ、緑なのだ? ピンクを封じられても、あれは黄色でも青でも十分に力をもっておろうが……」
「そ、その……最初にカイネを見つけたのは私だったのですが……女の園での力の色別式でしたので……私からは……色の階級の説明が……できず……」
「ほう」
「……後で聞いたことによると、どうやら本来の色のピンクを封じられて、他の色では少し足りなかったようで、髪の右半分が黄色、左半分が青になったようで……」
「……? うむ。それでも十分に濃い色で、あれならば良い階級をもらえるだろう?」

 テトが、ついに溜息を漏らして言う。

「……半々が嫌だったようで、その。勝手に自分で色を混ぜたみたいなのです。黄色と青を」
「……は? そんなこと勝手にしよったのか。というか、そんな力、色別式の後でどこに残っとるんじゃ……」

 さらにテトが溜息をつきながら、言う。

「はい。どうやら、色の階級を理解していなかったようで……。まさか色を自分で混ぜるなんて……予想外のことで、止めることができませんでした」
「う、うむ。普通そんなことできんし、そもそも色別式の前に階級くらい、確認するだろうのう……」
「はい……。流石に分かるだろうと、事前に色の説明をしなかった自分のミスです……。それで……黄色も青も色自体は濃かったので、混ぜたことでそれは濃い緑となりまして……」
「まあ、そうであろうな」
「……階級にない色であることに加え、色が美しくないと……どの階級よりもさらに下の、階級なしに指定されまして……」
「ぬ??」
「結論を言うと、ひとり緑で……怪我をするくらいに……いじめられております」

 そう言ったテトの目は殺気に満ち溢れていた。
 けれども、テトは一切、礼は解かずにおり、その殺気がチェルシーや龍族の者に向けたものではないことが一目瞭然であった。その瞳を見て、どれほどのいじめが起こっているのかを、チェルシーは悟る。

 ぐっと姿勢を正し、チェルシーはテトに向き直って真剣な表情で言う。

「……そうか。気づくのが遅くなってしまって、すまぬ」
「……いえ。私もこちらまで来るのに時間がかかってしまいました」
「いや、よいのだ。まさか、精霊郷から水の精が潜伏していたとは……」

 その言葉に、テトは少し悩みながらも、付け加える。

「……いいえ。私は水の精では……。加護は頂戴しましたが……」
「ん? では、主は一体……」

 テトはまた頭を下げて、続ける。

「カイネと対の力を持ちます。故に、変化魔法と水の精の加護を用いて、アトランティス側へと繋がる陸での戦場で戦士として潜伏しておりました」
「……なるほど。カイネと対の力か……道理でカリバーンの制止も振り払える訳じゃ」

 テトは顔色ひとつ変えず、黙っている。

「して、戦に出ておるとか……海の中はどうなっておる?」
「はい。アトランティスとは不可侵条約中ですが、レムリアは今、他の4つの海域を手中に収めました。私は此度の戦で戦果をあげましたので、ようやくあいつの……女王の側近に……」

 その先はあえて言わなかったものの、チェルシーでもブルリと震えるほどの殺気がテトから漏れ、どれほどの感情を抑えて女王の側近を耐えているのかが、窺えた。

「……テトと、言ったかの……。よう慣れぬ海の中、カイネを守ってくれておったのう」
「……いえ。今は側近として動いているので、守ることができない。それに、間に合わず……怪我を……させてしまいましたし……カイネに記憶は……ないので」

 その言葉にチェルシーは、寂し気に睫毛を伏せ、言う。

「辛かったろう。……そんなに記憶がないのか。ではきっと、我のことも、分からぬのであろうな……」
「…………」

 気を取り直すかのように、チェルシーが明るく言う。

「だが、大丈夫じゃ。ちょうどな、ネロも目を覚ました。カイネの居場所も分かったことだし……」

 ずっと礼を崩さなかったテトが、その言葉を聞き、ついに結んでいた手を解いて、顔をあげる。その瞳は驚いたかのように、見開いたまま揺れ動き、口をポカンと開けていた。

「ネロが……? では、今まで……迎えに来なかったのではなく……眠ってたのですか?」
「ぬ? ……ああ。そうなのじゃ」

 テトはぐっと眉を顰め、静かに、言う。

「そう……ですか。ネロが迎えに……」

 チェルシーはニッと冗談っぽく笑いながら、言う。

「そうじゃ。これで、主も少しは休めよう。カイネの世話は大変だったじゃろう」

 けれど、ずっと無表情か殺気を放つだけであったテトが、突然、とても優しく笑う。

「いいえ」

 その言葉と表情に、チェルシーは驚き、思わず声を漏らす。

「……主、もしや」

 それを遮るように、テトが今度は冗談っぽく笑いながら言う。

「……ですが、報告書の数が多すぎて、困っています」

 その言葉にチェルシーは思わず吹き出す。

「ははは。カイネに報告書はつきものだからなぁ」
「……私は王族ではありませんので、全ては知りませんが、想像はつきます」
「うむ。大量にあるぞ。家出事件が2回に、教会事件に、闘技場事件に……ああでも、助けてもろうたことも沢山ある。獣人との揉め事に、あの式典での星詠みの件……ん? 待てよ、美術館事件とお見合い事件もあったのう……」
「あー、いくつか分かります。それ以外にも、精霊郷の方でもたくさんありますね……」
「……そうか」
「はい……」

 チェルシーがまた、ふっと笑う。

「あれがおらねば、どこも静かで面白うないからのう」
「……そうですね。海で一緒に過ごす時間は、カイネに記憶がなくとも、楽しいものでした」

 テトが切なげに呟くのを、そっと笑って、チェルシーがあえて言う。

「そうそう。これは精霊郷の者は知らんじゃろう。ネロが一番手を焼いた報告書がな、我ら龍族との親善試合のはし……」

 そう言いかけて、チェルシーが止まる。

「如何致しました?」

 ずっと静かに笑って聞いていたカリバーンが、チェルシーの只ならぬ様子に、前に出る。

「もう一人、来る」

 それに合わせて、テトがはっと目を丸くし、カリバーンがすぐさま警戒を戻す。

「本当ですね。レムリアからだ。かなりのスピードで近づいてくる!」

 カリバーンの声に合わせて、他の龍族の者がすぐさま厳戒態勢に入る。明らかに、近づいてくる者から殺気が感じられるのだ。

 すると、テトが声を荒げる。

「くそっつ。もっと先だと言っていたのに! こんなに早く次の使者を送るなんて」
「どういうことだ?」
「……リギと……。いえ、カイネが女の園に入園するまでと、入園してから私が戦場へ行くまでの間は、仲が良かったので。私は陸に耐性があるので、側近になればいつか天空城に来れる機会もあるかと思い……何とか戦果をあげて側近にしてもらいましたが、まだ信頼はされていなかったようです」
「ほう……」
「今は女王が、率先してカイネのいじめを煽っていて、カイネがひとりになるように、彼女と親しき者に不当な仕事を押し付けて引き離す動きが……。最近の女王は様子がおかしい。何人かの男が群れて、心酔しきって、操り人形状態」

 テトはギリッと唇を噛み締めるも、殺気をぐっと押し込め、髪の色を水色とピンクのメッシュに戻していく。次の使者に悟られぬようにだろう。

「して、主が来てすぐに、次の使者がくるとは何事じゃ? 理由なく天空城には近よれまい」

 テトは殺気を押しとどめたまま、目に怒りを滲ませて、低い声色で言う。

「私の密書は波の時の真相という嘘ばかりの声明文。これら声明文を龍族の方に、各国に届けるようにとの、女王の命になります」
「ふん。我らは別にレムリアの者ではない。我らは天空城の龍族だ。天空城がレムリアの上にあるのをいいことに、あの女王は我らをことあるごとに使おうとする」

 今度はカリバーンが慌てて問う。

「スピードを上げています。次の使者は何の用事で来るのですか? 殺気がすごい」

 テトが眼光を鋭くして、低い声で言う。

「次の……戦への、龍族への出陣要請です。次は、海ではなく……そらにでます」

 その言葉に、チェルシーが再びビリビリとした気を放ちだす。

「ほう。して、攻める先は……?」
「……ムーです」

 天空城中に、ひんやりとした冷気が漂い、チェルシーの身体から、紅(くれない)色のエネルギーが漏れ始める。
 そして、怒り狂ったように瞳孔の開ききった瞳を揺らしながら、低く、唸るように、言う。

「あの、クソアマめ」

 カリバーンさえも殺気を漏らし、天空城中の誰もが、いつもならば宥(なだ)める城主の怒りをもはや抑えろとは言わなかった。

「……ついに、血迷いましたか」

 怒りの滲んだ瞳のまま、テトが続ける。

「正式に各国に声明文を出した上で、レムリアが中心となって、ムーを攻めにいくようです」
「……波で陸を失った故に、他の国の星から奪うということか。愚かな」
「恐らく。本当に反吐がでる。あの忌々しい女に一分一秒だって、近寄りたくもない。あいつは、本当に不快なエネルギーを放つ。おまけに、カイネに……いえ、すみません」
「よい。カイネと脱出するためとはいえ、ようそこまでの殺気を抑えてあの女の側近を耐えておる」

 チラリとチェルシーは天空城の外を見て、何かを考えた後に、カリバーンに問う。

「あと何分でくる?」
「……10分もないかと……」

 チェルシーは目を瞑り、じっと考える。

 ここでレムリアがムーに攻め入れば、宇宙中での大戦争となるだろう。カイネの母国が危うくなれば、ここからカイネを助け出しても意味がない。そして、ムーが攻め入られた後は、次の標的となるのは恐らく、アヴァロンだ。

 どのみち、カイネとネロの大切な国や民がまた、女王によって奪われることになる。このままでは。

 出陣要請にはもちろん、応じるつもりはない。
 けれど、今、この出陣要請を断れば、チェルシーたちは確実に謀反を疑われ、龍族とレムリアの女王との戦になりかねない。そうなれば、龍族との盟約のある竜族が担ぎ出され、必然的にレムリアとアヴァロンとの戦になってしまう。
 その場合、攻める順がアヴァロンとムー、入れ替わるだけだ。
 出陣要請を断っても、断らずとも戦になる。そうとなれば、アヴァロンにつくが、今のカイネはいわば人質状態。さらに、ネロは病み上がり。アトラントの民のこともある……。

「……どうする。戦ってはならぬ。だが……」

 目を開けると、同じように考え込むテトの姿がチェルシーの視界に映りこむ。カイネと対の力を持っているからか、それとも長らく一緒に過ごしていたからか。腕を組み、片手の拳を顎に添えて悩む仕草がそっくりだった。

 それをみて、つい先ほどまでテトと話していたカイネの事件の数々を思い出す。

「それじゃ……! 勝負はせねばらぬが、戦ってはならぬのじゃ」

 チェルシーのその言葉に、カリバーンとテトが顔をあげる。チェルシーが大きく目を見開き、興奮気味に、言う。

「禁じ手を使う!」
「は?」

 また何を言い出すのか、という顔をしているカリバーンにビシッと指をさして、チェルシーが叫ぶ。

「例の、菊柄の着物を持ってこい!!!!!!」
「ええーーーっ!!!???」

 叫ぶカリバーンと、訝(いぶか)しげにこちらをみるテトに向かって、チェルシーはニヤリと笑う。

「戦はせぬ。故に勝敗は決めさせん。だが、この勝負には勝つ」
「……どういうことですか?」

 戸惑うテトと、慌てて着物を取りに行くカリバーンに、自信満々にチェルシーが言う。

「カイネを救出するのじゃから、カイネ方式で行く!」
「はい……?」
「あの時の親善試合じゃ! ふははははっつ。ここは派手に事件を起こそうじゃないか」

 

 

その手に触れられなくてもepisode0.9➁

 

 

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