オリジナル小説

まわる、コーヒーカップ―旋―

2023年6月9日

スポンサーリンク

まわる、コーヒーカップ―旋―

 

※一話完結「めぐる、メリーゴーランド―螺―」と対の物語になります。まだそちらをお読みでない方は、―螺―からお読みくださることをお勧めします!

「めぐる、メリーゴーランド―螺―」はこちらから

 

『ここは運命の螺旋階段。登りついたその先に、あなたの人生みちがあります』

 

 通された扉の向こうに、仄暗い一本の道が続いている。
 その道の奥にある、ひとつの螺旋階段が目に飛び込んでくる――……。

 その螺旋階段はすごく楽しそうで、輝いて見えて、真っすぐにそこに走っていく。

 絶対に、あの螺旋階段に一番にたどり着いて、駆け巡ってみせる。

 ある人はまだ道にいて。
 ある人は螺旋階段の前に立ち止まって。
 ある人は少し登って途中で引き返し、別の螺旋階段を選んではまた、登っていく。

 どうしてみんな、すぐに登らないんだ?

 正直、意味が分からない。
 何に迷っているんだろう。

 俺はあの螺旋階段以外は絶対に嫌だ。

 無中 夢中 無我夢中

 こんなに綺麗な螺旋階段、他にはない。
 ずっと真っすぐにこの道を走っているけれど、誰も前にはいないけれど、あの螺旋階段が獲られないか心配で仕方がなかった。

 急ぐ 忙ぐ 螺旋階段へ

「よし、一番だ」

 まだ誰も辿り着いていない螺旋階段に、一番に登る。
 ああ、自分だけの螺旋階段。
 誰にも続いてほしくないから、誰にも追いつかれたくないから、すぐにこれは自分の螺旋階段だって分かるように濃く、強く、黄色に光らせて、階段を走っていく。

 走る 奔る 螺旋階段

 そして、かなり階段を駆け登ったところで気づく。
 ようやく周りも螺旋階段を決め始めたことに。

 ある人は誰かと一緒に二人で登っていて。
 ある人は階段の途中で誰かが待っていて。
 ある人は階段の下から誰かが追いかけてくるみたいだった。

 巡る 廻る めぐっていく

 今まで周りを見る暇もなく走っていたけれど、自分はかなり人より進めているみたいだ。
 絶対に自分だけの螺旋階段にしたかったんだ。
 きっと、このスピードなら誰に追いつかれることもない。

 勝ち獲る 価値採る 自分だけの螺旋階段

 そして、ひたすらに走り抜けて気づく。
 かなり上の方まで登ってきたからか、この辺りはすごく冷える。

 寒くない 寂くない だって走ってて暑いから

 周りの螺旋階段なんて見ない、見る必要がない。
 だって自分の螺旋階段が光っていればそれでいいのだから。

 昇る 登る 螺旋階段

 そして、ひたすらに登って、光を浴びる。
 ライトが真正面に当たって、すごく眩しい。

 浴びる 媚びる スポットライト

 すごいだろ?
 独りで登って、独りで惹からせたんだ。
 自分だけの螺旋階段。

 みんな、こんなに光らせれないだろう?

 見ない 観ない 本当の気持ち

 そしたらライトがずっと照らすから。
 休み方が分からなくなってくる。

 寒くならないようずっと走ってきたから。
 止まり方が分からなくなる。

 廻る 回る 螺旋階段

 だって、これが自分だけの螺旋階段だから。

 見たくない 観たくない 他の螺旋階段

 だって、独りだって認めたくないから。
 満足していない自分を知りたくない。

 止まれない 停まれない 螺旋階段

 そしたら誰のことも見ないようにしていたのに、道の向こう側であまりにも何かが眩く光るものだから、つい、目を止めてしまう。
 かなり上の方まで登ってきてしまったから、逆に遠くの方まで見えるようになってたみたいなんだ。
 道のずっと向こうの方だから、表情は見えなかったけど、その眩しさは自分と同じ黄色の光。

 同じ 同じ 同じ色

 あれほどまでに自分だけの螺旋階段に拘っていたのに、すごく知りたくなる。
 あの光の主なら、この螺旋階段をどんな風に光らせる?

 気になる 奇になる 光の主

 ずっと登っていたら、少しばかりよそ見をしていても足が自然と進むくらいにはこの螺旋階段に慣れてきてしまったから。

 追う 往う 光の変化

 そうして気づく。
 真っ先に螺旋階段を決めた自分は、すぐに登らない人の気持ちが分からなかったけれど、あの光の主はたくさんがみえるから迷うんだと。

 変わる 換わる 光の色

 ある時はピンクに光って。
 ある時はオレンジに光って。
 ある時は赤と青を同時に光らせて、紫に魅せる。

 焦る 褪せる 違う色

 ずっと黄色だったのに、どうして違う色を光らせるんだよ。
 なんで黄色のままに、この螺旋階段を選んでくれなかったんだ。

 拗ねる 素寝る すねる心

 別にずっと自分だけの螺旋階段だったから。
 これからもずっと、そのつもりだし、関係ないけどさ。

 そうしたら光の主は道の真ん中にしゃがみ込んで、光を隠そうとする。
 それでも、隠しきれない色がひとつ。
 
 黄色く、強く、光ってる。

「あきらめないで」

 漏れる 守れる 自分の本音

 かなり上の方にいたから誰も自分がよそ見してたなんて思いもしなくて。
 何処から声が出たかなんて闇の中。

 見せない 深せない 声の出どころ

 でも光の主はたくさんがみえるから。
 何処かから声がしたのは気づいたみたいだった。

 見つけて 実つけて ここまで来てほしい

 そうしたら、しゃがみこんだ位置からしっかりと上を見上げて、光の主は探し出す。
 たくさんの色を持つ光の主は、たくさんの色を知っているから。
 色眼鏡で物事をみず、素直に声を探し始める。

 だけどやっぱり色をたくさん持つから悩むらしい。

 廻る 周る 右往左往

 じれったくて仕方がない。
 声を出したくても、これ以上は声が出せない。
 だって、声の出どころがバレたらダメだから。

 ピンクに赤に。黄、色々

 この辺りの螺旋階段を、色を変えながら、光の主は行ったり来たり。

 それで上の方にいると、同じように上の方にいる奴の表情がよく見えるんだ。

 あいつは危険、こいつも危険。
 そいつなんて、もっと危険。

 声を出さずに辛抱強く、光の主が螺旋階段を選ぶのを待つ。
 他の危険な奴の目を逸らすため、自分の螺旋階段の上の方を濃く、強く、光らせて。

 決めろ 極めろ 今のうちに

 それなのに光の主は俯いてしまって。
 表情は見えないけれど、その姿は泣いているよう。

 泣くな 無くな 光を失くすな

 時間を作ったつもりだったけれど、かえってそれがよくなかったのだろうか。
 光の主は一人がいやそうで、螺旋階段を選ぶのをやめてしまいそうだった。

 危険な奴の目を逸らせたけれど、光の主の目にも涙を滲ませてしまったようだ。

 後悔 黄海 涙の海で溺れそう

「私の好きな、きいろいろの螺旋階段」

 けれど、光の主は涙までも光らせる。
 突然に黄色の螺旋階段を選んだかと思えば、ずっと歩いていたのに、階段をいきなり駆け巡りだす。

 予想外 余所迂回 嬉しい誤算

 誰にも目を付けられないよう、一人にしてしまったけど。
 その代わりに光の主は自由を得て、走り出した。

 自由 じゆう 黄、色々

 知らなかった、螺旋階段はこんな風にも光るんだ。
 光の主は思いがけない方法でひたすらに階段を光らせる。

 けれど、こんなに光っているのに、自分で自分の光と快走には気づかないらしい。
 光の主は不安げに立ち止まる。

「あきらめないで」

 零れ出る 孤惚れ出る 声と笑み

 螺旋階段の内側からそっと覗き見る。
 そしたら偶然にも光の主もこちらを見上げていて、ドキリとする。
 離れていて表情はよく見えなかったけど、小さく頷いてくれたのが分かって、嬉しくなる。

 一人じゃない 独りじゃない 螺旋階段

 誰かが追いかけてくる螺旋階段はたくさんを与えてくれる。
 黄色の中でも色味が人によって少しずつ違うことを知った。
 一人でも出来ることと、独りじゃできないこととの違いを得た。

 けれど声と笑みまで漏らしてしまったから、また危険な奴らが君に目を向ける。

 停まれない 止まれない 螺旋階段

 お前たちの相手は俺がしてやる。

 濃く光らす 強く光らす 螺旋階段の上の方

 ああ、よそ見がしたい。声が出したい。止まりたい。

 けれど、待つことが許されないから。
 みんなに向けて、白い箱を置く。

 だって、この辺りは寒かったから。

『ご自由にどうぞ』

 自分の跡を追うのは光の主だけ。
 毛布を贈りたいんだ。

 冷えてない 非得ひえてない 君は温かいよ

 そしたら今度は光の主がライトの位置に差し掛かる。

 ああ、よそ見がしたい。声が出したい。止まりたい。

 けれど、待つことは赦されないから。
 みんなに向けて、白い箱を置く。

 だって、光の主に媚びさせたくない。

『ご自由にどうぞ』

 自分の跡を追えるのは光の主だけ。
 本当は大きな物を贈りたいけど、必要なのはサングラスだから。
 大きな箱に入れて、贈るよ。

 あの時本当は、自分はライトが眩しすぎて困ってたから。

 眩しくない 間不まぶしくない いつだって本当は光を浴びているから

 けれどどれだけ大切に想っても、自分からの贈り物とは気づいてもらえなくて。
 いつしか心にぽっかりと穴があく。

 置けない 応気ない 贈り物

 本当は自分からの贈り物だと気づいてほしい。
 喜んで、自分をもっと、意識してほしい。

 色眼鏡で物事をみない光の主だから守りたいのに、自分のことだけ特別な色眼鏡でみてほしい。
 たくさんみえる光の主なら、また気づいてくれるかなって、願ってしまっていた。

 視えない 診得ない 君の心

 この辺りは安心して進めるところだから、箱を置く理由がない。
 箱が置けぬまま、時間だけが過ぎて行く。

 そうして気づく。
 いつの間にか光の主の足が止まっていることに。

 ずっと休まず登ってきたから、足が、痛いんだろうか。

 急いで箱を届けたいから、気づいてくれるよう、わざと箱を転がす。
 絆創膏の入ったすごく小さな白い箱。

『ご自由にどうぞ』

 けれど、光の主は箱の中身を見て、ツンとそっぽ向いて、それを使わずにまた登りだす。

 堪らない 貯まらない その反抗

 箱を転がす時に盗み見た光の主の言動は、自分の心を掴んで離さなかった。

 光の主はいつも周りをよくみるし、螺旋階段を内側から確認するけれど。
 螺旋階段の外側から、どう見えているのかを確認し忘れる。

 だから周りと本人にバレないよう、いつも外側から確認してる。

 常に光の主は螺旋階段を巡っていて。
 いつも光の主は笑顔で廻っている。

 けれど、いつも笑顔の光の主が、立ち止まった時に垣間見せたあの表情は、しんしんがブレなくて、もっと家側うちがわからみたいと思うようになる。

 独占欲 退く栓抑 好意と厚意が揺れ動く

 本当は家側うちがわから光の主を守れる自分になりたい。
 けれどまだ、周りに危険な奴らがいるから、余所側そとがわから動ける自分を保つしかない。

 敵の気を弾きたい 君の気を惹きたい だから白い箱を置く

 内側からみて光の主に、外側からみてみんなへの贈り物にみえるように。

『ご自由にどうぞ』

 だって、自分の跡を追い続けられるのは光の主だけだから。
 けれどどうとう、光の主は箱に触れもしてくれなくなる。

 箱に触れてほしい 心が振れてほしい 君から俺に

 箱をそのままにして、光の主は一人でも平気そうに、螺旋階段を登っていく。

 くるくると廻るように。
 くるくると巡るように。

 そしてついに敵の気を退かせた時に、慌てて一緒に登りたいと光の主を待つ準備をはじめ、気づく。

 ピンク色の螺旋階段の上で、光の主を待っている奴が他にもいることに。
 ああ、あいつは危険じゃない。

 そして、悔しくなる。
 あいつが螺旋階段の上の方までずっと、階段をピンクに光らせていなかったのは、光の主の色を損なわせないため。
 光の主の黄色を、ピンクに染めてしまわぬよう、二色保てる頃合いまで見守ってたんだ。

 俺が今、光の主の手を引いたらどうなる?

 光の主は黄色を軸に、くるくると色んな色を巡らせる。
 光の主の黄色の周りを、くるくると色んな色が廻る。

 きっと自分が一緒に登ったら、黄色が濃くなって、他の色が褪せてしまう。

 待ちたい 先知まちたい 君のこと
 けど、守りたい 護りたい 君の色

 俺は黄色。君は黄、色々。

 だから、待たずに進むことにする。

 のろり 乗ろり 形だけ

 だけど追いかけてほしいから、白い箱を置く。

『ご自由にどうぞ』

 技とわざと 業とわざと えるよう

 くるくる周る 螺旋階段 止まれない
 くるくる廻る 螺旋階段 独りきり

 それはまるで、遊園地のコーヒーカップのよう。

 一度高速で回したら、しばらくは止まれない。
 最初にカップに一緒に乗らなければ、止まるまでは独りきり。

 ならいっそ、回りすぎて、酔わせてくれよ。

 くるくると周るから、目が廻って、何も見えない。
 くるくると廻るから、感覚が狂って、一歩も動けない。

 君に酔って、もう君しか、見えない。
 コーヒーカップに酔って、君が来るまで、動けない。

 理由を作って、どうしても、待ちたい。

 だから、丁寧に登ることに決める。

 一段、また一段。
 階段の幅が狭くなってきたから、床を補強する。

 一段、また一段。
 階段の幅が狭いと危ないから、手すりを強化する。

 頂きで待つよ。
 全ての色を輝かせて、螺旋階段を完全に決めたその先を、一緒に進めるように。

 頂上を快適にしておく。
 てっぺんでゆっくりできる方が楽しいから。

 ゆっくりした先、安全に進めるよう、余裕を作っておく。
 登りより下りの方が楽だけど怖いから、しっかり手を繋いで進めるように。

 決めてる 決めてる 二人の待ち合わせ場所

 一段、また一段。
 階段の幅は狭くなる一方だから、滑り止めを付ける。

 一段、また一段。
 階段の幅が狭いと一人の方が進みやすいから、道標に赤い糸を用意する。

 踏みしめて ふみしめて 君の自分だけの螺旋階段

 そうしたらやっぱり、ピンク色の螺旋階段のあいつが声をかけるんだ。
 それで、あいつは危険じゃないから、自分には止める資格がない。

 サングラス以来、箱の中身を受け取ってくれることはもうなかった。
 専用だけど、宣用せんようじゃないから。

 だけどあいつは、専用だと宣言して君の橋を用意している。

 焦る 褪せる 黄色があせる

 本当は知っている、君は独りじゃない。
 本当は知っている、君はピンクの色の光も強い。

 揺れる 幽れる 視界と決意

 涙でもう、全ての色がみえなくなった。

 叫びたい。
 引き止めたい。

 どうせ最後なら、この登りきった階段を駆け降りたっていいんじゃないだろうか。
 嫌われてでも、完全に黄色に染めてしまってでも。

 どうしても君が、欲しくなってしまう。

 階段を駆け降りようとしたその時、君が気づく。
 滑り止めに。

 それ、俺が用意したんだ。
 君しか歩かない階段だから、君専用だよ。

 やっと、宣言できる。
 俺から君のために、用意したんだ。

 巡る 廻る 想いがめぐる

 やっぱり光の主はたくさんがみえるんだ。
 ちゃんと気づいてくれたんだ。

 そしたら光の主が言う。

「私、きいろいろが好きなの」

 ズルい ずるい 狡すぎる

 そこは俺が好きだって言ってくれるところじゃない?

 けれど、構うことなく、また一層強く、光の主は螺旋階段を光らせる。

 黄、色々。

 きいろいろ

 黄色を軸に、ピンクや赤。
 今度は赤に青を重ねて紫に。
 たくさんの色を黄色の周りに輝かせていく。

 君は知らない。
 でも、周りは君をみて知る。

 高いところより、強い輝きの方が、時に目立つということを。

 色は一色の方が分かりやすい。
 だって、色をたくさん持つと、気づいてもらえにくいから。
 でもその代わり、色をたくさんもつと、周りのたくさんの色に気づくことができるんだ。

 だから君はたくさんがみえる。
 だからめたらたくさんが光る。

 同じ 同じ 君と同じ

 俺は黄色。君は黄、色々。

 同じなのは色じゃなくて、二人の気持ち。

 許してほしい 赦してほしい 一人で登らせたこと

 だって、君の色が好きだったんだ。

 きいろいろ

 試す 験す その気持ち

 ほら、ピンク色も好きなんでしょ?
 今度はピンクの箱を置く。

 開かす 明かす 自分の気持ち

 開けて 明けて 箱の蓋

 掬べ 結べ 赤い糸

 黄実きみは巡る 廻る 駆けめぐる

 愛してるんだ 運命の人

 引き寄せる 惹き酔せる 黄実きみのこと

 頂く 戴く 黄実きみ未知みち

 

まわる、コーヒーカップ―旋―

Fin

 

めぐる、メリーゴーランド × まわる、コーヒーカップ= 螺旋

 

きいろいろ

黄、色々

黄、色彩

 

世界の子どもシリーズ

フィフィの物語

はるぽの物語図鑑

-オリジナル小説
-, , , ,

© 2024 はるぽの和み書房